159.会話 カフェの話
本日もこんばんは。
カフェで小説を書くことに憧れがありますが、カフェに行くまでがめんどうな天目です。
そんなわけで、自宅で書いたカフェの話をどうぞ。
「すてきな装飾、穏やかな音楽、ほのかに漂うコーヒーの香り、まばらなお客さん……。いいですねぇ、最高です。ぼく、こういう知る人ぞ知るお店でのんびりするのが好きなんですよ~」
「人間が少ないのはポイント高いです」
「こういうカフェで、平日の真っ昼間からコーヒーをいただく……。憧れませんか?」
「その気持ちはよくわかりませんが、のんびりするのには賛成です」
「平日というのは、だいたいはお仕事する日なんです。ですから、お昼時でもないのにカフェで優雅にしているというのは……ミステリアスな気配がしませんか?」
「平日が休みの人なんじゃないですか。それか、たまたま休みだったとか。仕事をしていないとか」
「ぼくたちのことですか?」
「まったく仕事していないわけじゃありません。多少はやっています」
「冗談ですって。あ、またひとり来店しましたね。黒いジャケットに黒い帽子、黒いハードケースに黒い靴……。黒色がお好きなんでしょうか?」
「不吉とされる黒をよくもまあ、あんなに身にまとえるものですね」
「赤色よりは一般的にも使われる色ですけど、全身となると目を引きますね」
「一人用の席じゃなく、二人用のテーブル席につきましたね。まあ、これだけ空いていれば好きな席に座っても問題ないでしょうけど」
「ゆったりのんびりしたいのかもしれませんね。……おや? お冷がふたつきましたね」
「待ち合わせ、でしょうか」
「もしくは、とっても喉が渇いていたとか」
「店内なのにジャケット脱がないんですね。私が知らないだけで、そういうもんなのかもしれませんけど」
「マントを脱がない勇者さんが言いますか」
「……フードは取りましたよ」
「店員さんが来るときは被りますよね――あ、またお客さんのご来店です。茶色いマントを羽織って、フードもすっぽり被っていますね。……ん? なんだか店内をきょろきょろと、挙動不審ですねぇ。突然、人間と出くわして行動に迷った勇者さんのようです」
「やかましい。私は焦っても外側には出さないようにして――って、椅子にぶつかったり観葉植物を倒しそうになったり、私はあそこまで挙動不審になったことはありませんよ」
「かなりお疲れなのか、かなり人間が苦手なのか……。勇者さんといい勝負ですね」
「やかましいわ。……あれ、茶色の挙動不審、黒づくめの男の席に座りましたよ」
「黒づくめの男って言われると違う人が脳裏に――って、ほんとですね。お知り合いなんでしょうか?」
「その割には、穏やかな空気は感じませんね。お互い会話もしていませんし、挙動不審はさらにおどおどレベルが上がりました」
「せめて男とか人とかつけてあげてくださいよ。挙動不審が名前になっていますよ」
「通じるでしょう。今更ですけど、あんまり他の客をじろじろ見るのはよくないですね」
「そうでしたそうでした。つい気になってしまい……。注文したケーキにも手を付けず観察してしまいました。勇者さんは食べながらでしたけど」
「ここのケーキおいしいです。紅茶とよく合います」
「それはよかったです。ぼくのケーキ、一口食べますか?」
「いただきます。口つけちゃいましたが、それでもよければこっちもどうぞ」
「い、いいんでっででですすすすか⁉ で、ではお言葉に甘えて……って、なにを見ているんですか?」
「黒づくめが紙をテーブルに広げましたよ。ペンを取り出して挙動不審に渡しました」
「がっつり見ているじゃないですか。紙とペンですか。アブナイ契約だったりして」
「挙動不審が震えながら紙に何かを書いたようです」
「アブナイ契約だったりして⁉」
「黒づくめが黒ハードケースを取り出して……中身は……」
「ま、まさかお金じゃないですよね? ハッ、人の少ないカフェの中、アブナイ取引をするシーンを映画で観たことがあります。現実でもあるんですね……! ちょっとわくわくしてき――じゃなくて、勇者さんに危険が及ぶことは避けなくては!」
「ついに開かれるようです」
「お金ならぼくがすぐさま取り押さえに行きますからね。ご心配なく!」
「ゆっくり開かれて……黒づくめが取り出したのは……猫のぬいぐるみ?」
「あらぁ、とってもかわいい――って、どゆことですか」
「他にも、あれは猫用のおもちゃでしょうか。お菓子っぽい食べ物もいくつか。あと、分厚い紙の束も出てきました。挙動不審が笑顔を浮かべましたよ。あ、ジャケットとマントを脱ぐようです――えっ」
「ど、どうしました? とんでもない刺青とかありましたか?」
「あ、いえ、二人とも、ジャケットとマントの下が……めっちゃかわいい猫の写真がプリントされたTシャツで……」
「……えーっと、たぶんですけど、黒づくめの方はブリーダーさんかもしれませんね。動物を繁殖させて販売等を行う人のことです。挙動不審の方は猫ちゃんをお迎えしたいお客さんでしょう。どうやら、平和な取引だったようですね。安心しました」
「二人とも、すごい笑顔で談笑していますよ。ぬいぐるみは……ああ、このカフェ、ペット禁止みたいですね」
「世の中、見た目で判断するのはよくないですねぇ。反省反省です」
「傍から見たら、私たちもミステリアスでしょうね。猫のTシャツでも買いましょうか」
お読みいただきありがとうございました。
男性たちが着ていた猫のTシャツはフルグラです。
勇者「あんなの売っているんですね」
魔王「手作りかもしれませんね。もしくはオーダーメイド」
勇者「そんなことできるんですか」
魔王「ぼくたちのツーショット写真で作りましょうか?」
勇者「絶対やめろ」