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144.会話 彫刻の話

本日もこんばんは。

幼い頃、彫刻は人間が固められて作られたと思っていました。現在は、その可能性もあるだろうと思っています。そんな天目による彫刻の話、お楽しみください。

「勇者さーん、あれは人間じゃなくて彫刻というものです。動いたりしませんから、ね? その剣を下ろしてください? 壊したら器物損壊罪になりますよ」

「紛らわしいんですよ……まったくもう……」

「いやぁ、素晴らしい身のこなしでしたね。映像に収めておきたいのでもう一度――」

「やりません。気配がなかったので気付くのが遅れました。しかもなんかでかいし……」

「普通の人間の大きさではありませんね。六メートルほどあるでしょうか」

「ちょっと不気味……」

「芸術は難しいですからねぇ。ちなみにこれは、石を彫り刻んで作られているようです」

「それはご苦労様ですね、としか」

「大変だったでしょうねぇ。ですが、こうして石や木材を使うことで、壊れない限りこの姿を見ていられるのです。まるで時間を止めたように。すてきなことだと思いませんか?」

「ううーん……。ちょっとよく……わからないかもです。技術はすごいと思います」

「素直でよろしい! それもひとつの感想です。偉そうに言っていますが、正直ぼくもさっぱりです! あっ、見てくださいこの彫刻! 変なポーズしています~。えいっ」

「真似しないでください。めちゃくちゃおもしろいじゃないですか」

「こっちも、そいっ。いだぁっ!」

「関節技をキメられたポーズでしょうか。痛そう」

「勢いあまって腰をやった気がします。無理は禁物ですね」

「私は簡単かつ楽な姿勢を真似します。これでどうでしょう」

「椅子に腰かけ、片手を膝に、もう片方をあごの下に……。ずいぶん悩んでいるようですが、一体どんな悩みが……?」

「……今日の夕飯、ハンバーグとオムライス、どっちにしようかな」

「あっ、しょうもな。すごくしょうもない悩みでした。安心しました」

「しょうもなくないですよ。ご飯の悩みは重大です」

「勇者さんにとっては大きな悩みでも、だいたいの人にとっては小さいかと」

「お腹すいたなぁ……。よし、決めました」

「お早い決断で。して、選ばれたのは?」

「両方食べます。ガマンは不要」

「言うと思いました。遠慮せず、たくさん食べてくださいね。なんですか、そのポーズ」

「悩みが解決したので喜びを表現しています。私の隣にある彫刻を真似しているんですよ。きっとこの人も夕食のメニューを決めかねていたのでしょう。おめでとうございます、今日の夕飯はなんですか?」

「突然のインタビューやめてください。彫刻って何食べるんでしょうか……」

「ピーマンの肉詰めだそうです」

「あっ、すごい家庭的」

「ほら、メニューが決まったのでタイムセールに向かって走り出しましたよ」

「フォームがきれいなことで……。陸上選手だったのでしょうか」

「あ、こけたみたいですね。見てください、膝を抱えて落ち込んでいます」

「見なかったフリをしてあげましょうか……? 人前で転ぶとちょっと恥ずかしいですし……」

「だいじょうぶそうですよ。地に強く片膝を立て、今にも立ち上がろうとしています。鋼の心ですね。タイムセールに間に合うことを祈っておきましょう」

「そうですね――って、なんですか、この茶番は」

「こうして場面を想像し、彫刻の人生……じゃなくて、彫生に思いを馳せることで、さきほどまでの不気味さを解消する企みです。がんばれよー、名も知らぬ彫刻」

「勇者さんが楽しいのなら、ぼくは何も言いませんよ。彫刻を見ながら歩いてきましたが、ここは外に設置するタイプの美術館のようです。ですが、荒れ具合を見るに、もう使われていないようですね」

「美術館ですか。行ったことないですね」

「今度、行ってみましょう。彫刻だけでなく、絵画やモニュメントといった多種多様な芸術に触れることができますよ」

「気が向いたら――あ、魔王さん。あそこにある彫刻、見てください」

「おや? これは……。老朽化でしょうか。壊れてしまっていますね」

「タイムセールに間に合わなかったか……」

「それは違うと思いますけどね……。この彫刻で一区切りのようです。最後がどんなものだったのか、もうわかりませんね」

「台座は残っているようです。……ふむ、それなら。魔王さん、ここに立ってください」

「え、ぼくですか? えーっと、こうです?」

「そこで、お好きなポーズを取ってください」

「ええっと、では、ダブルピース魔王で」

「写真撮影じゃないんですけどね」

「変えましょうか?」

「……あ、なるほど。いえ、そのままで結構ですよ」

「楽しそうですね。なにか思いつきました?」

「満面の笑みでダブルピースをする彫刻……。どうやら間に合ったようです」

「……? あっ、タイムセール!」

「そういうわけで、今日の夕飯にはエビフライも追加で」

「この流れはピーマンの肉詰めじゃないんですか」

「さーて、夕飯楽しみだなぁ」

「あ、ちょっと、あの、待ってください。もう動いていいんですか?」

「残念ながら、魔王さんの時間は止められませんからねぇ」

「ああぁあぁ~……、同じポーズで止まっていたから体のあちこちが痛いですぅ~……」

「ほぐしてあげましょうか」

「えっ⁉ ゆ、勇者さんが⁉ なんて珍しいことを――って痛ぁ‼ この体勢なんですか」

「さあ? やっぱり、芸術はよくわかりませんね」

お読みいただきありがとうございました。

彫刻を見るたびにハチャメチャストーリーを考えてしまう癖があります。治らない。


魔王「いつか、勇者さんの彫刻とか石像とか銅像とか作りたいです」

勇者「新手の拷問ですか」

魔王「またの名を等身大フィギュアとも言う」

勇者「たぶん絶対違うと思いますよ」

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