表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/702

167.会話 彼岸花の話

本日もこんばんは。

なにかと話題になる彼岸花さんの出番です。

「……びっくりした。花畑……って感じはあんまりしませんけど、これ、花ですよね」

「はい。彼岸花と呼ばれるお花ですよ。すごいですねぇ、この辺り一帯、彼岸花の群生地になっているようです。今が見頃のようですね」

「真っ赤……。これは人が寄り付かなさそうな場所ですね」

「ぼくたちだけでのんびりできるってことですよ。せっかくですし、ゆっくり歩きながら観賞していきましょうか」

「彼岸花……ですか。なんだか、不思議な花びらをしていますね」

「きれいですよねぇ。この儚げな雰囲気も、妖艶な赤みも、静かで強い存在感も、ぼくは好きですよ」

「赤色の花はふつうにありますけど、彼岸花の赤はちょっと違う感じがします。それこそ、魔なるものたちの目の色にそっくり――」

「勇者さん?」

「ああ、いえ、不気味な感じもするのにきれいだとも思って、変な気分です」

「自分の感情に素直になるのはよいことですよ。あっ、折れた彼岸花があります。見てください、勇者さん。じゃーん、彼岸花の髪飾りです」

「……白い髪に赤い花ですか。年末ですか?」

「そこは素直に『きれいですね』って言えばいいんですよう」

「その位置より、こっちの方がもっと――」

「わわっ! だ、だめです。触っちゃいけません!」

「なぜです?」

「彼岸花には毒があるんですよ。花にも茎にも。最も危ないのは球根の部分です」

「触るだけでもだめなんですか?」

「食べたり口に入れたりしなければ問題ありませんが、念には念を、です」

「……こんなにきれいな花なのに、危険が潜んでいるんですね。だいじょうぶですよ。危ないとわかっているものにわざわざ近づいたりしませんから。でも、しゃがんで見るくらいはいいでしょう?」

「…………」

「魔王さん? どうしたんですか、固まって」

「へっ⁉ い、いえ、ナンデモ!」

「何かあるひとの言い方ですよ。なんですか? 言いやがれください」

「え、ええっと……。気を悪くしないでほしいのですが……」

「珍しい文言の前置きですね。安心してください、気を悪くしたら斬るだけです」

「えええん……。あ、あの、勇者さんと彼岸花、よく似合うなぁ……と……思って……」

「…………」

「な、何か言ってください~……。あの、勇者さーん……?」

「ああ、ぼーっとしてました。彼岸花と似合うですか。そうですか」

「あの、どういう感情ですか、そのお顔……。怒ってます……?」

「いえいえ。うれしいですよ。ていうか、なぜ私が気を悪くするかと思ったのか不思議です。怒るところないじゃないですか」

「そ、それならいいのですけど。そうだ、勇者さん。彼岸花には異名がたくさんあるって、ご存じでした? 曼珠沙華とか、幽霊花とか、毒花、狐花、火事花などなど」

「おどろおどろしい名前が多いですね。毒があるから悪いイメージが強いのでしょうか」

「一説には、千以上の名前があるそうですよ。自分の名前を覚えるだけで一苦労ですね」

「名前のない私たちとは正反対ですね。ひとつくらいもらっても問題なさそうです」

「勇者さんにはひとつありますけどね。……おや? おやや? 勇者さん、白い彼岸花がありますよー!」

「ほんとだ。白色もあるんですね。白くなった途端、イメージが変わります」

「赤色と混ざりあって咲いています。これぞ紅白。うつくしい光景ですねぇ」

「他の色もあるんですか? 私、青い彼岸花が見たいです」

「黄色や桃色、朱色はありますが、青色は……」

「魔王さんが見たことないなら、きっとないのでしょうね」

「……いえ、わかりませんよ? ぼくだって、世界の隅々まで見尽くしたわけではありません。勇者さんと旅をする中で、知らない場所に行ったことの方が多いのです。つまり、この世界にはまだまだ知らないことがたくさんあるということ。それなら、青い彼岸花だってあるかもしれない。そう思いませんか?」

「あるかもわからないものを探すのは大変ですよ」

「あったらラッキーくらいでどうでしょうか? このくらい気楽でいた方が、物事はうまくいくかもしれませんよ」

「そうですね。ところで、彼岸花っておいしいんでしょうか」

「話の変わり方がえげつないですね。毒があるという話、もう忘れちゃったんですか?」

「覚えていますよ。だからこうして、花を避けて歩いているではありませんか」

「そう……ですけど……。食べたらそれこそ、彼岸に行ってしまうことになりますから」

「彼岸花って、てんぷらにしたらおいしそうな見た目していません?」

「ちょっとわかる。ちょっとわかりますけど、ぜーったいだめですからね!」

「そんなに言わなくてもだいじょうぶですよ。半分冗談で言っていますから」

「半分は本気ってことですよね?」

「ほら、のんびりしていると日が暮れますよ。さっさと歩く」

「ま、待ってくださいよう。……とってもお似合いですけど、彼岸花に紛れて向こうに行ってしまいそうです。連れて行っちゃだめですよ? って、お花に言っても意味ありませんね。ぼくがそばにいないと――って、あれ⁉ 勇者さんどこー⁉ ほんとにどこ⁉」

お読みいただきありがとうございました。

こつぜんと姿を消した勇者さんは、彼岸花に隠れて魔王さんをおどかそうとしていたようです。


勇者「ここですよ~」

魔王「びっくりさせないでくださいよう! 連れていかれちゃったかと……!」

勇者「誰もいませんけど?」

魔王「そ、そうじゃなくて~……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ