138.会話 おしゃべりの話
本日もこんばんは。
毎日毎日繰り返されるおふたりのおしゃべりについてのおしゃべり、どうぞお楽しみください。
「勇者さん。ぼく、おしゃべりが好きなんですけど」
「周知の事実ですね。改まって言わなくていいですよ」
「話のネタがなくても隣に勇者さんがいるととりあえず口が開いちゃうんです」
「病気かもしれませんね。一度診てもらってください」
「勇者さんがどんなに冷たくあしらっても、応えてくれるだけでうれしくて」
「ドM――」
「そ、そういう意味ではなく。本音の暴言でも愛が感じられてうれしいって意味で」
「そういうのをMと――」
「それでですね、こうして何をするわけでもなくおしゃべりする幸せを感じていて」
「おしゃべりをするをしています」
「勇者さんから飛び出すへりくつが良い味を出していて」
「ふわぁ~……。ねむいなぁ……」
「ぼくのことを欠片も気にしていないような態度が勇者さんらしくて」
「お腹すいたなぁ。夕飯なにかなー」
「欲望に忠実ではあるものの、なんやかんやでぼくを気にしてくれる優しい勇者さんがそばにいて」
「ちょっと寝るので勝手にしゃべっててください」
「マイペースレベルマックスなところにもはや安心します」
「すやぁ……」
「…………」
「すぅ……すぅ……」
「…………えっと」
「……むにゃ…………」
「あのー……、さすがですね。なんというか、さすがですね」
「……なにがですか」
「あ、起こしちゃいましたか。すみません」
「寝入り直後ですからね。魔王さんの起きてオーラに引っ張られました」
「えぅ、すみません……。おしゃべりしたくって……」
「毎日毎日鉄板の上にいる魚もびっくりのエブリデイおしゃべりのくせに、まーだしゃべり足りないんですか」
「しゃべり足りないというか、勇者さんとお話することに意味があると前にも言ったでしょう? ぼくの隣でお声を聴かせてください~」
「あーいーうーえーおーかーきーくーけーこーさー……」
「そういうのじゃ、そういうのじゃなくてですね。声ですけど、そうじゃなくてね」
「文句が多いですねぇ。何が望みですか」
「悪役みたいなセリフですね。望みもなにも、こうして勇者さんとのんびりおしゃべりしたいだけですよ。それだけです」
「魔王さんは魔王なんですから、私のコピーくらい作れないんですか? 高性能でオリジナルと区別がつかないレベルの」
「……勇者さん、本気でおっしゃっています?」
「私が本気でしゃべることの方が少ないです」
「どんなにオリジナルと似ていても、それはオリジナルではないのです。同じ声、同じ顔、同じ性格でもコピーはコピー。オリジナルの勇者さんはここにいるただひとり!」
「替えが効く方が安心してやりたい放題できます」
「替えが効かないから大切で大事なんですよ。無茶厳禁!」
「あー、じゃあ声だけ。声だけ抽出しておしゃべりできるマシーンを作りましょう」
「んー……? それは本当に勇者さんとおしゃべりしていることになるのでしょうか」
「私の思考回路を学習させて、自動的に会話を生成してくれます」
「勇者さん……じゃない……ような」
「名付けて『傍から見たらアブナイ人だと思われるおしゃべりマシーン』」
「なっが。そしてピンポイントすぎる命名ですね。そのアブナイひとってぼくのことですか? ただおしゃべりしたいだけなのに?」
「ひとりでしゃべっていたら、まともな人は近づきませんからね」
「ぼくの小さくて大きな楽しみが……ぐすん。いえいえいえいえいえいけません!」
「えっ、なんですか急に……。こわ……」
「どんなに勇者さんの言いそうなセリフをしゃべってくれたとしても! ぼくがおしゃべりしたいのはそう! ここにいる! 生きた勇者さん! おんりーわんっ‼ 世界にひとりだけの勇者さん! なんばーわんじゃなくてもおんりーわん!」
「言い方が気味悪いです。さりげなくくっつこうとしないでください。離れろ」
「ああ~このあしらい方~これですこれです~」
「私が言っていいのかわかりませんが、魔王さんの進む先が不安です」
「ぼくは内なる欲望と自分に素直なだけです」
「どうします? もし、私が声を失ったら。二度とおしゃべりできなくなったら」
「ど、どどどっどっどどどどづするもんあいにあもっ!」
「なんて?」
「な、なにゆえ声を失うというのです? 敵の魔法ですか? 敵⁉」
「考えてなかったのでそれで」
「ぼくが魔王の力をもってこてんぱんのぎったんぎったんにしてやりますよぉぉぉ!」
「おしゃべりに命懸けすぎでは……あ、不死だからいいのか。でも、気をつけてくださいね。おしゃべりは損をするっていいますよ」
「ハッ……、そうでした。しかし、損の内容によります。ちょっとやそっとの損でぼくのおしゃべりは止められません!」
「私からの好感度が下がる」
「ぐっ……それは……大……損……!」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんにとって勇者さんはナンバーワンでもありオンリーワンです。花屋の店先に並んでいたら花屋ごとかっさらっていく感じです。
勇者「魔王さんは変なところでこだわりが強いですよね」
魔王「妥協はいたしませんから!」
勇者「すべて私の匙加減なんですけどね」
魔王「手のひらの上の魔王……それもまたよし!」