133.会話 迷子の話
本日もこんばんは。
旅とはつまりエブリデイエブリタイム迷子のことです。旅人はみな迷子です。
迷子のおふたりをお楽しみください。
「うむむむむぅ……。困りました。ここは一体どこでしょうか」
「さっきも通った道ですね。あそこのへんてこな曲がり方をした木、絶対見ました」
「つまり、ぼくたちは迷子ってことですね。でもだいじょうぶ! ふたりで迷えばこわくない!」
「目的地のない旅をしている私たちは、常に迷子とも言えますが」
「い、今は目的地があるんですよ。今日のお宿まで行かなくてはいけません。道順を書いたメモを渡したでしょう? 次の目印はなんて書いてありますか?」
「読めない私に渡しても」
「絵も描いておきましたよ」
「ご自身の画力を思い出していただいて」
「す、数本の道や木に画力は必要ないでしょう。棒線でも表現できるくらいですから」
「棒線ねぇ。この禍々しい木のばけもののどこが棒線なんでしょうか」
「ちょっとアレンジしてみました」
「まるで蛇のようにうねっている……。気味が悪い木ですね」
「目印にはもってこいの木じゃないですか。あれ? さっきありませんでした?」
「まさか、へんてこな曲がり方をしたアレですか?」
「そうですよ。やっぱり迷子じゃないですね。メモ通りです」
「一度目で目印だとわからない点でメモの役割は失われています」
「目印だとわかったんですから結果オーライということで……」
「森の中を迷わなくても、魔王さんのやべぇ力で木々ごとなぎ倒せば解決では?」
「環境破壊じゃないですか!」
「伐採ですよ」
「不必要な伐採はいけませんよう」
「じゃあ、すべてくべてキャンプファイヤーでもしましょう」
「森の中でキャンプファイヤーは火事待ったナシですよ」
「そこはなんとかしてください。魔王でしょう」
「投げやりですねぇ。あ、森を抜けるようです」
「広いところに出ましたね。近道が森の中は結局遠回りになるような」
「迷ったら、の話でしょう?」
「迷ったから言っているんです」
「最終的に到着すれば迷っていません。えへん」
「結果論ですか。終わり良ければすべて良し?」
「ぼくは動機論派です~。途中に何があったのかが大事なのです」
「なおさら迷っている事実から目を背けてはいけないような」
「ま、迷うことも楽しんでいるんです。行く先が透明なぼくたちだからこそできる旅なのですから」
「私ははやく宿で休みたいですね。歩き回って疲れました」
「それは大変です! 迷っている場合ではありません。ここはどこですか!」
「ご自分で書いたメモを見てくださいよ」
「えーっと、ふむふむ。なるほど~」
「わかりました?」
「わかりました。ぼくたちは迷うべくして迷ったということが……! って、痛ぁ⁉」
「すみません、無意識に剣が」
「気をつけてくださいね……。ええと、メモに書いてあったことなんですけど」
「嫌な予感しかしない」
「『何を書いても迷うと思うのでぼくの好きな歌詞を書いておきます』って、痛ぁ⁉」
「すみません、意識的に剣が」
「頭がかち割れるかと思いましたぁ。あ、メモにはまだ続きがありますよ」
「剣の準備をしておきます」
「ひぇ……。ええと、『迷えば迷うほど森の中で勇者さんと一緒にいられます』……?」
「よほど死にたいようですね」
「ま、待ってください。ぼく、こんなこと書いた覚えがありません!」
「無意識のうちに書いたんでしょうよ。意図的な迷子は犯罪です」
「初めて聞く犯罪ですね……」
「未成年拉致ですよ」
「あ、一気にアブナイ気配がしますね。のんびり迷子に変更してください」
「森を抜けたら勝ちかと思いましたが、まだまだ迷いそうですね。宿に着くのはいつになることやら。どっかの犯罪魔王がよこしまな気持ちを抱くから……」
「……うぎっ。で、ですが、迷うからこそ得られるものもありますよ」
「たとえば?」
「知らない景色とか……」
「行ったことない場所に行けばすべて知らない景色ですよ」
「誰も知らないお宝とか……」
「あんまりいらないですね」
「本気でお宿の場所がわからなくて焦り始めた魔王とか……」
「それは困りま――はい? なんて?」
「怒った勇者の手により、魔王は頭と胴体がさよならすることに。ひょえー! 一体どうすりゃええんですぅ⁉ 果たして夕食前に宿に辿り着くことはできるのか⁉ 次回、魔王、すれ違いざまに道を訊く。そこのお嬢さん、お待ちなさーい! 乞うご期待!」
「キャラが迷子になっていますよ、魔王さん」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんが疲弊を訴えたので魔王ぱぅわぁーで宿を見つけました。
勇者「あの地図、ほんとに意味ありませんでしたね」
魔王「存在自体に意味があるのです!」
勇者「読み書きの必要性が日に日に増していく……」
魔王「怪我の功名ってやつですね!」
勇者「うるせえんですよ」