128.会話 キャンプの話
本日もこんばんは。
キャンプをするときはルールやマナーを守ってお楽しみください。
この物語を読むときは一切のルールやマナーが存在しないので思うままにお楽しみください。
「最近、のんびりまったりゆるゆるとキャンプをするのが流行っているらしく」
「テントをばっさぁぁしながら言われても。昼寝の邪魔です」
「最先端を追うぼくとしてはこの流行に乗らないわけにはいかないのです」
「キャンプなんて頻繁にやっているじゃないですか」
「勇者さんがテントもハンモックもなしに寝ようとするので毎度大変ですよ」
「焚き火は好きです。眠気を誘う魔法としか思えません」
「まだ火もおこしていないのに寝ないでくださいよ。幻覚みてるんですか?」
「のんびりキャンプをしたいなら、キャンプ場でテントを張ればいいじゃないですか」
「ぼくは、もっともーっとリラックスできるキャンプがしたいんです。テントでごろごろするだけでは満足しません」
「めんど……。つまり、何がしたいんですか?」
「のんびりまったりゆるゆるしたいです!」
「詳細を言えって言ってんですよ。具体的な行動はつまり何」
「え、ええっと……。たとえば……マシュマロを焼いたり……?」
「前にもやりましたよ」
「えーっと、読書をしたり?」
「読めばいいじゃないですか。私は昼寝しますから、どうぞご自由に」
「あっ、えっと勇者さんとできるものがいいです。ええっと、ええっと……」
「そんなに困るなら、やらなくていいのでは」
「それはいやです! 同じようなキャンプでも毎回ちがうキャンプなんですから。忙しかった日は体を休めるだけになります。だから、のんびりできる時はのんびりすることを楽しみたいんです」
「言いたいことはわかりました。それなら、なおのこと考えすぎはよくないですよ」
「考えすぎはよくない、ですか……?」
「難しく考える頭も放棄して、流れに身を任せ、ぼうっとすればいいんです。体を休めるだけじゃなく、頭も休めることが必要なんですよ」
「そうですね。ですが、勇者さんはもう少し心身ともに働いてくださいね」
「いま、頭を休めているので言葉の理解ができません」
「のんびりすることを楽しむ。たとえば、何があるでしょうか……」
「流れる雲を眺めるとか、星空を眺めるとか、空の上のその先を想像するとか」
「いいですねぇ~。まさにのんびりです」
「音楽を聴くとか、眠るとか、魔王さんにのしかかるとか」
「いいです――よくないですね。最後のなんですか」
「寝返りの時にちょっと。たまたま手にナイフも」
「そんなたまたまがあったらたまりませんよ。寝返りとともに顔面にナイフを突き立てられるなんて命がいくらあっても足りません」
「減る命でもあるまいし」
「のんびりはどこいったんですか。ぼくの話、聞いてました?」
「星空眺め、流れ星ときどきナイフ」
「デンジャラス星空観測……」
「キャンプの醍醐味はなんでしょう。キャンプ飯? 焚き火? テント?」
「キャンプファイヤーとかもメインイベントですよね」
「積み重ねた木に魔王さんを磔にして炎で包み、その周りを踊ればいいんですか」
「テリファイドキャンプファイヤ―……」
「身も凍るようなおそろしい儀式ですね」
「ぼくは燃やされているんですけどね」
「ハンモックにくるみ、勢いをつけてぐるんぐるん回しましょうか」
「地面に落ちるとこまで想像できました。あれ、地味に痛いんですよ」
「やったことあるんですか。さすが暇人魔王」
「だ、誰もが一度はやってみようとするでしょう? ハンモック道の登竜門ですよ」
「知らない道があるんですね。世の中は広いです」
「肝試しなんかもド定番ですね。どうです? 今度やってみ――」
「結構です。暗くなったら寝る。寝ないなら星でも眺めてろってんです」
「流れ魔王しましょうか?」
「星って落とせるんですかね。落とせなくても落としますね。ロケットランチャーで」
「すみません、深夜のロケランは苦情がくるので控えてもらって」
「キャンプの夜は花火って聞きましたよ」
「残念ながら、ロケランは花火に入らないんですよ。いや、残念じゃないですけど」
「打ち上げ花火しましょうよ。魔王さんをくくりつけて」
「派手に散れってんですか。遠回しの愛情表現だと解釈しますが、よろしいですか?」
「その脳みそごと散り咲いてください」
「キャンプで花火は今度やりましょう。一度にぜんぶじゃなくて、ひとつずつ、少しずつ。定番イベントが尽きたら、次はぼくたちで考えましょう。そうやって、何回も何回もキャンプしましょうね」
「その理屈でいくと、ご飯が食べられるのは一度きりなんですけど……」
「食事睡眠は定番イベントに含んでいませんよ。必須イベントでしょう」
「ひとつ、必須イベントが抜けていますよ」
「なんですか?」
「ナイフでドキッと炎を囲んでハンモックに包まれロケランで散る一大イベントが」
「ぜんぶ詰め込み欲張りセットみたいに言わないでください」
お読みいただきありがとうございました。
ロケラン花火、流行るのもすぐそこです。
勇者「花火コーナーにロケランが売っていないのですが」
魔王「分類が違いますからね」
勇者「品揃え悪いんじゃないですか」
魔王「なくて助かる命があるんですよ」