145.会話 あらすじの話その➁
本日もこんばんは。
いつどこから読んでもなんら問題のないおふたりの物語なので、あらすじの出る幕がありません。
その➁ですが、強いて言うなら「前回までのあらすじの話」です。
①は第96話です。ご参考まで。
「前回までのあらすじ! はい、魔王さん」
「丸投げがすぎる。どうしたんですか、突然。前回までのあらすじですか? えーっと、いつも通り勇者さんとおしゃべりしているだけだと思いますので、特に言うことはないですね」
「そこなんですよ。私たちの旅は基本的にどこを切り取っても同じことしかしていません。まるで金太郎飴です」
「それでさっきから金太郎飴をなめていたんですね。おいしいですか?」
「美味です。それで、私は思ったんです。このままでは、前回までのあらすじを語ろうとした時に、すべて『勇者と魔王がのんびりおしゃべりしました』になってしまうと」
「いいじゃないですか。とっても平和ですよ」
「つまんないじゃん」
「口調どうしたんですか。つまらなくないですよ。ぼくは毎日楽しいです」
「前回までのあらすじは、前回までの出来事や振り返りに重要です。それなのに、私たちの旅ときたら来る日も来る日も同じことの繰り返し。前回までのあらすじのプライドがズタズタですよ」
「自我を芽生えさせなければいいのでは……」
「たまにはおもしろいあらすじを言いたいはずです」
「たとえば?」
「ロリババア魔王のどきどき潜入捜査㏌繫華街の路地裏にあるわくわく幼稚園」
「どこからツッコんでいいのやら」
「魔王のポシェットに忍ばせたこんにゃくトラップに気づく日はいつぞや」
「こわいことをおっしゃる……冗談ですよね?」
「鍵のかかった部屋には時限爆弾。果たして時間内に脱出できるのか」
「やっとそれっぽいあらすじが出てきましたね。ハラハラドキドキの脱出ゲームですか。あらすじで書かれていたら気になりますね」
「前回までのあらすじに元気になってもらうために用意したかいがありました」
「何をです?」
「私が枕にしている時限爆弾です。硬くて寝にくい」
「なにしてんですか! 変なもの枕にしていると思ったら、時限爆弾って」
「テキトーにボタンを押したら数字が出たんですよ。今日の日付ですかね」
「どう見てもカウントダウンですよ。ほら、120って出ているでしょう?」
「一月二十日のことかと」
「秒速で過ぎる一日があってたまるかってんです。残り時間はあと二分ってことですね」
「私が飴をなめ終わる方がはやいです」
「爆弾と張り合わないでください。ぼく、これ捨ててきますね。……あれ、ドアが開きません」
「魔王さんがぐーすかぴーと寝ている間に私がせっせと接着しました。どやぁ」
「どやるところじゃありませんよ。もー、仕方ありません。窓から出ます」
「窓もばっちり。どやぁ」
「かわいい顔したってだめですからね! でもかわいい! もういいです、ここで解除しますから。えーっと、青い線と赤い線が……ん? これは……」
「あと何秒ですか?」
「六十秒です。一分ですね。勇者さん、爆弾の解除方法ってわかります?」
「わかるわけないじゃないですか。そのまま放っておけば、次の話の時に前回までのあらすじが書けますよ。『迫りくるタイムリミット。爆発まで残り一分。果たして解除できるのか。そして、ふたりの運命は――』というのはどうです?」
「それっぽいですね。あらすじに書かれていたらわくわくしちゃいます」
「そうと決まれば、爆弾はそのままにしておきましょう。次まで持ち越しです」
「そうですね――じゃないですよ。ぼくたちはこの後も続いていくんですから、持ち越せないんです。ほら、残り四十秒ですよ」
「そう言われても。昨日の夜から動き出して、やっとゼロになる時がきたと思うと、そっちの方が楽しみだったりしますよ」
「何時間カウントダウンしているんですか……」
「ビビッとくるような前回までのあらすじが欲しくて用意しましたけど、結局いつもと変わらないですね。慣れないことをするもんじゃありませんでした」
「努力は評価しますけど、なにゆえ時限爆弾を選んだんですか。というか、どこから持って来たんです」
「ゴミ置き場かと思ったら、いろんな人が勝手に持って行っていて。どうやら『ご自由にお持ちください』と書いてあるらしく。人がいなくなったのを見計らってゆっくり吟味してきました」
「危ないものがあるかもしれませんから、そういう場所のものは一応気をつけてくださいね……。現にこれ、危険度マックスですし。あ、残り二十秒ですね」
「魔王さん、そこのお菓子取ってください」
「え? はい、どうぞ。爆弾がここにあるのに、ずいぶんのんびりですねぇ」
「ありがとうございます。だって、魔王さんが爆発させるわけありませんからね。どうせ魔王ぱぅわぁーでねじ伏せるんでしょう」
「そうですけど~……。もうちょっと危機感をですねぇ……」
「あ、ゼロ秒ですね。……うわぁ、うるさ。うるさーい」
「目覚まし時計ですね、これ。さっき解除しようとして中身を見て気付きました」
「魔王さんが全然焦らないのでそんなとこだと思いました。さーて、あらすじは『命を賭して爆弾から勇者を守った魔王。ぼろぼろになった黒猫のストラップを見つめ、勇者はひとり歩き出す――』で、どうでしょう?」
「息をするように捏造しないでください」
「嘘も貫き通せばホントになるとか」
「ぼくが死ぬことだけはホントになりませんけどね。残念ながら」
お読みいただきありがとうございました。
前回までのあらすじをお話したので、本日は次回予告をしようと思います。
次回、第146話「紙芝居の話」。内容は、勇者さんと魔王さんがおしゃべりしています。いつも通りです。
魔王「もう勝手に拾ってこないでくださいね。何が紛れているかわかったものではありません」
勇者「特に変な物はありませんでしたよ。不気味な人形とか、怪しい本くらい」
魔王「そういうのを変な物というのです――って、なんですか、ぼくを見て」
勇者「魔王さん以上に変なものがあるかなぁと。うん、ないですね」
魔王「う、うれしくない……」