149.会話 おやつの話
本日もこんばんは。
お好きなおやつをおともにお読みください。
「三時になりました。おやつの時間ですよ~。食べましょう、食べましょ――って、もう食べてる」
「私のおやつに時間は関係ありません」
「ブレない勇者さんですねぇ。さて、ぼくもおやつ食べようっと」
「人肉ジャーキーとか?」
「またそういうことを……。違いますよ。今日はプリンアラモードです。たくさんあるので勇者さんも一緒に食べましょうね」
「プリンアラドーモ」
「感謝の伝え方が独特ですね。どういたしましてです。ぱくっ……うう~ん、おいしいです。やっぱり三時のおやつは欠かせませんねぇ」
「なんで三時に食べるんですか?」
「え? そうですねぇ……。ちょうど小腹がすく時間だから?」
「私はいつ何時でも食べたいです」
「健啖家ですもんね。ぼくはいっぱい食べるきみが好きですよ」
「……。ところで、三時のおやつと言いますが、午前三時の可能性はないでしょうか」
「その時間におやつを食べられる人はかなり限られると思いますよ」
「三時という時間指定には一体どんな意味が……。三時にしか許されないおやつの時間なんて、あまりに非人道的です。人々は立ち上がらなければ」
「ちょっとばかし置いてけぼりになっているぼくです。なんの話ですか?」
「三時以外におやつを食べたものは、おやつ取締組織に捕まり、二度と帰ってくることはできないのです。人々はおやつで生き、おやつに怯え、おやつの力を崇め奉ってきた。暗い歴史をおやつのように食らい、行われてきた惨事を伝えるべく、その姿を変えた。そう、三時のおやつの誕生です――」
「すみません、おやつ取締組織からもう一度説明していただいても?」
「かつて、おやつは惨事によって憔悴した人々を癒すためにあったんですねぇ」
「ぼくの知らない歴史ですねぇ」
「甘いものばかり食べ過ぎて別のものが食べたくなってきました。ステーキ焼いていいですか?」
「おやつはご飯じゃありませんよ」
「魔王さん……。それはおやつに失礼なんじゃないですか?」
「あ、また変なスイッチが」
「そもそも、なんでおやつイコールお菓子とか甘味というイメージなんですか。空腹を満たす目的なら、ラーメン寿司餃子焼肉お好み焼きを食べたっていいはずです」
「三時のおやつの数時間後に食べる可能性のありそうなメニューだからでは……」
「三時のおやつは食事に値しないと言っているようなものです。朝昼晩の食事が主人公だとすれば、おやつはさながら脇役……。そう、モブです」
「そこまでは言っていませんよ。どちらかというと愛されキャラ枠です」
「おしゃれなカフェで提供される九割カタカナの名前のスイーツか、田舎のおばあさんの家に常備されている昔ながらのおせんべい……。はあ、おやつの肩身は狭いです」
「食事だけでは得られない幸福感を味わえますよ。カロリーと引き換えに……」
「カロリーを気にするんだったら、おやつなど食べなきゃいいのです。代わりに私が食べて差し上げましょう」
「だ、だめです。まだ食べます」
「おやつ大革命の作戦案として、ひとつ考えたものがあるのですが」
「当然のように知らない革命が出てくる。なにを考えたのですか?」
「一日四食にする」
「おやつを食事に昇格するということですね。というか、おやつも食事のひとつなんですけどね」
「さらに確固たる地位を確立するのです。おやつのすべてを受け入れ、世界中に広めることで、過去の悲しき惨事も報われるでしょう」
「さっきから気になっていたんですけど、過去の惨事って具体的にどのような?」
「お菓子足りない……。ちょっと、ホットケーキ作ってきます」
「散々しゃべっておいてスルーですか⁉ って、待ってください。勇者さんが作るんですか? ぼ、ぼくがやりますよ?」
「ホットケーキくらい作れます。なんかいろいろ混ぜて焼けばいいんでしょう?」
「『なんかいろいろ』の部分が重要なんです。焼くのも火加減とか時間とか……」
「世界は少しずつ優しくなっていっているのです。ほら、材料がすべて揃っている。これを混ぜて焼けば、どんな古代兵器レベルの料理下手もあっという間に作れます」
「し、心配なので、お隣で見ていても……?」
「お好きに。えーっと、まずはこの……読めないけど、テキトーに入れて」
「ホットケーキミックスですね。とっても便利なものですよ」
「あとは……卵と牛乳の絵かな。入れろってことでしょうね。そぉれ」
「絵がなかったらどうしていたのでしょう。ふ、不安が募って体が震えますぅ」
「そして、これは混ぜる絵ですかね。混ぜ……なんだこの道具。どれだ」
「泡だて器ならこちらに……って、それはハンドミキサーですよ」
「混ざればいいんでしょう。ボタン押して……うわわ、ボウルが安定しない」
「回転パワーが! マックス! なんで!」
「あっ。……ボウル吹き飛びました。中身も吹き飛びました。悲しい」
「次はぼくが作りますね……。ああ……これは片づけが大変そうです……」
「これがホントの惨事のおやつ。……ごめんなさい、私が掃除します」
お読みいただきありがとうございました。
一部実話です。
勇者「おやつが当たり前になってきた生活がおそろしいです」
魔王「食べたいものを食べればよいのです」
勇者「これが魔王の策略……むしゃむしゃ……」
魔王「えへへ……、おやつの時間は至福です。いろんな意味で」