163.会話 ゾンビの話
本日もこんばんは。
みんなのアイドル、ゾンビの話です。
「ゾンビ肉はおいしそうには見えませんね。大体、人間なのも不満ですし」
「ゾンビ映画を観ながらその感想は危険ですよ。お友達を失くす可能性があります」
「私は思ったことを素直に言っているだけです。ていうか、死んでるのに動くっていうのは、どういう原理ですか」
「ま、まあ、映画ですし……。勇者さん、よくお菓子をつまみながら観られますねぇ」
「作り物なんでしょう? よくできているなぁと思って観ていますよ」
「かわいい動物が出てくる映画とか観ないんですか? ぼくはゾンビ苦手なんです……」
「まじの動物が出てくる映画なんて、それこそダイナミック精肉店になりますよ」
「なりませんよ? わぁっ! あ、頭が吹き飛びましたよ。ぐろぉぉぉぁぁぁい」
「魔王のくせに、これしきのことでぐろいって言わないでください。なーにが『ゾンビ苦手なんです』ですか。ええい、くっつくな離れろ」
「だってだって、刺しても殴っても吹き飛ばしても動くんですよ。こわい!」
「それ、おかしいですよね。だって奴ら、死んでいるんでしょう? 肉は腐敗して崩れると思うんですけど、なんで動いてんだ」
「この映画では、謎のウイルスに感染してゾンビになっているようですね」
「結局、ご都合主義ですよ。デッドはウォーキングしないしランニングもしません」
「めちゃくちゃ! めちゃくちゃ走っていますよこのゾンビ! ランニングゾンビ!」
「魔王さんが走るより速いんじゃないですか?」
「それはそうかもしれません。うわぁ、噛まれて感染するんですか。い、痛そう~……。わわっ、そんなに噛まなくても……って、食い千切られてるぅ」
「仲間を増やしたいだけなら、指の先をかぷってするくらいにしてほしいですよね。しつけのなっていない大型犬を見ている気分です」
「ゾンビを見て大型犬を想像するのは勇者さんだけです」
「噛まれて感染するというのも、めんどうですよね。どうせなら、肉体から感染オーラを発するとか、呪文を唱えて感染させるとか。動きたくないですよ」
「噛むのは血液感染のためでしょうか? にしても、勇者さんはどこにいっても『めんどいか、そうじゃないか』で考えるんですねぇ。世の中のゾンビがぜんぶ勇者さんのようだったら、感染は広まりませんね」
「物語、完」
「ぐーたらゾンビがひたすらのんびりするだけのゾンビ映画なら、ぼく観たいです」
「のんびりしていたところに爆弾が投下されて生存者に蹂躙されるゾンビ映画?」
「どうしてそう争いを生もうとするのですか」
「暇な時に映画を観ることが増えましたが、ゾンビ映画に出てくる人間って、どうしてこんなに愚かなんでしょうか」
「安全で平和な状況で観ているからそう思うのであって、ゾンビパニックに陥ったらそうなってしまうのでは? 極限状態になるとほんとうの姿が露わになるともいいますし」
「身ぐるみを剥がされるんですか」
「そういう意味ではなくてですね。普段は温厚な人だけど、仲間を蹴散らして自分だけ助かろうとするとか、意地の悪い人だと思ったら身を挺して他人を庇う人だったとか」
「前者はまるで悪い人のように聞こえますが、実際にパニックになったらほとんどの人がそうなるでしょうね。後者の行動は、称賛されたとしても死んでいます。加えて、称賛する人が取る行動は前者なのでしょうし」
「痛いところを突きますねぇ。話を語り継ぐためには生き残るしかない。生き残るには選択するしかない。ゾンビ映画も深いメッセージをくれますね」
「どうでしょうか。この映画、本編中ひたすらゾンビ狩りしているだけですよ。しかも、やたらぐろい描写にしたがる。そういう趣味ですかね?」
「そういう趣味でしょうね……。ぼくには理解できな――ひゃあああ内臓が出っっ!」
「チャラそうな男や性格悪い女から死んでいくの、そういう決まりでもあるんですかね」
「優しい女の子が優しい男の子に守られ、恋が生まれる……。極限でも愛は育まれるんですね。人間の強さを感じ――あぁぁああぁぁ優しい男の子が死んだぁぁぁぁ‼」
「ゾンビに噛まれていた彼は、女の子を守るために自ら命を絶ったようですね。こういう展開を入れないと死ぬ病でもあるんですか?」
「しかも、結局、登場人物が全員死んでしまいましたぁ……。あんなにがんばっていたのに、こんなのってないですよう……」
「ゾンビ映画って、生き残っても主人公だけとかよくありますよね。それか全滅」
「血も涙もない映画ですよ……。勇者さん、そろそろほんわかはっぴー映画を観ましょうよう。もう頭の中がゾンビと血しぶきと内蔵で……うあああぁぁぁぁ~……」
「あらかた観尽くしたらそうしようと思ったんですけどね。見てください、これ」
「似たようなパッケージのゾンビが大量に。えええー、ゾンビ映画ってこんなにあるんですか? しかも、絶妙に評価が低いものばっかり……」
「私、最近、星五つのうち星二つから三つの映画にハマっているんです。ほどよく楽しめてほどよくつまらない、ストーリーもおまけ程度のしっちゃかめっちゃか映画」
「いわゆるB級映画ですか。たしかに、一定のファンがいるらしいですけど」
「このくだらなさがまた……親近感がわくというか……眠りを誘うというか……」
「絶え間なく悲鳴が響き、ゾンビの謎の声とともに肉が食い千切られる映像がかかっている中で、よくうとうとできますねぇ」
「今日の夕飯は熟成肉にしましょう」
「そう思った理由はわかりますが、わかりたくないですね。う~……、またゾンビ……」
「しかめっ面するなら観なきゃいいのに。変な魔王さんですね。ジャーキー食べます?」
「ここでジャーキーって、勇者さんもいい趣味してますねぇ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはB級映画が好きです。
魔王「ゾンビ映画もいいですが、こちらの恋愛映画もどうでしょうか?」
勇者「評価がやけに高い。却下」
魔王「却下の判断がおかしいですよう……」
勇者「恋愛よりゾンビの方がリアリティありますし」
魔王「そんなことあったらたまりませんよ」