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165.会話 狐の嫁入りの話

本日もこんばんは。

『狐の嫁入り』という言葉、不思議でおもしろいですよね。そんなわけで、狐が嫁に行ったり行かなかったりする話です(違います)。

「……あ、雨ですね。でも、太陽は出ています。曇っていなくても雨って降るんですね」

「いわゆる狐の嫁入りですね」

「じゃあ、狐の婿入りもあるんですか?」

「気になるとこ、そこでいいんですか? 狐の婿入りはあんまり聞いたことないですね」

「魔王さんの言い方だと、よくあることなんですか? 狐の結婚」

「つがいになるのがよくあることでしょうけど、狐の嫁入りとは太陽が出ているのに小雨が降る自然現象のことを指すんですよ。ちょっと不思議な雨でしょう?」

「晴れなのか雨なのかはっきりせいって思っちゃいました。謝りませんけど」

「謝らなくていいですよ。別に悪いことはしていませんから。そして、狐の嫁入りも悪いものではなく、縁起がいいものとして考えられているのです」

「流れが強引」

「ふつうの雨よりも虹がかかりやすいとの噂もあります。見られたらいいですねぇ」

「太陽が出ているからか雨粒がきらきらしているように見えます。たしかに、なにか良いことを感じるのも頷けるように思いますよ」

「そうでしょう、そうでしょう」

「とはいえ、雨宿りはしたいです。木の下にでも入りましょう。魔王さんは、濡れたきゃその場にいていいですよ」

「い、一緒に行きますよう。すぐ止むと思いますけどね」

「それにしても、狐の嫁入りだなんて不思議な名前ですね。まじで狐が結婚するってわけじゃないでしょう?」

「わかりませんよ~? なにせ、なんでもありの世界ですからね。草陰から覗いたら、狐たちが結婚式をしているかもしれません」

「結婚式ってごちそうが出るって聞いたんですけど」

「他人の結婚式に乱入してご飯だけ食べるのはさすがに勇気いりますよ」

「相手は狐でしょう。一流の料理が並んでいるに違いありません」

「どうしてそんなに自信満々なんですか」

「狐はコックを所有していると聞きましたよ」

「たぶんそれ、エキノコックスのことですね。耳が食べ物にしか反応しないんでしょう」

「エキノという名のコック集団ですか? 星はいくつ?」

「スは複数形を表しているわけじゃありませんからね。寄生虫の名前なんですよ」

「うげぇ。食欲が失せました。おのれ狐のコック集団」

「いろいろ混ざっていますよ。もはや雨と関係ありませんね」

「しかも、なかなか止みませんね。……うーん、今もどこかで、狐たちが嫁入り行列を作っているんでしょうか。ちょっと見てみたい気もしますね」

「見たら最後、向こうの世界に連れていかれちゃうかもしれませんよ?」

「嫁にさせられるってことですか? 絶対遠慮します」

「そういう意味ではなく……。狐の嫁入りは、自然現象以外に怪異のことでもあるんですよ。怪しく美しい狐たちの嫁入り行列。進む先はこことは違う妖怪の世界かも~?」

「危険を感じたらすべて肉にしてやります」

「もはや勇者さんが怪異みたいですね。狐の方が逃げていきますよ」

「狐っておいしいんでしょうか。寄生虫がいるとなると、よく焼き?」

「怪異に恐れを抱かないのはいいですが、寄生虫には本気で気をつけてくださいね。ぼくとしては怪異なんかより、よっぽどおそろしいです。勇者さんが誤って食べた時のことを考えると、震えが止まりませんよ」

「雨に濡れたからでしょうか。ちょっと冷えますね」

「そんなこともあろうかと、勇者さんにはばっちりタオルを渡していますが……まあ、ぼくはどうでもいいです。風邪引きませんし」

「はあ……、狐肉の話をしていたせいでお腹がすいてきました」

「狐肉だけをしゃべっていたわけではありませんが、勇者さんの頭にはもう残っていなさそうですね。冷えた体を温めるために、今日はお肉ごろごろシチューにしましょうか?」

「いいですね。すぐ風邪を引くことで有名な私にはありがたいです」

「よくないことで有名にならないでください……。雨が止むまで、ロウソクでも灯しましょうか? ちょっとでも暖かくしなくては……勇者さん?」

「木々の向こうにお店でもあるんでしょうか。ほら、見えますか?」

「ん~? ほんとですね。明かりが見えます」

「まだ止みそうにありませんし、休憩がてらお店に入りませんか? あとお腹すいた」

「そうですねぇ。このまま体を冷やすのも勇者さんに悪影響です。少しお邪魔させていただきましょうか」

「そうと決まればいざ。それにしても、全然気がつきませんでした」

「すぐ見つけそうなものですけどね。おしゃべりに夢中だったのでしょうか」

「……近そうに見えたのに、意外と距離ありますね。森の中に入っていくから歩きにくいし、なんかここ、道になってないし……。変なとこに店をかまえるんですね」

「んー……。んん~~…………?」

「あれ? 明かり、動いていませんか? ええ、どゆこと……」

「これは……もしや……?」

「見間違いかなぁ……。おや、人? 魔王さん、誰かいますよ。真っ白い服を着た――」

「ちょっ、ちょーっと待ってください。ええと、お店なら他の場所でもいいですよね?」

「え? でも、すぐそこにある――」

「いいですよね? ね⁉」

「圧がすごい。別にいいですけど……。この雨みたいに変な魔王さんですね」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんが見たものは一体――。


勇者「森を出た途端に雨が止みましたね」

魔王「……そ、そうですねぇ」

勇者「明かりも見えません。見間違いだったのかなぁ」

魔王「……それならいいんですけどねぇ」


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