131.会話 空の話
本日もこんばんは。
どうあがいてもロマンチックな会話にならないおふたりによる空の話、どうぞお楽しみください。
「いい天気ですね~。雲ひとつない快晴ですよ。気分も晴れやかになります」
「太陽滅ぶべし」
「暗黒発言は控えてください。人類の敵になりますよ」
「絶賛人類の敵である魔王さんに言われても」
「ぼくはいつだって勇者さんの味方なのでつまり人類の味方です」
「極論はやめてもらって。天気がいいのは認めますが、個人的には雲があったほうが空って感じがすると思うんですよ」
「入道雲とか?」
「まばらな雲でも。青一色だと空か海か分からなくなりません?」
「むしろ分からなくなるんですか? だいじょうぶですか?」
「空も海も似たようなもんでしょう」
「さすがに違いますけどねぇ。似ているといえば、海にも白波があって青と白ですね」
「ほらぁ」
「だからって同一視するのはどうかと思いますよ。『空を見上げる』とは言っても、『海を見上げる』とは言わないでしょう?」
「海底から上を見上げれば言えますよ」
「でた。勇者さんのへりくつ」
「ふとした瞬間にどっちがどっちだか分からなくなります」
「では、泳げるか泳げないかで考えましょう。海は泳げる、空は泳げません」
「空を泳ぐように……って言いません?」
「それは比喩表現ですよ。実際に泳ぐことはできないでしょう?」
「魔王さんみたいに飛べる人は泳いでいるようにも見えますよ」
「えっ、そんなロマンチックな目でぼくの飛ぶ姿を見ているんですか⁉ すてき――」
「客観的意見です」
「どこに客がいるんですか。ここにはぼくと勇者さんしかいませんよ」
「空の上とか」
「見下ろされていると……。撃ち落としましょうか」
「でも、空は青だけじゃありませんね。時間によって色を変えます」
「ナチュラルスルー……。そうですね、朝焼け、夕焼けという言葉があるくらいです」
「つまり、海も赤色や黄色や緑色になるってことです」
「つまってないですよ。どういう理屈ですか」
「空と海は同じ理論です」
「空と海は違うっていう話をしていたと思っていたのはぼくの錯覚でしょうか」
「そうですね。頭だいじょうぶですか?」
「この話の勇者さんよりはだいじょうぶだと思いますよ」
「そういうわけで」
「どういうわけで?」
「世界にある赤色とか黄色とかの海を探しに行きましょう」
「雰囲気だけロマンチックに言わないでください。本当に探すおつもりですか?」
「通りすがりの道端にあればうれしいかなってくらいです」
「通常運転ですね。安心しました」
「さて、空も海もだいたい同じという結論が出ましたが」
「時間飛びました? ぼくの知らない結論ですね」
「ひとつだけ、違うところがあります」
「ひとつ以上は違うと思いますが。して、それは?」
「空はどこにいてもある」
「ほお。たしかに、山に海はありませんもんね」
「つまり、空の勝ちです」
「いつの間に勝負していたんです? どちらにもすてきな点はありますよ」
「いつでもどこでもあるんですよ。圧倒的に勝ちでしょう。たとえば、今から海に行きたいと思っても、たどり着くまでに時間が必要です。しかし、空なら見上げる労力のみで可能です。ほらぁ」
「ほらぁじゃないですよ。その理論でいくなら、空にも到達しなくてはいけません。飛ぶ力を持たないものにとって空に行くことは海に行くよりよっぽど大変です」
「青色ウォッチングなら見れば勝ちです。行くか行かないかは重要ではありません」
「それなら空でも海でもなくてもいいじゃないですか」
「青い花とか、青い食べ物とか、青い動物とかですか?」
「そうですそうです。それも青色ウォッチングですよ」
「わかっていませんねぇ。空と海。それはずばり、青色界の二大巨頭ですよ」
「魔王の知らない世界、本日は青色の世界ですか。説明お願いします」
「世の中には青色のものがごまんとありますが、空と海に勝てるものがあるでしょうか」
「個人の意見によるかと……」
「空のライバルは海、海のライバルは空。その間に入れるものはありません」
「つまり、青色ウォッチングでも空と海以外は勝負にならないと?」
「その通りです。そして、ノータイムで青色をウォッチングできる空の勝ちです」
「到達しなくても青色を見ればいいということですか」
「そうですね」
「では、これをどうぞ。海のポストカードです。これを見ればきれいな青色をノータイムで。さて、勝敗は?」
「へりくつの勝ちですね」
お読みいただきありがとうございました。
よく考えなくても夜に読んでいる方は青い空じゃないですね。そんな日もあります。
魔王「青色魔王になったら勇者さんにずっと見てもらえるってことですか⁉」
勇者「死にたいならそう言えばいいのに」
魔王「剣先……剣先が当たって……ひぇぇぇ……」
勇者「顔色真っ青魔王ですね」