168.会話 フォンデュとかファウンテンの話
本日もこんばんは。
「フォンデュはわかるけど、ファウンテンってなんぞや?」という方へ。
調べる際は「チョコレートファウンテン」でお調べください。「ファウンテン」のみだとめちゃくちゃ噴水の画像が出てきます。噴水の方じゃないです。チョコの方です。
「なんですかこの食欲と好奇心を横からも上からもくすぐるような物体は!」
「すてきなリアクションありがとうございます。ご用意したかいがありました。これは、フォンデュファウンテンです」
「ふぉんでゅふぁうんてん……とは……。よくわかりませんが、食べ物ですよね?」
「器械の名前ですよ。これを使っていただくのはチョコレートファウンテン、こっちの鍋でいただくのはチーズフォンデュです」
「なんでしょうね。このわくわくは」
「ふっふっふ……。お肉に野菜、果物にパン、お菓子や海鮮など、とりあえず片っ端から買ってきました。思いのままにつけて食べてくださいね」
「豪華ですね。どうしたんですか? いいことでもありました?」
「どうもしませんよ。勇者さんと一緒にいる日々は、ぼくにとって一日一日が大切というだけです。なんでもない日であり、なんでもなくない日なのです。つまり、毎日にいいことがあります。はっぴー!」
「よかったですね。食べていいですか?」
「たんとお食べください。チーズはあっつあつなのでお気をつけて。チョコレートはデザートのつもりですが、いつ食べても構いませんよ」
「チーズは鍋なんですね。このふぁうんなんとかは使わないんですか?」
「温め直すのにお鍋がちょうどいいのです。そして、こうしたお鍋料理のことをフォンデュというのですよ」
「いつ使うのかわからない知識が増えていく。知識でお腹はたまりませんよ」
「へぇ~と思うくらいでいいですよ。ぼくだって、勇者さんとおしゃべりするために仕入れているだけですからね」
「へぇー」
「食べる時はこちらのピックを使ってみてください。気分があがりますよ」
「ごちそうを目の前にして、もうじゅうぶんあがっていますけどね。ピックですか。なんだか、目潰しがしやすそうな形をしていますね」
「トマトフォンデュになるのでやめてくださいね……」
「ミニトマトをチーズに……っと。わぉ……これは美味……」
「あつあつ、とろとろのチーズってだけで箸が止まりませんねぇ。あ、ピックが止まりませんでした!」
「チーズとチョコを交互に食べるのも、罪深い味がします。おいしいだけじゃなく、楽しいですね」
「奮発してよかったです。ぼくお財布も喜んでいますよ」
「かなり満足感のある料理ですけど、最初に考えたひとは何を思ったんでしょうか」
「何を……とは? あ、クラッカーの塩味とチーズのまろやかさが最高~……」
「鍋にこれだけのチーズを入れる思考も、チョコレートを滝のように流そうという思考も、常人のそれではありません」
「ふむふむ。そして? わぁ、マシュマロがチョコレートと絡み合って究極の甘み……」
「きっと、浴びたかったんでしょうね……」
「いちごとチョコレートはさすがの相性! って、なんですって? 浴びる? 何を?」
「そりゃあ、チーズやチョコレートを」
「いやまさかそんな」
「だって、ふぁうん……てん? を見てください。浴びるための構造ですよ」
「そう思うのは勇者さんだけですよ」
「頭から突っ込んで流れてくるチョコレートをひたすら飲みたい」
「欲望が抑えきれなくなっているようですね」
「さすがの私も、食べ物がもったいないのでやりませんけど。あっ、チーズの沼にパンを落としてしまいました。どこいった」
「罰ゲームのお時間です!」
「耳元で叫ばないでください。目潰ししますよ」
「やめてくださいね。チーズフォンデュを代表とするフォンデュ料理には、罰ゲームなるものが存在するのです。例えば、勇者さんが今しがたやってしまったこと」
「パンをチーズの中に落とす?」
「そのとーりです。楽しく食べながら楽しくゲームをする。それもフォンデュの楽しみ方なんですよ」
「罰ゲームってなにをするんですか?」
「今回はぼくの方で決めてきました。ででん! 題して『食べ物を粗末にしない程度に食べ物で遊ぼう! これなーに?』です」
「定番以外の食材をチーズやチョコにつけてみて、合うか合わないかやってみようということですね」
「とんでもない理解力ですね。その通りです。では、目をつぶってください」
「私が食べるんですか。でも、それだと――」
「はーい、いきますよ~。チーズかチョコかもナイショです。さてさて、これなーに?」
「…………チーズとチョコレートの味がします。どっちつけたんですか?」
「ふっふーふ。勇者さん、答えは?」
「固形チーズにチョコレートをつけたやつ」
「大正解~! 脳が混乱するかと思いましたが、さすがは勇者さんですね」
「すでに一緒に食べているようなものですから。では、次は魔王さんです」
「えっ、ぼくは罰ゲーム対象者じゃありませんよう」
「いいから目を閉じる。さもなくば視覚を永久に閉ざしますよ」
「目潰しする気だ……。はい、どうぞ。……今日は最初からこんにゃくを用意していませんからね。どんな変わり種がきてもぼくの勝ちです。ふふふ……ふふふ……!」
「はい、これなーんだ」
「……もぐもぐ。もぐ……んぐっ⁉ っぐぅ……‼ うううう~⁉」
「正解はお餅でした。チョコレートと合わせてみたんですが、かなりおいしいですね。チーズにも合うし、実は定番食材なのでしょうか?」
「んむむむむ‼ うぬんぬぬぬぬぅぅぅ‼」
「顔芸ですか?」
「ぶはぁ⁉ はぁ、はぁ、お、お餅……お餅は危険……」
「よく噛まないからですよ」
「お餅には準備というものがいるんですよ。果物にチーズとか、そういう方でくると思っていたので、余計にパニックに……」
「おいしかったですか?」
「味がわかりませんでした」
「たっぷりつけたチョコレートが口の端から漏れ出て、まるで吐血しているみたいでしたね。どこの殺人現場かと思いましたよ」
「ここにはふたりしかいないので、自動的に勇者さんが犯人になりますよ」
「やだな、ロリババアな魔王さんがおひとりでお餅を喉に詰まらせて召されるんですよ」
「なんですかその筋書きは」
「楽しく夕飯を食べている時には、よく殺人事件が起きるって」
「誰に聞いたんですか」
「映画から学びました」
「勇者さんに偏った知識が増えていく」
「魔王さんの豆知識ほどではありませんよ。はい、お餅を小さく切りました。これでご老人も安心です」
「お気遣い感謝します……。チョコ餅おいしい……」
「そもそも、合う合わない以前に、おいしそうな食材しか並んでいませんよ。これでは罰ゲームになりません」
「そ、そうでしたか。ですが、唐揚げとかフライドポテトとか、あんまり見ませんよね」
「ばかですか?」
「ストレート暴言」
「唐揚げにフライドポテト? こっちには焼き鳥と肉団子もある。魔王さん、罰ゲームする気ありますか?」
「圧が……圧がすごい……」
「おいしいものしかないじゃないですか、このやろー。ありがとうございます」
「めちゃくちゃふつうにお礼言ってきた。えへへ、どういたしましてです」
お読みいただきありがとうございました。
今日はチョコレートファウンテンを覚えてお帰りください。
勇者「この器械、とても好きです……」
魔王「ファウンテンが気に入ったようですね」
勇者「金持ちしか持ってなさそうで」
魔王「偏見!」