表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/701

164.会話 栗拾いの話

本日もこんばんは。

まだ……まだ秋です……。まだ間に合う……。

そんなわけで、栗拾いの話です。

「勇者さん、マロンスイーツはお好きですか? お好きですよね知っています。そういうわけで、本日は栗拾いにやってきました。いえ~い、ぱちぱち~」

「ただの山の中ですけど」

「こちら、軍手にトング、バケツに帽子です。ばっちり装備してくださいね」

「帽子の意味は一体……いたっ。なんだやんのか……? 何様だ誰様だ出てこい」

「だいじょうぶですか? そんな感じで、上から栗が降ってくることがあるので、しっかり帽子は被ってくださいね」

「貴様が栗か……。ええ、これのどこが栗なんですか。トゲトゲしていて魔物みたい」

「それはイガですね。その中に、勇者さんの知る茶色くて艶やかな栗が入っているんですよ。ケガをするので素手では触らないように。トングを使ってくださいね」

「これはまさしく『拾う』ですね。言葉のままだとわかりやすいです」

「栗狩りだと、ちょっと言葉の響きが……。あ、栗ですが、地面に落ちているものを拾ってくださいね。熟れている証拠なんですよ」

「へえ。これがどうなるといつもの栗になるのやら……。トングより直接手で取った方がはやくないですか? こんな感じに――痛い。てめぇ……さっきからよくも……」

「お、落ち着いてください。軍手をしていてもイガが刺さることがあるので危険なんです。なるべくトングを使って――って、ゆ、勇者さん?」

「……いいでしょう。この辺り一帯の栗、すべて奪い去ってやりますよ。震えて待っていろ、栗ども」

「トングをカチカチ鳴らしていらっしゃる。栗への脅しでしょうか?」

「どうせ私たちに食べられる運命。イガにこもっていられるのも今のうちですよ」

「勇者さんから逃げるためにイガに入っているわけではありませんけどね」

「……ねえ、魔王さん」

「はい?」

「魔王さんにイガぶん投げてもいいですか?」

「ちゃんと断りを入れるのはとても偉いです。そんな偉い勇者さんに感動しました。投げていいですよ!」

「いいんですね。ふつうに嫌がってくださいよ」

「勇者さんのパンチより痛いわけがないですからね。大体のものは遠慮せず投げてもいいですよ」

「そういう趣味のひとかと思っちゃうじゃないですか。そぉい」

「はい、キャッチ! これだと栗拾い投げですね」

「語呂が悪いですね。栗を見習ってください」

「どういうことです?」

「ごろごろ散乱しているんですよ。これから蹂躙されるとも知らずにのんきなものです」

「楽しそうですねぇ。勇者さんの気合が入っているので、今日は栗ご飯にしましょう」

「……あ、すでに割れているものもありますね。あー、これですこれです。私の知っている栗は。誰かに踏まれてイガが割れたようですね。踏んだの私ですけど」

「足はだいじょうぶですか? 勇者さんの靴なら問題なさそうですが」

「平気です。この茶色くて艶やかなフォルムを見ると、どんぐりを思い出します」

「どんぐりも秋のイメージですよね。地面に落ちているところも栗に似ています」

「不味かったなぁ」

「食べたんですか? どんぐりを? どんぐりを? そのまま?」

「二回も言わんでよろしい。どんぐりって食べられるんですよ。工程が色々あるらしいですが、私はそのまま嚙み砕きました。おいしくなかった……」

「でしょうね。どんぐりが食べられることは知っていましたが、勇者さんの食べ方はさすがに……。ぼくも昔、どんぐりチョコレートを作ったんですけど、結構めんどうで……」

「やっぱり加工して食べるんですね。リスがほっぺたいっぱいに詰め込んでいるから、さぞかしいおいしいのかと思ったんですけど……。人間は大人しく栗を集めますよ」

「栗ごはんに栗きんとん、栗の煮物に栗のクリームスープ、デザートにモンブラン!」

「やめてくださいお腹すく」

「すかせた分だけさらにおいしくなるじゃないですか。ぼくもたくさん拾いますよ」

「そろそろイガが栗だと脳も認識してきましたけど、最初に栗拾いをした人は、やっぱり武器を求めて山に来たんでしょうか」

「やっぱりってなんですか?」

「だってこれ、どう見たって武器ですよ。大量に集めて敵にぶつけ、壊れた時に中身があることを知り、試しに食べてみたらおいしかった……。食の歴史はいつだって行き当たりばったり時々死」

「ちょっとあり得そうな歴史を作らないでくださいよ。時々死はむしろ正解ですが……」

「どうですか、魔王さん。バケツいっぱいに集まりましたよ。これで敵陣を一網打尽にできます」

「目的が変わっていますよ。ぼくたちの目的は食べることです」

「ええ、わかっています。殲滅した敵陣から備蓄品を奪い取って宴をするんですよね」

「いつの時代に生きているんですか?」

「私はいつだって今にしかいませんよ。だからなにか食べたいです。お腹すきました」

「戻って栗料理を作りましょうか。いっぱい作りますよ」

「いま……いま食べたい……お腹すいた……調子に乗って拾いまくったから……」

「だ、だめですよ。どんぐりの二の舞になります。踏みとどまってください!」

「どんぐりの二の舞は……かなり嫌ですね。結構かなり……嫌ですね……嫌……」

「どんぐり、そんなにおいしくなかったんですね」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんはイガを敵だと記憶しました。


勇者「こんなに落ちているんだから、どんぐりもおいしく食べられればいいのに」

魔王「今度、一緒にチョコレートにしましょうか」

勇者「めんどいのは嫌だ……。栗も処理がめんどくさかった……」

魔王「勇者さんと秋は相性が悪いかもですね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ