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147.会話 口内炎の話

本日もこんばんは。

今日はいつもと違う勇者さんが見られるかもしれません。ヒントはサブタイです。

「勇者さ~ん、そろそろ夕飯ができますよ。お皿の準備を――って、どうしました? なんだか苦虫を嚙み潰したような顔ですね。空腹をガマンできなくてその辺にある草でも食べたんじゃないですか? だめですよ、毒草が混じっていたら大変です」

「……………………」

「あの……? もしかして、ほんとうに毒草食べました? だいじょうぶですか?」

「……………………」

「表情が過去に見ないくらい厳しい。あ、どこ行くんですか。ご飯食べないんですか? ……えっ、ホントに? 勇者さんがご飯を嫌がる⁉ な、ななななんということでしょう。天変地異の前触れ……。世界がひっくり返る予兆……。びょ、病院‼」

「……うるせえんですよ」

「あ、しゃべった。どうしたんですか? どこか具合が悪いなら言ってください。病気は早期治療が大事ですよ。言いづらいことなら紙に書いて……って、まだ練習中でしたね。やっぱり、直接ぼくに言ってください。お金ならあります!」

「うぅ~……やかましい。平気です。病気じゃないので」

「病気じゃないのに勇者さんがご飯を食べないなんておかしいです。病気でもご飯だけは食べそうなお人なのに」

「そんなに心配しなくていいです。ほんとに。口内炎が痛くて食べるのもしゃべるのもおっくうなだけですから」

「こ、口内炎……ですか。ほああぁぁぁあ~……あ、安心しましたぁ。重い病気だったらどうしようかと……。あっ、口内炎にはビタミンでしたっけ?」

「それは知りませんけど……。はあ、何をしていても痛いです。気分が悪い」

「いつも顔が死んでいる勇者さんですけど、今日は一段と死に具合がひどいですね」

「すべての口内炎を駆逐する勇者になりたい」

「そりゃまた、ピンポイントな……」

「口内炎ができるだけで日々のQOLがだだ下がるんですよね。生きるのもいやだ」

「そんなにですか。おそるべし口内炎……。どうしましょう、困りましたね。勇者さんがご飯を食べないだなんて、ぼくは震えが止まりませんよ」

「何に対する震えですか」

「だ、だって……、人間は食事が摂れないとすぐに死んでしまうって……」

「少なくとも、口内炎による餓死は聞いたことないのでだいじょうぶだと思いますよ」

「がんばって食べることはできませんか……? 勇者さんがご飯を食べないなんて初めてで、ぼくは芯から冷えていく思いです……」

「私の食事になにを求めているんですか。ちなみに、今日のメニューは?」

「あっつあつのキムチ鍋です。シメにはお米と麺の二種類をご用意しました」

「うっわぁ……。狙ったかのように痛いやつ……」

「だ、だめでしたか……」

「もはやただの苦行です。食べ物に罪はないんですけど……、痛いものは痛いのです」

「なるべく痛くならない料理を作り直してきましょうか。お腹すいているでしょうし」

「いえ、もったいないので食べます。熱さと辛さで感覚を麻痺させれば残るは美味しさだけ。シメもしっかり食べます。今日は量を少なくしてしまったのでペコペコですから」

「いつもより量が少なくて減りが遅かったのは見間違いじゃなかったんですね。元気が出るように辛いものを……と思いましたが、まさか裏目に出るとは……」

「……魔王さんは悪くありませんよ。いただきます」

「き、気をつけてくださいね。なにを気をつけるのかわかりませんけど」

「…………ゔッ……いったぁ……ぁ」

「聞いたことのないようなうめき声が!」

「…………うぐっ。……っっつぅぅ……お、おいしいです……」

「無理しないでください。ぼく相手に気を遣わないでください」

「……いや、ホントにおいしい。ホントに……いっったい……けど……」

「そんな……そんな命を懸けてまで食べなくていいですからぁ!」

「ゔぁぁっ……スープがしみ……ああぁぁぁ……スープやばいスープやばいスープやば」

「ゆ、勇者さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ‼」

「……傍から見たらとんでもない茶番なんだろうな……。痛みの向こうで冷静な自分がいますよ……」

「え、それ、ほんとうに冷静な勇者さんですか? 魂が抜けた勇者さんじゃなく?」

「あ、いいですよ、いいです。段々、感覚が消えてきました。ふふ……こうなれば私の勝ちです。ただのおいしいキムチ鍋を堪能できます。ふふ……ふふふ……」

「なにか大切なものも壊れていませんか?」

「魔王さんも食べましょうよ。冷めちゃいますよ」

「あ、そ、そうですね。いろんな意味で勇者さんが心配で喉を通りそうもありませんが」

「刺激で感覚麻痺作戦、大成功です。他にもいい作戦があればいいんですけど」

「そもそも感覚麻痺作戦は危険な気がしますが」

「痛い場所が一つだからだめなのかもしれませんね。口内全方位荒れればいいのかも」

「感覚が麻痺したんじゃなくて思考が麻痺していません?」

「もう何も怖くない」

「どうあがいてもフラグなんですよ、それ。そもそも、どうして口内炎ができたんですか? ビタミンが不足した食事……睡眠不足……? ピンときません」

「簡単ですよ。自分で噛みました」

「それはどうしようもありませんよ」


お読みいただきありがとうございました。

刺激で感覚麻痺作戦は天目がよく使う方法です。おすすめしません。


勇者「口内炎を気にするのも余裕があるからこそなんですけどね」

魔王「……しばらくは、お口に優しいご飯にしましょうね」

勇者「はい。つまりステーキですね」

魔王「ぼくの話聞いてました?」

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