127.会話 演出の話
本日もこんばんは。
よく見るあんなことやこんなことについてお話していただきました。
「青く澄んだ空……。ぼくの心も健やかで晴れやかで穏やかでのどかですよ……」
「雨が降ったら?」
「悲しくな……るわけじゃありませんけど、なんですか急に」
「よくあるじゃないですか。悲しい気持ちのキャラを雨でずぶ濡れにさせる演出」
「心が泣いていることを表現しているのでは?」
「言いたいことはわかりますけど、たとえば、声も聞こえないくらいの大雨だったらどう思います?」
「ちょっと、あの、強いかも……? と思います。それか、大泣きしているのかなと」
「表情も見えないくらいえっらい土砂降り」
「シリアスシーンで?」
「大切な人が死んだ直後にでもしましょうか」
「そ、それはどうかと……。声や表情は伝わるくらいの雨じゃないと置いてけぼりになりますよ」
「追い風に乗って駆け抜ける時に、とんでもない威力の風だったら?」
「ぼくたちの髪の毛が荒れ狂うでしょうね。やめてくださいよ、ちょっとおもしろいじゃないですか」
「向かい風に吹かれながらも足を踏ん張って進もうという時に、風速七十メートルだったらどうします?」
「人間は立っていられませんよう。吹き飛ばされちゃいます」
「相手は自然ですよ。人間の思う通りに雨や風を演出してくれるとは限りません」
「悲しい気持ちの時にカンカン照りとか……?」
「温度差があっておもしろいです。採用」
「採用しないでください。もっと心に寄り添って」
「人間の気持ちを察して犬猫が寄り添うシーンとか、実は『はやくご飯よこせ』だったら魔王さんはどうします?」
「いろんな意味で泣きながらご飯を用意するでしょうね」
「三ページくらいめくったら見つかる目的の情報とか」
「知らないところで一ページ目から確認しているんですよ。……たぶん」
「危機的状況でタイミングよく現れる助っ人とか」
「うしろでスタンバってたんですよ。……たぶん」
「定期的にすく私のお腹とか」
「それは単純明快、勇者さんが健康である証ですよ。そろそろお昼ごはんですね」
「スプーンを動かすたびに減るお皿の料理とか」
「それは食べているから……って、もはや演出でもなんでもないですよ」
「裏で神様が糸を引いているとしか考えられません」
「だいたいのことはそうですけど……。ところで、なにをしているのですか?」
「魔王さんは逆光という現象をご存知でしょうか」
「それはもちろん……」
「私は思いついたんです。逆光を使えば姿の詳細を見せることなくシルエット勇者として生きていけると」
「言いたいことはわかりましたが、わけがわかりません」
「太陽の光に照らされ、表情が見えない人物が地平線を進んでいく演出……。どうですか? まるで最終回ですよ」
「今後の旅を逆光で行くならエブリタイム最終回になりますが」
「いつ終わってもいいように毎日を最後の日にして進みましょう」
「すみません、よくわかりません」
「ヘイ、魔王さん。私にすべてを滅ぼす力を」
「魔王にお願いすることじゃないですよ。それはぼくの担当です」
「魔王を倒す勇者なんですから、世界を滅ぼすくらいはできなきゃだめだと思うんです」
「できてもやるのが魔王、やらないのが勇者ですよ」
「わたしはやりたいです」
「真顔で言わないでください。魔王を倒した勇者が闇々しい力を世界中に広げて人々を恐怖に陥れる演出とか求めてないですから」
「絶対かっこいいと思うんですけどね。空に浮かび上がる不気味で巨大な魔法陣……」
「ぐっ……。勇者さんの茨が世界中を覆う様を想像したら痺れますねぇ!」
「魔王さんが同じようにやっても、まるで世界を救うようにしか見えなさそうですね」
「こういう時、光属性って不便ですよねぇ。がんばってもワル~な感じが出なくって」
「……いえ、むしろいいのかもしれません」
「というと?」
「人々は空を見上げ、神の降臨を拝むように慈悲を求め、いずれ訪れるすべての終わりに首を垂れるんですよ……。圧倒的な力の前に、弱きものはなんの抵抗もできない。無慈悲で公平な力っていったら、神様も魔王さんも似たようなもんですし」
「まるでぼくがすっごい怖い存在みたいじゃないですか」
「実際、そうでしょうよ。ふだんはのほほんとしてぼけっとして勇者の財布になっている魔王さんでも、魔王は魔王ですから」
「ひどい言われよう……」
「演出の力を借りればまごうことなき魔王になれます」
「魔王なんですけどね……」
「試しにやってみたらいいんじゃないですか? 世界滅亡。演出込みで」
「そうですね――って、やってたまるかってんですよ‼」
お読みいただきありがとうございました。
世界滅亡のお試し期間は本日23:59までとなります。お見逃しなく。
勇者「私たちのへなちょこ語彙力ではうまく表現できませんね」
魔王「直接見ていただいた方がはやいですね」
勇者「引き込みましょうか」
魔王「画面やページから手が出てくる演出? でもそれ、すでに先駆者がいますよ。貞――」
勇者「それ以上はいけません」