137.会話 学校の話
本日もこんばんは。
世界観迷子のような学校の話です。この物語はいつも迷走しているので問題ありません。
「……道の向こうから大量の人間のこどもが歩いてくる。よ、避けねば……」
「下校中のようですね。はいは~い、気をつけて帰るんですよ~」
「……営業スマイル」
「いつもの顔です。ほら、もう行きましたよ。出てきてください」
「やれやれ……。げこーちゅーですか」
「下校です。学校からの帰り道。どうやらこの近くに学校があるようですね。年齢から察するに、小学校でしょうか」
「ガッコー……。前に聞いた単語ですね。勉強するところでしたっけ」
「勉学だけでなく、運動や芸術、生きていくために必要な知識など様々なものを学ぶための場所です。とはいえ、必ず行かなきゃいけないというわけでもありません。その人に合った学び方をすればいいのです」
「複数人のこどもがいたのを見るに、集団生活を強いられるんですか」
「強いてはいませんけど……。在籍する人数にもよりますが、家庭内よりは多いコミュニティの中で生活することになりますね」
「絶対いやだ……」
「あはは……。勇者さんには大変な場所かもしれませんねぇ。ぼくは学校好きなので、よく授業風景をのぞき見したり姿を変えて忍び込んだりしましたねぇ」
「息をするように犯罪」
「が、害を与えることは一切していませんよ。平和を感じに行っただけです」
「姿を変えて忍び込むって、学校で働いている人間に、ですか?」
「いえ、生徒に」
「……それはちょっとどうかと思いますよ」
「な、なんでですか。微笑ましく見守っていただけですよ」
「なんだろう……なんか……なにかがだめな気がして仕方ない……」
「一度もバレてません!」
「いっそバレた方がよかったですよ。しっかり裁かれてください」
「うわーーーん! いいですもん、だってぼく魔王だし。悪い事して当然だし!」
「人間のことなどどうでもいいですが、あの子たちの健やかなる未来に悪影響が出なくてほっとしている自分がいます」
「珍しく勇者みたいなこと言いますね」
「でも、はやいとこ立ち去りましょう。わらわら出てきてもいやです」
「わかりました~……。……いいなぁ、学校。ぼくも行きたかったです」
「魔族用の学校はないんですか?」
「あるにはあるんですけど……。ぼくは人間の学校の方が好きなんです」
「こだわりがあるんですね。興味ありませんけど」
「学校と一言でいっても色々ありますからね。小学校、中学校、高等学校はもちろん、大学や専門学校などなど。時代によって名称は異なりますが、学び場であることはいつだって変わりません。はぁぁ……学校、うらやましいですぅ~……」
「魔王さんなら不正しまくって入れそうですけど」
「それはやってみたんですけどね」
「やったんですね」
「とある日の授業中に『魔王討伐!』って乱入してきた勇者さんがいまして……。それはもう大変なことになりまして、それ以来、人間の学校とは距離を取っているんです……」
「……うん、なんかその、残念でしたね、いろいろと」
「はいぃ~……ぐすん。『学校を占拠するとは卑劣な!』とか『人々の学び舎に何の用だ!』とか……。占拠じゃなくて通学ですし、何の用って勉強しに来ただけですけど~~~⁉ なんですかなんですか! 魔王が人間の学校通っちゃだめっていうルールでもあるんですか~~⁉ ひどいです魔王差別ですーー‼」
「その勇者、やっていることは正しいですが場所を間違えましたね。たくさんの人間がいる場所での戦闘は巻き込む可能性が高いですし、保護や経路確保に神経を使います。勇者としてふさわしくないといえるでしょう」
「勇者さんに言われたらどうしようもないですね。い、一応フォローすると、意気込みだけは百点満点でしたよ。……許してはいませんけど」
「本音が漏れていますよ。でもその勇者、よく魔王さんだってわかりましたね。変化魔法を使って侵入していたんでしょう?」
「魔王城に残したままにしてあったぼくの入学書類を見て来たそうです。ぐぬぅ……」
「それは魔王さんの落ち度ですね。シュレッダー買った方がいいですよ」
「そうします……」
「そうだ、私なら学校に乗り込むなんて所業はしません。今なら思う存分、学校に行くことができますよ」
「えっ、で、ですが、勇者さんといることより大事なことなんてありません」
「今を逃すと二度と学校に行けなくなっても?」
「勇者さん優先です」
「……ブレないですねぇ」
「……ん? いいこと思いつきましたよ。勇者さんと一緒に学校に通えばいいんです」
「えぇ……、絶対いやです」
「特別枠、特別枠で! あっ、魔法学校とかどうですか? 世界的に有名な学院があると聞いたことがあります。一般的な人間の学校より多種多様でフリーダムらしいですよ」
「そもそも、勉強きらい……」
「お、お試し入学! あっ、まずはオープンスクールからでも。お願いー‼」
お読みいただきありがとうございました。
学校に放り込まれて死んだ魚の目をする勇者さん、いつか見たいです。
勇者「人間に混じって授業を受ける魔王さん、想像したらおもしろいですね」
魔王「とっても楽しかったです!」
勇者「ちなみに、なにを学んだんですか?」
魔王「心理学です」
勇者「心理……へえ……」
魔王「これで勇者さんのハートをキャッチ――痛ぁ‼ し、心臓が痛いですぅ……」