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154.会話 イメージの話

本日もこんばんは。

勇者さんと魔王さん。おふたりのイメージが崩壊し形成され固定してきたでしょうか?

思ってたんと違うってなっていたら申し訳ないです。こういうおふたりです。

「勇者さんは歩いている時もベッドでごろごろしている時もお勉強している時も、よく何かを食べていますよね。三食しっかり食べてもまだ食べるので、ぼくの中ではすっかり食いしん坊のイメージがついちゃいました。実際、食いしん坊ですし」

「なにか問題が?」

「いえ、いっぱい食べるきみが好きですから。歩いている時の棒付きキャンディーは危険性が高いのでやめてほしい気持ちもありますけど」

「だいじょうぶです。万が一、落としても拾って食べます」

「そういう意味の危険性ではなくてですね」

「だいじょうぶです。拾って食べるのは食べ物だけにしますから」

「レベル十三くらいの幼児ですか」

「そんなに心配そうに見なくても平気ですよ。相変わらず過保護ですね」

「勇者さんにもしものことがあったらと思うと、ぼくは心配で心配で……」

「…………」

「チョコレートをかじりながらぼくを見つめてどうしたんですか。どういう感情ですか、それ」

「すごーく今更ですけど、魔王さんのイメージって……と考えていました」

「それはどういう……?」

「しゃべらなければ勇者とか聖女とかに間違われる見た目なのに、蓋を開けたらコレ。声も世間的に表現すれば良い声なのに、紡がれる言葉で台無しです」

「褒められていると思いたいですが、こればかりはけなされていますね」

「最初の方はかなり猫かぶってましたよね」

「そ、そんなことは! ない、はず……ですけど」

「人間が絡むと真面目さが増すイメージはありますね」

「人間が絡むと勇者さんの不真面目モードが悪化するから否が応でもそうなるんですよ」

「魔王さんの見た目だけを信じてついてきた人は、きっとその辺の草陰で泣いていることでしょう」

「ぼ、ぼくが悪いんですか?」

「勇者のことが好きな魔王というのも、みなさんの魔王イメージをぶち壊す要素ですし」

「それに関しては、凝り固まったイメージを破壊して魔王と勇者は仲良し~という新たな固定観念を定着させていきたいと思います」

「人間好きで魔族嫌いというのもおかしな話ですが……。とはいえ、魔王のイメージとは言い難いこれらも、魔王さんのイメージとしては頷けるようになってきてしまいました」

「言い方に呆れが含まれているのですが、気のせいでしょうか」

「私にも、まるで職務放棄して食っちゃ寝ちゃ生活を謳歌する怠惰な人間のイメージが」

「訂正箇所はないように思われますよ」

「思うがまま生きているだけなのに、なんとまあ名誉を傷つけるようなイメージがついてしまったものです」

「思うがまま生きているからだと思いますよ」

「目で見て耳で聴いて身をもって体験したことしか真実ではないのに、誰かの言葉で語られた話を流すだけでイメージを形作られてしまうなんて浅ましいことだと思いませんか」

「そうして流布され定着したのが、魔王や勇者のイメージですよね」

「だからといって、私と関われば間違いのないイメージを語れるというわけでもありません。結局、それは他者の思考や価値観を通した私でしかないのです」

「自分ですら自分のことはわからない、と聞いたことがありますよ」

「そう……。つまり、この世に本当のイメージなど存在しないのです。私は、私ですら語れない私が広まるのはいやです」

「非常に深いことをおっしゃっているのはわかったんですけど、ひとつわからないことがありまして」

「答えてやらないこともありません。言ってみてください」

「なにゆえぼくのポシェットから日記帳を引っ張り出したのでしょうか……」

「ここに書かれた魔王さんを通した私は、魔王さんにとっての私でしかありません。加えて、独断と偏見にまみれた思考と視覚による幻覚妄想の私が存在している可能性が――」

「そんなもの書いていませんよ⁉ あくまで日記。日々の出来事の記録です」

「これを読んだ名も知らぬ人に『うわ、勇者ってこんなんなのか……。ドン引きっ』とか思われる未来が濃厚なんですよ」

「ぼくはまったく純粋に見たまま思ったままを書いています」

「それが問題だって言ってんです。これ以上、私のイメージが意味わからん混沌の極みに走るのは避けなければいけないんです」

「どの辺が混沌なんですか!」

「魔王さんの脳みそに決まってんでしょう」

「ぼくの名誉のために言いますけど、勇者さんのイメージを損なう内容は決して書いていませんよ。それはもうすてきな人ですってことを書いています」

「そういうところですよ。すてきでもなんでもないのにすてきって書かれたら、読んだ人が間違ったイメージを抱くじゃないですか」

「正しいイメージですよ?」

「ぐぁぁぁぁもうぉぉぉ……だからぁぁぁぁ……」

「勇者さんが何かに苦しんでいる⁉ ええと、そうだ。今日は焼肉にしましょう!」

「焼……肉……。いいでしょう。でも、日記に『焼肉で機嫌が直った』とか書かないでくださいね」

「なぜです? かわいいじゃないですか」

「そこで『かわいい』という感想が出てくるのが、魔王さんの目を通しているってことですよ。つまりフィルターです」

「なにか問題が?」

「イメージってこうして形成されていくんでしょうね……」

「焼肉は久々ですし、ちょっとお高いお肉を注文しましょうか」

「フィルター万歳。永遠にかかっていればいいです」

お読みいただきありがとうございました。

見た目と中身のイメージギャップは魔王さんの方が大きいのではないかなと思っています。逆に、勇者さんはそのまんまだと思っています。


勇者「よく食べているイメージって言いますけど、私が食べているところをよく見ているからではないでしょうか」

魔王「だって勇者さん、とりあえず口に入れるじゃないですか」

勇者「それだとまじの幼児ですよ」

魔王「ぼくから見れば幼児みたいな年齢――って、うそですうそ、うそですから!」

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