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125.会話 蚊に刺された話

本日もこんばんは。

蚊は見つけ次第すべて駆逐しましょう。

「あっ……。ちっ、刺されましたね」

「どうしました? ハッ⁉ 蚊が飛んでいます。まさか、あの蚊、勇者さんの血を⁉」

「ええ、吸われたようです。おのれ蚊め、私の貴重な血液を……」

「ゆ、勇者さんの血を吸うなど……」

「返せ私のヘモグロビン!」

「許しません……。決して許しません……! このぼくがめってしますからね!」

「滅っ?」

「だめですよって叱るめっです。おこ魔王ですよ」

「物言いは柔らかいですけどね、出てますよ、魔王オーラ」

「おっと……。ぼくとしたことが、勇者さんの血を吸うなどという恐るべき愚行を働いた小さきものに抑えられぬ怒りが……。しんこきゅ~。しんこきゅ~」

「あ、また蚊が」

「死に絶えろっっ‼」

「危ないですね。私まで燃やし尽くすおつもりですか?」

「まっさか。勇者さんに当てるわけないでしょう。このぼくが。このぼくがっ‼」

「わかったわかりました。ところで、蚊に刺されに効く薬とか持ってます?」

「もちろんです。どうぞ。ぼくのポシェットにはありとあらゆる世界各国有象無象の薬が所狭しに保存されていますからなんでも言ってください」

「危なげな薬は出さないでくださいね」

「勇者さんに言われたくはないですが……。薬というものは、使い方や容量を守れば薬、守らなければ毒になります。気をつけてくださいね?」

「わかっています。頭ではね」

「どこではわかっていないんですか?」

「知識。どの程度の……という知識は持っていませんから」

「なるほどなるほど。ごもっともですね。でしたら、勇者さんが使う前にぼくが致死量を確かめてみましょう」

「それで死んでいただけたら苦労しないんですけどね」

「どんなものでも使いすぎはよくありません。その塗り薬もですよ」

「いやぁ、気持ちいいですねこれ。延々に塗っていられます」

「冷えっ冷えになりますよう」

「でも、ずっと塗っていたら蚊はやってこないでしょう。一石二鳥ですよ」

「肌が荒れちゃいますよ。もうじゅうぶんでしょう。そんなに塗ったんですから、スースーマックスじゃないですか?」

「風が吹くとちょっと痛いくらいですね」

「塗りすぎなんですよ。風下にいるとぼくまでスースーしてきます」

「この薬、魔王さんにも効果あるんですか。へえ、いいこと聞いた」

「ぼくは害虫じゃないです。さ、さすがに泣いちゃいますよ?」

「世界的には害虫より滅するべき存在なんですけどね。魔王専用の薬ってあるんですか」

「やだなぁ、そんなものを開発している会社があるなら、見つけ次第潰しますよ」

「見つけ次第駆逐される蚊のようですね。魔王さんにとっては蚊も人間も同じ――」

「誤解を招く言い方しないでくださいよう。蚊と人間を同じに考えるわけないじゃないですか。人間には慈悲ってものを抱きますが、蚊に抱くわけないでしょう。勇者さんの血を吸ったんですよ? 殺してよくないですか?」

「純粋なまなこ……。蚊も人間も同じひとつの命ですよ」

「う、う~ん……。そう言われましても、やっぱり勇者さんの命は天秤にかけることすらできない唯一無二の替えのきかないただひとつの絶対的なものなんですよう~……」

「悩んでいる風に見せかけて蚊など眼中にないって言っているだけですね。さっきから殺虫スプレーらしきものをひたすら撒いていますし」

「この世の蚊はすべて殺します」

「蚊専門の勇者みたいな」

「くだらないように聴こえますが、蚊は実に多くの命を奪う危険な生き物なんですよ?」

「魔族とどっちが多いですか?」

「ええと……。どっちでしょう……。たぶん……魔族、かなぁ?」

「では、私はこのままでいた方がよさそうですね」

「そうですね――って、掻いちゃだめですよ。悪化したり痕が残ったりします」

「気づいてしまったからには、もう目を逸らすことはできないのです……。かっゆい」

「ああああだめですよ! えっと、蚊に刺された時は温めるんでしたっけ冷やすんでしたっけ薬は……散々塗りましたから次は……あ、洗浄しましょう清潔にしましょう!」

「塗った薬が落ちると思うのですが」

「あううう~……。で、では、掻かないようにテープを貼りましょう」

「包帯なら慣れています――って、待て待て、巻きすぎです」

「これで勇者さんはだいじょうぶです蚊の駆逐の続きを薬の散布を一匹残らずすべての蚊をこの世界から消し去らなくては勇者さんの血を返してください二度と吸わせません‼」

「落ち着いてください。今まで数えきれないくらい吸われてきましたから」

「ぐぬぬぬぬううう……。過去の蚊もすべて消し去りたいです……」

「蚊に刺されたわけでもないのに、魔王さんが真っ赤っかになっています。怒りで血管がよくわかりますねぇ。これは血が吸いやすそうですよ」

「ぼくの血ですか? あー……。ぼく、蚊に刺されないんですよ」

「えっ、なんでですか。ずるいです」

「吸ってもおいしくないんです」

お読みいただきありがとうございました。

蚊取り線香を入れる容器もかわいいものがあるんですね。いい時代です。


勇者「蚊に刺されないためにも外に出るべきではないんです」

魔王「出たくないだけですよね」

勇者「私のヘモグロビンには愛情を持ってくれないんですか?」

魔王「あまりに初めて聞くセリフですね」

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