148.会話 お金の話
本日もこんばんは。
読者様提供ネタシリーズ第1弾。ご提供ありがとうございました。
ということで、今回はお金についておふたりにお話していただきました。
謎の富豪、魔王さんのお財布事情が明かされる……そんなお話。
「よいしょっ……と。はあ、雑魚だと何も残らないのが腹立ちますね。お金くらい落とせば、まだやる気にもなるというのに」
「ぼくも戦うかっこいい勇者さんが見られてうれしいというのに」
「魔王さんも働いて――って、魔王さんがやることじゃありませんでした。いけない、頭がおかしくなりそうだ」
「勇者さんはいつもすてきですよ。がんばったご褒美に今日の夕飯はちょっと贅沢しましょう」
「それはうれしいですが、毎日毎日私たちの食事代や宿代を払って、よく保ちますね」
「こう見えて、ぼくは結構お金持ちなのです。えへん!」
「人間を襲って金を巻き上げているんですか?」
「そんなことしませんよ。ただの不良魔王じゃないですか」
「魔王に不良もなにもないと思いますけど。では、魔王さんのお金の出処はどこです?」
「よくぞ訊いてくださいました。これはすべて、貯めに貯めたぼくの貯金です」
「絶対うそ」
「う、うそじゃないです! 実は、ほんとうの目的に付随してお金が貯まったのです」
「付随? ほんとうの目的って、やっぱり村を襲撃したり――」
「ぼくはそんなひどいことしませんよう。アルバイトです」
「……は?」
「人間の仕事に興味がありましたし、人間と関わりたい気持ちもあったので、そうだ、バイトしようってなりまして」
「魔王が……バイト……」
「それはそれは良い経験になりました。数えきれない人間たちと友好的に過ごせましたし、今でもいい思い出です」
「あの、質問というか、疑問というか、驚きというか、訊きたいんですけど」
「なんでしょう?」
「某レストランでスープをぶちまけた魔王さんがバイトって、まじで言ってます? 暇すぎて見た幻覚じゃなくて? ご自分の妄想でもなくて?」
「これまで勇者さんに使ってきたお金が証拠ですよ。あ、もちろん魔王として稼いだお金もありますけど」
「魔王さんがバイト……? 一日でクビになったりしていません……?」
「じ、自分の向き不向きは知っているつもりですから。とはいえ、ありとあらゆる仕事をかじったとは思いますけど……。一日でクビも頻繁にありましたね、えへへ」
「ちなみになんですけど、長く続いたバイトってなんだったんですか?」
「そうですねぇ……。いくつかありますよ。サボテンに水をあげるバイトとか」
「サボ…………うん。サボテンね……うん」
「あ、老人ホームでおじいさまおばあさま方とお話するバイトとか。あれは楽しい時間でしたね~。ご老人の方々からは『お嬢さんは若いのに話題が一致して会話が弾む』とおっしゃっていただきましたよ」
「ご老人の中に交じるアルティメット老人ですもんね」
「下校中のお子さんが横断歩道を渡る時に旗振りをするバイトも長く続きました」
「想像してもなんの違和感がないところがおそろしいです。これが擬態」
「他のもいろいろやりましたよ。ですが、お金の使い道がなくって。なんだかんだで虚無期間が長かったので、ただお金だけ貯まっていったというわけです。ところがっ!」
「うわ、びっくりした」
「勇者さんに出会ったことでぼくの貯金が火を吹くことに! いやぁ、貯めておいてよかったです。こうして勇者さんに貢ぎ――こほん、美味しいものや安全なお宿を提供することができるのですから」
「私にとって魔王さんは何も言わずともお金を出す財布です。いつも感謝しています」
「まったくぼくを見て言っていませんが、シャイだということにしておきますね」
「見た目が少女なのに、お金を湯水のように使っていたら、そのうち悪い人間から目を付けられますよ。いつの時代もお金はトラブルの元ですから」
「ほんとうに困っているならあげますけど、そうじゃないならお断りです。ぼくのお金は勇者さんのために使うって決めているんです」
「あんなところに美味しそうな出店が。買っていいですか?」
「出店を?」
「んなわけ。当然のように店ごと買おうとしないでください。あなたのことですから、買えるだけのお金があるんでしょうけど」
「どうせ、勇者さん以外に使う予定はありませんから。好きなだけ使ってください」
「……私が言うのもなんですが、魔王さんってアブナイものに引っかかりそうですよね」
「アブナイもの?」
「例えば、私が病気になって動けないから医者を呼ぶ金を渡してほしい……って見知らぬ人に言われたらどうします?」
「渡します。勇者さんを助けるために!」
「そういうことです。気をつけてくださいね」
「どういうことです? なんで呆れたような顔して――って、ちょっと笑ってます?」
「笑ってません。お金はトラブルを引き寄せるから気をつけろと言っているのです」
「その理屈で言うと、勇者さんはトラブルの権化みたいになりますけど……」
「私の機嫌を損ねるたびに金貨一枚渡しなさい」
「なんですかその罰金制度。いや……、ぼくとしては貢げてはっぴー……?」
「だーめだ、こりゃ。手遅れだ」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんはお金に興味がないくらいお金を持っています。うらやましいです。
魔王「お小遣いあげましょうか?」
勇者「結構です。少しは持っていますから。……少しは。少し……」
魔王「そ、そう言わずに。ね、金貨数枚でも!」
勇者「真っ当なお金のはずなのに、魔王さんの態度でアブナイお金に思えてくる……」