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157.会話 もみじ狩りの話

本日もこんばんは。

めちゃくちゃ秋の話ですね。問題ありません。全国を探せばまだ紅葉があるはずです。それではどうぞ。

「わぁっ……! すごいです……! 見渡す限り美しい赤色と黄色が広がっています」

「こんなに色づくものなんですね。まるで花のようです」

「秋の短い間だけ見られる圧巻の景色ですね。さあ、もみじ狩りと行きましょう」

「モミジガリ……? なるほど」

「なにゆえ剣を構えたのでしょうか」

「モミジという名の魔物を狩ればいいのでしょう? 今日は機嫌がいいのでエビチリとエビマヨの盛り合わせで手を打ちますよ」

「それは構いませんが、モミジは魔物ではありませんよ。紅い葉、つまりぼくたちが見ているこの光景のことです。具体的に言うと、一般的には楓という植物が色づいたものをもみじと呼び――」

「ちょっと質問が」

「勉学の精神と好奇心の向上を感じる。はい、勇者さん!」

「つまり、もみじは葉っぱのことですよね? それを狩るってどういう精神してんですか。物好きですか?」

「おお~。いい着眼点です。花丸百点を差し上げます!」

「花丸より伊達巻きがいいです。あれって花丸に見えますよね」

「四割くらい同感です。それはそうと、もみじ狩りの『狩り』の意味はもみじを鑑賞することなんですよ。獣などを狩る意味ではないのです」

「……お花見と一緒ってことですか? 前に桜を見た時の」

「はい! その通りです。またひとつ、知識が増えましたね」

「でも、見ているのは葉っぱですよね。じゃあ、葉見? いや、ここはもみじ見か」

「『紅葉見』という言葉はほんとうにありますよ。もみじ狩りと同じ意味です」

「ええ……。じゃあ、なんで狩ろうとするのかほんとにわかりません。意味が同じなら、どっちかでいいじゃないですか。私の脳みそをいじめないでください」

「なぜ『狩り』というのか、理由はあるみたいですけど……聞きますか?」

「いえ、ここは私の思考回路にがんばってもらいます」

「ご自分で負荷を与えるおつもりで? い、いえ、これもひとつの学びですね」

「思うに、もみじの赤色は獣の血なのではないでしょうか」

「穏やかな脳みそを助走なしで殴ってくるような物騒な発想ですね」

「紅葉は秋に見られる自然現象でしたっけ。ということは、いずれ冬が訪れるということ。動物たちは冬眠前にたくさん食べるんですよね? つまり、そういうことです」

「どういうことでしょう……」

「木々たちも厳しい冬に向けてエネルギーを蓄えているんですよ。そう、こういった山々に住む獣たちから命を吸い取って……ね」

「すべてを理解した……って顔していますけど、ぼくはどうするべきでしょうか。微笑ましく頷くべきか、マジレスするべきか……」

「あっ、そうなると黄色の葉の説明がつきませんね。どうやってこじつけようかな」

「こじつけって言っちゃいましたよ」

「まあ、あれだ、なんだ、なにも血が赤色しかないってわけじゃないでしょう。世界中のどっかには青色とか緑色とか黄色の血のものもいますよ、たぶん。はい、解決ですね」

「その理屈でいくと、紅葉前の緑色もなにものかの血になりますが」

「生きとし生けるもの、別の命を奪い生きていることに変わりはありません」

「年がら年中、命を吸い取っているってことですか。はぇ~、もみじ恐るべしですねぇ」

「ところで、お腹がすきました」

「さっきお昼ごはんを食べたばかりですよ?」

「魔王さんが、もみじ狩りはお花見と同じようなものとおっしゃるので、しゃべりながら屋台などを探していたのですが……」

「ああ、この辺りは特段、観光地というわけではないので。たまたま見つけたきれいな紅葉ってだけで、ぼくたち以外に人もいませんしね」

「草花の観賞にはおいしい食べ物がついてくると学んだのに……。悲しい気持ちです」

「屋台を求めていたからお腹すいちゃったんですね。あとでお茶しましょうか」

「獣……。肉……。ジビエ料理……。鹿……イノシシ……野鳥……!」

「ゆ、勇者さん?」

「私も罪深き身ですから、今日も今日とて命を奪って生きていくのです」

「えっと、なにゆえ剣を再び構えているのでしょう」

「獣を狩り、流れた血で葉が赤く染まる。命の循環、弱肉強食の世界。ああ、まさに自然そのものです」

「元気そうですね。この様子では、今日の夕飯はお肉料理に決まりです」

「さあ、狩りの時間といきましょう。私の振るう剣で舞い散るもみじをその目に焼き付ければいいですよ」

「獣を狩り、もみじも狩るのですか。なんとまあ荘厳な光景になることでしょうか」

「出てこいジンギスカン!」

「召喚シーンかと思いました。大きな声を出すと獣は逃げてしまいますよ」

「野生は警戒心が強いですからね……。罠を仕掛けましょうか。エサも用意して」

「では、まずはエサとなる動物を捕獲しなくてはいけませんね」

「途端にめんどくさくなってきた……。ええい、妥協します」

「妥協? って、なにゆえぼくを見て――まさか」

「もみじの木に括り付けておいたら、お腹をすかした獣がかかったりしないかなぁ」

「もみじも獣も勇者さんも、みんなぼくの命を吸おうとしているじゃないですか!」

「秋の新たなイベント、魔王狩りですね」

お読みいただきありがとうございました。

SSを書くたびに豆知識が増えていく天目です。


勇者「魔王さんが魔王オーラを出すから、獣が寄って来ませんよ」

魔王「勇者さんに危険が及ぶことを回避しているんです!」

勇者「ジンギスカン食べたいです」

魔王「お店に! お店に行きましょう! ね‼」

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