13.会話 読しん術の話
本日もこんばんは。
読唇術と読心術ってどっちが強いのでしょう。そんなわけで今回は読しん術の話です。
「魔王さん、私が考えていることを当ててみてください」
「“お腹すいた”」
「間違ってはいませんが、違います」
「じゃあ、“デミグラスハンバーグ”」
「うぐ……。正解にしたいですが、違います」
「答えはなんですか?」
「“読唇術”です」
「“しん”違いですね」
「魔王さんでもできないことがあるんですね」
「ぼくのことをなんだと思っていたんですか」
「飽和したチートキャラ」
「求められていないんですか、ぼく」
「なんですか、その顔。そんな顔しても私もいらないです」
「人の心がないんですか」
「本心は声にしないものですよ。どうぞ私の言いたいことを読んでみてください」
「さっき読めなかったのにそういうこと言います?」
「チートキャラの能力を遺憾なく発揮し、てへぺろをしながら頭を掻いてください」
「要求がピンポイントすぎません?」
「いきますよ。“――――――――――――”」
「あ、読唇術になってる」
「声にしないと言いましたよ」
「たしかに声には出ていませんけど」
「それで、答えは?」
「“ミートボール入りたこ焼き”」
「正解です」
「おいしそうですね。ぼくもお腹がすいてきました」
「次の問題です。“―――――――――――――――”」
「“雑草ビュッフェ、季節の踊り食い”」
「正解です。すごいですね」
「食欲が収まりました」
「では、今日のご飯は私だけですね。安心してください、魔王さんの分まで残さず頂きますから」
「ナチュラルにご飯抜き」
「あー、お腹すきましたね。何食べましょうか。―――とか―――はどうですか?」
「重要なところが読唇術スタイルなんですね」
「―――――も捨てがたいですし、――も最高ですね。あと―――も追加で」
「一部分だけ口パクなの、地味に難しくないですか?」
「――――――――――――」
「あ、全部になった」
「…………」
「どうしました?」
「いえ、喋るのって体力使うなと思いまして」
「怠惰の極みみたいなこと言いますね」
「読唇術も、結局、口を動かしているので筋肉が疲れます」
「勇者さんって、人間に向いていませんよね」
「間違えて人間として生まれてしまったと思っています」
「そこまで生きにくい種族ではないはずなんですけどね。勇者さんには合わなかったんでしょう」
「魔王さんが読心術を使えたらなぁ」
「勇者さんは表情筋も死んでいますからね。表情や仕草から読み取るのも難しいです」
「私は読み書きもできないので、筆談もできませんし……」
「腕を使うのはいいんですね」
「もう超能力に覚醒するしかありませんね」
「それこそ神様からギフトとしてもらえばよかったのでは」
「ああ……、その手が……」
「ふだんから頭を使っていないツケですね」
「はあ……。もう喋るのやめようかな」
「困りますよ。ぼくのひとりごとになるじゃないですか」
「私は構いませんよ」
「ぼくに構ってくださいよう」
「魔王さんなら魔法で話し相手くらい作れるでしょう」
「ぼく以外にも困る人がいるんですよ?」
「誰ですか、それ」
「読者さんです」
「メタいことを……」
「だからちゃんと喋ってくださいね」
「……………………」
「わかりましたよ~。仕方ないですね。今日の夕飯は唐揚げ定食とステーキにしましょう」
「わあい。…………ん? あれ、心、読まれた……?」
「てへぺろ」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんが言ったことは魔王さんにしかわかりません。
勇者「テレパシーが一番便利な気がします」
魔王「それでもおしゃべりはでき……ますね?」
勇者「造語で」
魔王「遠回しにぼくとおしゃべりしたくないって言ってます?」