122.会話 試練の話
本日もこんばんは。
勇者と魔王といえば試練ですよね。そんなわけで、試練の話です。
「はあ、私に勝てるはずもない雑魚のくせに、毎度毎度よくもまあ……。倒せば経験値が入ってレベルアップする世界じゃないんですよ、ここは」
「そのわりには、勇者さんは最初からお強いですよね。補正でしたっけ」
「神様の好みだったとかなんとか。くだらない理由ですよ」
「勇者といえば、勇者の試練がお決まりですが、ご経験は?」
「この人生が試練と言えますが」
「そ、それには同感ですが、いわゆる勇者専用試練ですよ。武器の技術を磨いたり、魔法の練習をしたり……。魔王を討伐するための力を鍛えるにはうってつけでしょう」
「そう思います? あの神様が? 勇者のために? 試練を与える? あの神様が?」
「めちゃくちゃ圧が……。あれのことですからね、勇者を決めただけであとは基本的に放置主義だったはずです。気にしているとは思えません。というか、勇者さんを気にかけている神様とか気持ち悪いのでやめてほしいです」
「たまに出てくる死んだ目の魔王さん、おもしろいですね」
「勇者さんの好きな色をした空の上から勇者さんを見下ろしていると思うと……虫唾が走ります。ぶっ飛ばしてやりたいですね……」
「こらこら、出てますよ魔王オーラ」
「おっと、失礼いたしました。それはそうと、なんにもやったことないんですか?」
「ないですね。多少のサポートはありましたけど、だいたいは後方からエールを送るくらいで役に立ちませんでした。むしろ不要でした」
「やってみたい試練などはありますか? 強化したいところなど」
「伝説の剣を抜く試練とかですか? 結構です」
「欲がない……んじゃなくて、めんどうなんですね」
「どこぞの勇者さんはやることが多くて大変そうですよね。ひとつやふたつならともかく、百以上もの試練を文句ひとつ言わずこなすなんて、私にはできません。ひとつ目で投げ出すでしょう」
「異空間に囚われて行われる試練なら、クリアしないと出られませんよ」
「ちっ……。いいです。そこで暮らします」
「居住に適した場所ではないかと思われますが」
「神様の支配下で餓死する勇者って愉快だと思いませんか」
「思いませんし、もしそんなことになったらぼくがぶち破ってお助けに参ります」
「神様に反逆する魔王さんですか。マンガのような展開ですね」
「倒すべき神様を共にぎったんぎったんのぐっちょぐっちょにしましょう!」
「手を組む相手がおかしいですね。私は神様側の存在のはずですが」
「羨まし――許すまじ神様‼ 勇者さんを味方に引き込むなど、なんて羨ましい!」
「本音が隠れなくなりましたね。いつもの魔王さんらしくていいと思いますよ」
「ぼくも勇者さんのためにさらに強くなりたいです。神様を倒すために……!」
「はあ、そうですか。え、なんて? なんかおかしくないですか?」
「ぼくが勇者さんのために動くことのなにがおかしいって言うんですか」
「うん。それがおかしいんですよ。あなた、魔王でしょう」
「魔王である前にぼくはぼくです。魔王専用の試練を作りましょう。そう、強くなるために、よりパワーアップするために!」
「すでに世界最強なんですから、それ以上強くなってどうするんですか」
「いでよ、魔王の試練んんんん‼」
「出すな出るな。仕舞ってくださいなにを出現させるつもりですか。うわっ、地面から」
「ふっふっふ……。これがぼく専用の試練です」
「おお~。それっぽい建物が……。入れるんですか?」
「はい。ぼくだけですが」
「なんだ、残念。これ、なにをする建物なんですか? 試練って言ってもいろいろあるでしょう」
「ぼくの精神や魔法、身体能力やその他もろもろもろもろを鍛えるための試練です」
「どう考えても勇者がやるべきことですね、それ」
「断食をし、眠ることもせず、欲望を消し去り、ただひとつのために瞑想するのです」
「あ、絶対無理です。私を表すすべてが失われるなんて耐えられません」
「しばらく籠りますね。あ、勇者さんの今夜のお宿はすでに手配済みですので」
「用意のいい……」
「生まれ変わったぼくに出会うことを楽しみにしていてください」
「不死なのに?」
「いざ、試練へ!」
「あの、ちょっと思ったんですけど、精神を鍛えるんですよね?」
「精神も、ですね。それが何か?」
「瞑想などせずとも、手っ取り早い方法がありますよ。この袋にとっておきのモノを入れておきました。きっと役立つことでしょう」
「は、はあ……。見ても?」
「試練の空間に行ってから。私は一足先に宿に行っています。しばらく帰ってこなくていいですよ」
「すぐ戻りますね。行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい。……始終、よくわからない感じでしたね。魔王の試練か。改めて考えても意味わかりません。袋、見たでしょうか――」
「――さあて、やってきました魔王の試練。勇者さんのためにもっともっと強くなるのです。あ、もう開けていいんでしたっけ。役立つモノって一体――ってこれ、こんにゃく‼ 勇者さん、こんにゃくオチ何回目ですかー!」
お読みいただきありがとうございました。
こんにゃくオチ、使いすぎという自覚はあります。どのくらいかというと、いつかこんにゃくを題材にした長めの話を書こうと思っているくらいには自覚しています。いつか。たぶん。
勇者「こんにゃくの試練、いかがでしたか?」
魔王「二度とやりたくないです……。何度魔法が暴走したことか……」
勇者「克服できました?」
魔王「試練ごときで克服できるなら、ぼくはとっくの昔にこんにゃくと和解しています……」