153.会話 職業の話
本日もこんばんは。
読者様提供ネタシリーズ第2弾。ご提供ありがとうございました。
みなさんは、おふたりにはどんな職業が似合うとお考えでしょうか。思い浮かべながら読んでいただけたら嬉しいです。
「勇者さんは勇者以外にやってみたい職業はありますか? 憧れの職業でも構いません」
「勇者以外にやってみたい職業……? ていうか、勇者って職業なんですかね」
「賃金が発生しているんですから、職業でいいと思いますよ」
「その辺で遊んでいるこどものお小遣いの方が高いと噂の私の給料……」
「労基……行きますか?」
「いえ……。そういう魔王さんはどうなんですか。バイトで色々かじったらしいですけど、何かいい仕事ありました?」
「やったことはないのですが、憧れがあるという意味では、学校の先生とかでしょうか」
「へえ。先生ですか。……知識だけはありそうですもんね」
「たくさんの人間と関われる点も魅力的ですし、なにより学校という場にただならぬ思いが……」
「いつぞやの勇者乱入事件ですか。まあ、憧れるだけなら罪になりませんからね」
「勇者さんは警察官とかお似合いだと思いますよ」
「警察官に取り締まられる側だって言いたいんですか?」
「どちらかというと、それはぼくの方だと思いますけど。警察官の制服に身を包み、悪いひとを退治し、人々と治安を守る勇者さん……。勇者さんになら逮捕されたいです!」
「即刻死刑」
「猶予を……執行猶予をください……」
「そもそも、働きたくないです。望みの職業などないです。引きこもりになりたい」
「引きこもりながらできる仕事もあるでしょう。ブロガーとかどうですか?」
「何について語るというのです。何も考えたくないです」
「お料理ブログとかどうでしょう? 食べた料理の感想もいいと思いますよ」
「食べられるものならなんでも食べます」
「うっ……ええと、それじゃあ……、スポーツ選手、パティシエ、看護師、イラストレーターなんかも人気だそうですよ」
「だそうですって、何を見て言っているんですか。……雑誌?」
「こどもに人気の職業ランキングが載っているのです。夢が膨らみますねぇ」
「不確定な未来のことを考えて何になるというのでしょう。来るかどうかもわからない。明日が来ない可能性の方がずっと大きいのに。今日の夕飯を考える方が有意義です」
「未来を望むことはこわいですか?」
「ここに書かれている夢を抱けるこどもたちとは違う世界に生きているだけです」
「夢を抱き、憧れることは罪ではありません。きみが言ってくれたことです」
「……強いて言うなら、あまり人と関わらない職業がいいです。どんなものがあるかはわかりませんけど」
「ぼくと真逆ですね。あ、それなら、専業主婦はどうですか? ぼくとシェアハウスしながら、おうちのことをお任せする感じで」
「私に家事を任せるとおっしゃいますか。勇者ですね」
「魔王ですけどね。出勤する前に昼食を用意し、夕飯の仕込みを終え、帰宅後はお風呂の間に洗濯機を回し、干しながら翌日の朝食の下準備と献立を考えておきます。お掃除は休日にしておくので、勇者さんはのんびりしていてくださいね~」
「専業主婦という名の引きこもりじゃないですか。私がいる意味ないですね」
「まさか! 一番大切な役割がありますよ?」
「なんですか。毒見役?」
「すぐそういうことを……。もう、違います。ぼくがお仕事に行く時に『いってらっしゃい』を言い、帰って来た時は『おかえりなさい』を言う存在ですよ」
「なんですかそれ」
「他にも、『おやすみなさい』とか『おはよう』とか。あとは、他愛もないおしゃべりをしたいですね」
「そんなの、今と同じじゃないですか」
「ということは、今が理想ってことですかね⁉ わぁい!」
「頭がお花畑なんですかね。……あ、だめです。賃金が発生しないと仕事になりません」
「勇者さんが『いってらっしゃい』と言うたびに金貨一枚渡せば……?」
「私が言っていいものかわかりませんが、お金で買う『いってらっしゃい』は嬉しいものなんですかね」
「逆を返せば、お金さえあればなんでも……!」
「アブナイ店に引っかかりそうな思考ですね。……やれやれ、『いってらっしゃい』くらい、何もなくても言ってあげますよ」
「ほんとですか⁉ うれしいです!」
「毎日魔王さんの首元に剣を添えて『逝ってらっしゃい』と」
「アッ、それはもう、はい、結構ですと言いたいですがいい笑顔をしていらっしゃるぅ」
「……あ、やってみたい職業といえば、ラクして稼げる仕事がいいですね。世の中やっぱり金ですよ、金」
「アブナイ仕事はだめですよ。高給のものといえば、ええと、ええと……。あっ! 世界的な歌姫とかどうで――」
「勇者ですかね」
「えっ⁉ い、意外なことをおっしゃいますね?」
「世界で一番高い賞金首に最も近い存在ですから」
「賞金首……? え、まさか」
「そのまさかです」
お読みいただきありがとうございました。
この世界に警察官とかイラストレーターとかいるんかい、と思ったそこのあなた。
この物語はなんでもありファンタジーです。
勇者「なにもせずにお金を稼げる職業ってないんですかね」
魔王「それはちょっとわかりませんねぇ」
勇者「……なにしているんですか。私の周りに金貨を並べて」
魔王「太陽光を反射させ、勇者さんを輝かせるために使おうと思いまして」
勇者「……光の向き、逆だと思いますけど」