146.会話 紙芝居の話
本日もこんばんは。
紙芝居って意外と目にする機会は少ない気がします。ちょっとだけ懐かしい気持ちを抱きながら、懐かしくないおふたりの会話をどうぞ。
「ぼくたちの旅はのんびりまったり、穏やかで平和、見たものすべてに癒しを与えるものです。マイナスイオンやアルファ波が出ています」
「私の知る旅とは違う旅をしているようですね」
「さらに多くの生けるものたちに癒しを与えるべく、ぼくは考えました。文章では読めないひとが困るでしょう。それなら、絵と声でぼくたちの旅を表現すればよいと」
「その結果が、地獄と呪いと絶望を閉じ込めたような絵ですか?」
「し、失礼ですね。がんばって描いたんですよ。それに、これはただの絵ではありません。紙芝居です。絵の裏に文章が書いてありまして、ページをめくるようにお話が進む仕組みなんですよ」
「見たら死ぬ絵、聞いても死ぬ物語ってことですか。逃げ場のない……」
「おぞましいものを見るような目でぼくを見ないでください。泣いちゃいますよ」
「紙芝居は初めてです。よくできていますね」
「舞台スタンドも手作りしました~。なかなかの出来でしょう?」
「不器用な魔王さんが作ったとは思えませんね。せっかくスタンドがいいのに、紙芝居の絵がアレなのが悲しいです」
「アレとはなんです。ま、まあ、まずは一度ご覧になってください。えー、こほん。それではただいまより、魔王による『魔王っぽい勇者と勇者っぽい魔王』の紙芝居、はじまりはじまり~。わ~、ぱちぱち~」
「テキトーなタイトルですね」
「むかーしむかし、あるところに、それはそれはかわいい勇者さんがいました」
「私を凝視して言うな」
「勇者さんは魔王と仲良くなるべく、魔王城に遊びにやって来ました」
「認識の相違が激しすぎる」
「勇者さんのあまりのかわいさに胸打たれた魔王は、もっと長く一緒に遊んでいたいと思い、旅に出る提案をしました」
「展開が急」
「勇者さんの手を引いて魔王城を飛び出した魔王は、今日もどこかでおしゃべりをして過ごしているでしょう。めでたしめでたし。わ~、ぱちぱち~」
「紙芝居がどういうものかわかりませんけど、よくできていたと思います。一応、大筋は合っていたような気がしなくもないですし」
「お褒めにあずかり光栄です」
「ただ、のほほんとした内容と裏腹に、始終、絵が怖すぎるんですけどね」
「そ、そうですか? ぼくと勇者さんが手を繋いでいる絵は特にお気に入りです」
「呪いが渦巻いて体を拘束されている絵かと思いました」
「ぼくの手をなんだと思っているんですか。よーく見てください、指は五本、白くてすらっとしたきれいな指、老いを感じさせない潤い艶やかな肌。どうですか?」
「どうもなにも、ただの手ですね」
「これがラブコメなら『繋ぎたくなる手ですね』と答えるところなのに……」
「紙芝居をエサに何人か誘拐し、スキを見て繋いだらいいじゃないですか」
「誘拐は犯罪です。スキを見て繋ぐにしても、誰でもいいわけじゃありませんよう」
「人間……人間はどこだ……お前の手を寄越せぇ! でいかがでしょう」
「誰かと手を繋ぎたいだけなのに思いが伝わらず討伐されてしまう悲しき怪物の物語ですか? 紙芝居にできそうですね」
「タイトルは『本来想定されていた魔王の姿』でお願いします」
「例のごとく討伐されるのはぼくなんですね。いやです」
「絵はアレですが、魔王さんの声質は朗読に向いていると思います。絵はアレですが」
「二回言った……。あっ、いいこと思いつきましたよ。勇者さんが絵を描いて、ぼくが読むんです。どうですか? カンペキじゃないですか?」
「ええ……めんどくさいです」
「睡眠導入に使うのもひとつの手かと」
「さり気なく手を握ろうとしないでください。そういう意味の手じゃないでしょう」
「うえぇええぇ~バレましたぁ……。さすが勇者さんです。察知能力はピカイチですね」
「魔王の生態を赤裸々に描いた紙芝居でも作って世界中にバラまいてやりましょうか」
「世間的に抹殺される予感がします。ですが、それだと朗読する人がいませんよ」
「録音したレコーダーを付属しておくんです。いつでもどこでも黒歴史暴露」
「ぜ、絶対やめてください……。とはいえ、録音データですか。それはいい案です。より癒し効果を上げるために朗読の合間に歌を歌うとか」
「げっ……。CM感覚で世界を滅ぶおつもりですか」
「ぼ、ぼくが歌うのではなく、勇者さんが! ぼくはまだ練習中ですから」
「なんで私が歌うんですか。絵も描いて歌も歌ってって……報酬は?」
「ぼくが手を繋いであげま――すえぇあ冗談です冗談、お顔がこわいです勇者さん」
「勇者へのいかがわしい発言や行動をすべて記録し、いつか人間の前で披露してやる」
「勇者さんが大勢の人の前に出るんですか? なんて珍しい! ぼくはうれしいですよ」
「驚くところ、そこでいいんですか」
「それじゃあぼくは、『勇者さんの一日』と題して、毎日のかわいいエピソードからかっこいいエピソードを網羅したスペシャルファンブックを作ります。紙芝居で」
「読むの、魔王さんだけだと思いますよ。そして紙芝居に固執するな」
「ぼくだけが知っている勇者さんのマル秘エピソードを完全収録」
「完成した日の焚き火が楽しみです」
「燃やす気だぁ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんに関することなら不器用でもがんばる魔王さん。
魔王「ゆく先々でこの紙芝居を披露していこうと思います」
勇者「魔王による精神汚染被害が報告される予感」
魔王「こ、こんなに穏やかな内容なのに⁉ かわいい絵なのに⁉」
勇者「見てる世界が違うのかもしれませんね」