132.会話 びっくり箱の話
本日もこんばんは。
びっくり箱の中から出てきても驚かないような会話をどうぞ。
「勇者さん、これどうぞ!」
「どうも。捨てていいですか?」
「ひどい! せめて中身を確認してから捨ててくださいよう」
「魔王さんの顔がこれ以上ないくらいニヤニヤと気味が悪いので、絶対なにか企んでいるのだろうと思いまして。開けたくもないですね」
「そ、そそそっそそんなそんなことないですよ」
「確定演出じゃないですか。なにを企んでいるんですか? 中身なんですか?」
「あ、開けたらわかりますよ……なーんて」
「まあ、危険なものではないのでしょうね」
「とーぜんです! ぼくが勇者さんを危険にさらすようなマネすると思いますか?」
「えいっ。…………なんですか、これ?」
「えっと、あの、びっくり箱ってご存知ですか? あと、なんで驚かないんですか……」
「だいたいの想像ができたので」
「それはすごい。ええと、改めまして、これはびっくり箱です。箱を開くことで仕掛けが作動し、おもちゃが飛び出てくるものです。本来はそんなに微動だにせず見るものではありませんけど……」
「びっくり箱より驚くものが世の中には溢れていますからね。目の前の魔王とか」
「ぼくはびっくり箱よりレベルが高いということですか。照れます!」
「魔王さんにはただの箱にこんにゃく入れればびっくり箱の完成ですね」
「洒落にならないびっくり箱を作らないでくださいね」
「びっくりとは、つまりなんでしょう」
「唐突な話題チェンジにぼくがびっくりしています。どうしました?」
「人によってびっくりするポイントは違うでしょう。魔王さんにはこんにゃくのように」
「勇者さんは箱の中になにが入っていたらびっくりしますか?」
「魔王さんの首」
「それはぼくもびっくりですね」
「箱からはみ出るくらい金銀財宝が入っていたら……」
「はみ出ているなら開ける前からわかっちゃいますよ」
「焼きたてのステーキとか」
「匂いでバレませんか?」
「ふっかふかの羽毛布団とか」
「両手サイズの箱にはちょっと入らないですね」
「びっくりさせる気あります?」
「そもそも人形などのおもちゃで驚かせるものですからねぇ。首は入れませんよ」
「いずれマンネリ化するでしょう。それを防ぐためにも首チャレンジは必要です」
「こどもがギャン泣きするかと」
「将来のためにも生首のひとつやふたつ、見慣れておかなくてはいけませんよ」
「将来、殺し屋にでもなるんですか?」
「そんなわけで、魔王さんの生首でびっくり箱を作り、大手玩具会社に持ち込もうかと」
「大騒動待ったナシですね」
「こどもたちの未来のために、一肌脱いで……いえ、生首もいでください」
「こどもたちの未来のために遠慮します。せっかくならお菓子がたくさん飛び出すとか、かわいいぬいぐるみが出てくるとか、ハッピーな気持ちになるものにしましょうよ」
「残念です。提案を却下されてアンハッピーな私はこんにゃくを買ってきますね」
「話し合いましょう。生首は生首でも、おもちゃの生首なら許容範囲です」
「私は魔王さんの首以外欲しくありません」
「真っ直ぐな目で言われても絆されませんよ。というか絆される内容じゃない!」
「そもそも、この箱では小さすぎて入れられるものが限られていますよ」
「大きいのもありますよ? 中に人が入り、近づいた人を驚かせるドッキリも有名です」
「箱の中に人が……。なるほど。新しい住処ですか。寝心地はいかに」
「ヤドカリじゃないんですから」
「箱の中に魔物を吸収し、一杯になったら燃やすというのはどうでしょう」
「びっくり箱が魔法の箱になっていますが」
「大きさは手のひらサイズ。包装のリボンを解くと勝手に魔物が吸い込まれる仕組みです。収納された魔物は米粒サイズに変わり、能力などはすべて封印されます」
「めちゃくちゃ強い箱じゃないですか」
「満杯になるたびに箱ごと燃やし、魔物が消え去ったところで箱だけ復活します」
「チートじゃないですか」
「使う人に制限なし。魔法の有無は関係なく、すべての人間が使用可能です」
「世界が平和になっちゃいますね!」
「という箱を想像したんですけど、どこに売ってます?」
「売っていたらこの世界に勇者さんもぼくも存在していませんねぇ」
「世界に激震が走る驚きの箱、その名も『なんでも収納ボックス』」
「ちょっと怪しい名前ですね」
「人間、魔族、すべての生きとし生けるものが驚いた奇跡のアイテムです」
「そんなものが現実にあったらぼくもびっくりですよ」
「これがホントのびっくり(性能)箱」
「誰がうまいこと言えと」
「お値段おひとつ、一億五千万円」
「びっくり(プライス)箱……」
お読みいただきありがとうございました。
巨大びっくり箱に住む想像を獲得した勇者さん。
勇者「箱の中から勇者がどーん、とかどうです?」
魔王「プレゼントは勇者さんってことですか⁉ 丁寧に包装して毎日眺めます!」
勇者「そんなに喜びますか。誰だっていつかは箱の中に入るのに」
魔王「そういうこと言わないぃ~……」