140.会話 魔王の交友関係の話
本日もこんばんは。
魔王の交友関係の話ですが、登場人物はいつものおふたりです。
交友する気がない会話をどうぞ。
「なにをしているかと思えば、それは手紙……ですか?」
「はい、そうです。魔王という役柄、いろいろとありましてねぇ。お仕事に関するものから知り合いからのものまで、多岐にわたりますよ」
「ふうん。……魔王さんって仕事してたんですね」
「ぼくのことなんだと思ってるんですかぁ」
「役目をほっぽって勇者にちょっかいかけてる暇人」
「い、一応それらしいことはしているんですよう……。悪事はしていませんけど」
「魔王としてそれはどうかと思いますけど。それと、知り合いってどんな?」
「おっ! 気になります? 気になります? ぼくのプライベートにご興味が?」
「ないです」
「そんな。恥ずかしがらなくていいんですよ。知り合いといっても、ほんとにただの知り合いとか、古い腐れ縁とか、そういうやつです。一番のお友達は勇者さんですからご心配なく。にっこり」
「なにも言ってませんよ」
「またまたぁ~。心配性な勇者さんのためにお答えしましょう。これは魔王城からの定期便、これは部下からの報告書、これは魔界からの要望クレーム等々、この一通だけ知り合いですね。ほら、数で言えば少ないでしょう?」
「中身まで見せなくても……。読めないし」
「これらには焚き火で燃やす未来が待っています」
「燃やしちゃっていいんですね」
「ちゃんと読んでから捨て――燃やしていますから。だいじょうぶです」
「知り合いさんの手紙も燃やすんですか? 怒りません?」
「へーきです。文通しているわけではありませんし、会おうと思えば会える相手ですし」
「そういうもんなんですか。ところで、知り合いさんからの手紙だけ真っ黒ですね」
「触らない方がいいですよ~。相手は死神ですから」
「しにが……え? あ、まじか。いるんだ、死神」
「そりゃあ、いますよ。滅多にこっち側には来ませんけどね。というか、来たら困りますし……」
「厄介な空気を感じました。魔王さんも知らないところで苦労しているんですね」
「今どこにいるんですか~‼ ってガチギレしている手紙とか、いい加減にしてほしいですよう」
「居場所くらい教えてあげればいいじゃないですか」
「いやですよ。勇者さんとの時間を邪魔されるに決まってます」
「向こうは向こうで苦労しているんですね。何の感情も生まれませんけど」
「手紙が届くようにしてあげているだけ感謝してほしいです」
「あ、そこもコントロールできるんですね。さすがチート魔王。……おや、また手紙が届きましたよ。どちら様でしょうか」
「んー? 魔族の知り合いと、……んむむむ? これは勇者さん宛ですね」
「私? あ、でもまだ読めませんよ。差出人はどなたです? ……って、変な顔ですね」
「うぎぎぎぎ……。なーんでこのひとが勇者さんに手紙をぉ~……?」
「そう言われると気になりますね。誰ですか?」
「……妖精女王です。まったく、一体勇者さんになんの用ですか……」
「読んでいただいても?」
「むむっ! そ、それはあとにしましょう。手紙なんて腐りゃしませんから」
「魔王さん、その妖精女王というひととトラブった過去でもあるんですか?」
「うぎっ⁉ ト、トラブったというか、なんというか~……」
「死神と知り合いというのも驚きました。交友関係が広いんですね。友達がいないって言っても、実は結構いるんじゃないですか?」
「知っているだけで仲が良いかは別ですからね。友達とは言えません」
「他にはどんな方とお知り合いなんですか?」
「えっ⁉ ええっと……ぼ、ぼくの知り合いを知っても面白くないですよう……」
「さっきは訊いただけであんなに喜んでいたのに?」
「んみぃぃぁ~…………だってぇ……」
「ははーん、さては魔王さん、ご自分の黒歴史が露見するのを恐れているんですね? ご安心を。現在進行形で黒歴史を拡大中ですから」
「ど、どの辺がですか⁉」
「役目を放棄して勇者とのんびり旅しているなんて、とんでもない黒歴史ですよ」
「穏やか健やかのんびりはっぴーがどうして黒歴史になるんですか。これは白歴史と呼ぶべきです」
「そういう問題じゃないような。……過去の魔王さんを知るにはこういったひとたちに会うのもひとつの手ですね」
「過去のぼくを知りたいんですか? つまり、ぼくにご興味が!」
「一体どんな悪事を働き、世界を恐怖に陥れていたか……。それを知らなくては、魔王さんの威厳は失墜し、地面を突き破り、世界の底から一周ぐるりと回ると空から降ってきちゃいます」
「ん、んん……? どうなっているんですか、それ……?」
「そういうわけで、妖精女王さんとやらの手紙を読んでください。読まないなら妖精女王さんとのトラブった出来事を洗いざらい吐いてください」
「えぇ⁉ ト、トラブっ……な、仲良しです仲良し! お、オモトダチ~!」
「……口を開けば黒歴史、ですね」
お読みいただきありがとうございました。
なにかしゃべれば黒歴史になるひと、魔王。
魔王「焚き火をしましょうね。そぉれ~」
勇者「いくつか読んでいない手紙ありませんでした?」
魔王「必要ならまた送ってきますよ、きっと」
勇者「エンドレスやぎさんゆうびん……」