139.会話 日の出の話
本日もこんばんは。
初日の出ではありません。ただの日の出です。
とある日のただの日の出の話、お楽しみください。
「おお……。なんて美しい日の出なのでしょう。どうですかどうですか? 早起きしてよかったでしょう?」
「ねむ……。超絶珍しく魔王さんが早起きするので何事かと思いきや……。程よい時間の早起きができない病気ですか?」
「今日は日の出とともに活動したい気分だったのです。地平線から出てくる太陽を見ると、一日が始まる~って感じがしませんか?」
「あんまり……。ふわぁ……あ……」
「ね、眠そうですね。あ、だめですよここで寝ちゃ! 勇者さん!」
「一日が始まると言いますけど、なぜ日の出が始まりになるのでしょう」
「目をこすりながら哲学的な問いをする勇者さん……。よほど眠いようですね」
「一日が二十四時間だとして、日付が変わるのは深夜じゃないですか。夜ですよ。朝じゃない。出ているのは月の方で、日の出まで数時間はかかります。一日の始まりというのなら、真夜中の月を見て言うのがもっともらしいと思うのですが」
「朝からよく働く頭ですねぇ。勇者さんの言い分もよくわかりますよ」
「それなのに、なぜか太陽がその役割を担っている。その理由は……」
「理由は?」
「夜行性の撲滅」
「思いもよらない路線できましたね。その心は?」
「日の出が始まりだなんて言い出した人は、きっと朝型なんですよ。いるでしょう? 朝型と夜型。自分たちの優位性を確立するために、夜を生きる存在を駆逐しようとしているのでしょう。ああ、おそろしい。世界は争いでできているのです」
「ちょっと楽しんでません?」
「あと、夜は魔なるものの支配時間でもありますから」
「それらしい理由を付け足さないでください。『そういえば』っていう顔したの、見逃しませんでしたよ」
「太陽と月の関係性も……」
「おや、そんなものまで?」
「あるかどうか知りませんけど」
「知らないんかい」
「どんな時間に何をしようとどうでもいいですが、店の開店に合わせると一般的な時間になってしまうんですよね。宿のご飯もだいたい同じ時刻ですし」
「深夜二時に夕飯ですよ~って言われたらびっくりしますもんね」
「日の出とともに朝食と言われても困ります」
「勇者さん的には、一日の始まりはいつなんですか?」
「私が起きた時」
「そうきますか~。というか、勇者さんらしい答えといいますか~」
「日の出が始まりを感じるというのも理解はできますけどね。イメージの問題でしょう」
「お月見があるなら、太陽見もあるのでしょうか~」
「初日の出という言葉がありましたね。初お月さま? うーん、似合わない」
「日の出には日の出の良さってことですね! おしゃべりしている間にすっかり昇ってしまいましたが、いかがでしたか?」
「たまにはいいですね。たまには」
「徹夜したかいがありました~」
「寝てなかったんかい」
「起きられないと思いまして。それなら最初から寝ずにいよう! と」
「おばかさんですね……。そうまでして日の出が見たかったんですか。毎日チャンスはあるんですから、無理しなくてよかったのに」
「思い立ったらすぐ行動したいんですよ~。実は何度か失敗しているんですけどね」
「徹夜しようとして寝ちゃったんですね」
「ぐーすかぴーですぅ~……」
「魔王と日の出って似合わないはずなのに、見た目のせいで初期装備かってくらいしっくりきますよ。早朝から愉快です」
「清々しい笑いをお届けしますよ! 太陽を背にして……後光!」
「朝から元気ですねぇ」
「日の出とともに一日を始める。なんて素敵なスタートなのでしょう」
「この後の予定も決めているんですか?」
「いえ、特には」
「それなら私、宿に戻って寝ます」
「せっかく早起きしたのに⁉」
「いい夢がみられそうです。ふぁ~わ……だーめだ、ねっむ……」
「た、太陽を見て目を覚ましてください!」
「魔王さんで隠れて見えません」
「なんと。これでどうです!」
「まぶしい……。魔王さんは眠くないんですか? 徹夜したんでしょう?」
「それがなぜだか、全然眠くないのです! これが日の出ぱぅわぁーでしょうか」
「ギンギラギンの眼光……。お元気そうで何よりですが、日の出効果ではありません」
「なんと! では、一体これは⁉」
「深夜テンションですね」
「日の出を浴びたのに⁉ 一日の始まりを感じたのに⁉」
「魔王さんの一日は始まる前に終わってもいないということです。つまり、寝ろ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはこのあと昼まで寝ました。
勇者「日の出を見たのが遠い昔のように思えます」
魔王「せっかく早起きしたのに二度寝が長いですよう」
勇者「そういう魔王さんはよく起きられましたね」
魔王「起きたというか、あれから寝ていないので」
勇者「だから寝ろって」