135.会話 拳銃の話
本日もこんばんは。
物騒にみえていつも通り穏やかです。全年齢の味方です。安心してお読みください。
「魔王さん。こんな物を拾ったんですが、どうやって使うのでしょうか」
「なにを拾ったんで――って、ちょっと⁉ それ、拳銃じゃないですか絶対使っちゃだめですよ銃刀……なんとかですよ危ないですポイしてください」
「そんなに危険な物なんですか」
「とてつもなく危険です」
「魔王さんと比べるとどっちが危険ですか」
「諸々を加味してぼくの方が危険ですね……って、なに言わせるんですか!」
「どう考えても指で押す部分がありますね。ここを押せばいいのでしょうか」
「銃口をご自分の顔に向けるなんて正気の沙汰ではありませんよ」
「あ、こっちか」
「そうそう、ぼくの方に向けて――って、それも違う! いや、違わないけど違う!」
「えいっ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉ …………ん? お花?」
「おもちゃですよ、これ。ゴミ捨て場に置いてありました」
「ゴミ捨て場だからって勝手に持ってきちゃいけないんですよ……。ともあれ、おもちゃでよかったです。本物なら大変なことになっていましたよ」
「拾った時は知りませんでしたけど、一度自分の顔に向けて撃ちましたから、おもちゃだというのはすぐにわかりました」
「ぼくの知らないところで物語を終わらせないでくださいね」
「撃つたびに花が出てきますが、実際は銃弾でしたっけ」
「はい。とっても殺傷能力が高い武器ですから気をつけてくださいね」
「本物は見たことないかもですね」
「見ないで一生を終える方がいいですよう」
「殺傷能力が高いなら対魔王さん用に自作しようかな」
「け、拳銃は自作しても罪になりますよ!」
「所持するのもだめ、作るのもだめ、じゃあどうしたらいいんですか」
「勇者さんは剣でじゅうぶん強いですよ」
「でもこれ、遠距離攻撃できますよね? 私の場合、剣をぶん投げでもしないと遠距離から攻撃できないんですよ」
「それはほら、魔法とか使っていただいて」
「見た目がかっこいいので拳銃ほしいです」
「あ、まずい……。珍しく勇者さんが食べ物とだらけること以外に興味を抱いてしまった……。いいことのはずなのに、よりによって拳銃だなんて……!」
「銃刀法違反している闇の店はどこでしょうか」
「ばっちり法律知ってるじゃないですか」
「普段から銃刀の下の部分を違反していますからね、私」
「あっ、そういえばそうでした。アッ⁉ ぼくもそうですね?」
「小型で殺傷能力が高く持ち運びしやすい武器だなんて……。剣捨てようかな」
「ガンアクション勇者さんもかっこいいこと間違いなしですが、ご自分ほどの大きな剣を振り回す勇者さんも捨てがたい……あの、こめかみに銃口を当てないでください?」
「手を挙げろ。さもなくば撃つぞ」
「撃っても出てくるのはお花ですよね?」
「一度言ってみたかったんです。気分はどうですか?」
「おもちゃだとわかっているのに謎の恐怖を感じました。こわいです」
「指があれば相手を倒せるとなると、持っておいて損はないですね。やはり闇の店を探さなくては」
「あああだめですよう。日々のメンテナンスも欠かせませんし、暴発もこわいです。銃弾の補充も定期的に必要ですし、実際撃ってみると反動やら衝撃やらもすごいですよ。簡単そうに見えるかもしれませんが、当てるには訓練も――」
「神様のギフトで」
「ぐぬっ……。勇者だけに許されたチートを使うおつもりですか……!」
「本日より年齢制限をかけてマジモード戦闘勇者をお見せいたします」
「だ、だめですよ。ぼくたちの旅は生まれたての赤ちゃんの英才教育でも使用されることを目指しているんですから」
「拳銃を握る赤子ですか。未来は安泰ですね」
「心配ですよ。ほら、おもちゃの拳銃もゴミ捨て場に戻してきてください」
「実はもうひとつ拾っていたんです」
「パーティーグッズの成れの果てでしょうか――って、これ本物ですよ⁉」
「そばにこんな物も」
「銃弾! 危ない! 危なーい‼ 誰ですかゴミ捨て場に本物の拳銃捨てたひとは」
「試しに引き金も引いてみたんですけど、動きませんでした」
「あぁ、安全装置が作動していますからね。あっ、これ言わない方がよかっ――」
「へえ。これかな。あ、外れたっぽい」
「ちょっ、あの、だめですよ危ないですからね銃刀法違反ですからねポイしてください」
「一発だけ」
「わあぁあぁぁぁぁ銃口を覗かない! 危ない。ホントに。向けるならぼくに!」
「こうですか? えいっ」
「ひえぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ‼ ぴぃぁ⁉ み、水……?」
「なーんちゃって。これ、水鉄砲ですよ。最近のおもちゃはリアリティがありますね」
「ぼく、本気で心配したのに~……」
「古き良きものばかりではなく、新しいものにも目を向けた方がいいですよ」
「わかりましたから銃口を押し付けないでくださいよう」
「噴射される水で観察眼を磨いてください」
「老眼にも効きますかねぇ……」
お読みいただきありがとうございました。
少女が拳銃を持つ姿からしか得られない栄養素は存在します。
勇者「いつか本物を使ってみたいです」
魔王「ぼくが許しませんよ」
勇者「仕方ありません。拳銃っぽいやつで妥協します」
魔王「結局危ない予感しかしない」