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121.会話 事故の話

本日もこんばんは。

安心安全な事故の話です。私は全年齢の味方です。

「どうしましょうか、勇者さん」

「どうしましょうね、魔王さん」

「突然、アクセル全開で突っ込んできた車をとっさに魔法で吹き飛ばしてしまったぼくですが、果たしてこれは誰が悪いのでしょうか」

「私が阻止しようとしても大剣で真っ二つにした未来しか見えないので、まだマシな方ですよ。それ以上にありえた未来は、めんどくさくて何もしない未来ですけどね」

「だと思いました。後者では勇者さんは死んでしまうので、どのみちぼくが吹っ飛ばしていたでしょうね。ところで、運転手の方はだいじょうぶでしょうか?」

「さっき這い出てきたのを見ましたよ。人間が二人、走って逃げました」

「逃げたんですか? なにゆえでしょうか」

「そりゃあ、自分たちが悪いという意識があったか、もしくは」

「もしくは?」

「轢いたはずの相手が澄ました顔で立っていたらビビるでしょうね。しかも、無傷で」

「ケガする前に吹き飛ばしましたからね」

「はたから見れば少女が二人。パワーヒエラルキーとしては相手が上にいたわけです。それがどうでしょう。何が起きたかわからぬまま車は横転。少女たちは平然といる」

「ぼくたちからすれば当然のことですね」

「相手からすれば意外なことです。そして、非常識で非現実的な出来事です。となると」

「となると?」

「ふつうの感性を持った人間ならば、ここでひとつの感情を抱いたでしょう」

「それは?」

「恐怖ですよ。私たちは、ただの人間からはこわーい存在に見えたってことです」

「こんなにかわいいのに?」

「一切の躊躇いもなく言える魔王さんはすごいと思いますよ」

「勇者さん込みですよ」

「勝手に入れないでください」

「しかし、困りましたねぇ。まさか逃走するとは思いませんでした。運転操作を誤ったにしろ、意図的に轢こうとしたにしろ、勇者さんの命が脅かされたのは確かです。数十発は殴っても許されると思ったのですが」

「私が隣でやめろオーラを放っていましたからね」

「逃がしていいのですか? ぼくの怒りは収まっていませんけど」

「魔王さんの馬鹿力で数十発も殴ったら何も残りませんよ。勇者としての使命を果たしただけです」

「お金もぶん取れましたよ? なにせ十・ゼロですよ。こっちの勝ちです」

「まあ、それはそうですけど。お金以上に魔王さんの魔王オーラがやばいと思いまして。いつものほのぼのが破壊される気配を察知しました。そうなれば、それこそ事故です」

「ぼ、ぼくが魔王らしくしたら事故になるんですか⁉」

「ふだんの魔王さんを知らないひとに魔王っぽい魔王さんを見られたら、それが本編だと思われてほのぼのというジャンルの詐欺罪になってしまいます」

「いやぼく、魔王なんですけどね。魔王っぽい魔王ってなんですか」

「そんな事故は起こしてはならないのです。そう、あの車のように――」

「上手いこと言ったおつもりのところ申し訳ないのですが、あの事故はぼくたちのせいではありませんよ」

「いたずらでやるには質の悪い行動でしたね。自損事故する呪いでもかけましょうか」

「ぼくとしてはあの人間どもの命など塵芥も興味はないのですが……。勇者さんを危険にさらした罪は重いのです」

「魔王バージョンの魔王さんが出ていますよ。仕舞ってください」

「仕舞っていいんですか?」

「今日はほのぼののターンですからね。事故はアレだけでいいのです」

「哀れな車です。大破さえしていなければ拝借したのに」

「原型がわかりませんね。さすが魔王さんです。ていうか、ここまでぶっ壊れていてよく生きていましたね、あの人間たち。ギャグパワーの力は偉大です」

「死んでもよかったと思います」

「いつもの私みたいなこと言わないでください。それは私のセリフです」

「だって、勇者さんが言わないから」

「今日はなにかと事故の多い日ですね。宿に帰って休むとしましょう」

「そうしましょう。あと、勇者さん。車は危険なので気をつけてくださいね」

「正直、雑魚魔物よりよっぽど強そうでした。車ってまるで武器ですね」

「ええ、勇者さんがあっさり死んでしまうくらいには」

「なるべく事故のない人生を歩みたいものです」

「ガラクタと化した車をあさって何をしているんですか?」

「使えるものがないかなーと。食べ物とか」

「あの人間どもの所持品は使いたくないですが……。物に罪はありませんね」

「あんまりいいものはありませんねぇ。貧乏だったんでしょうか」

「旅人を轢いて所持品を奪い生活している可能性もありますね。他の旅人のためにも殺しておいた方がよかったかもしれません」

「出てますよ、魔王バージョン。……あれ、なんか変な臭いがしませんか?」

「これは……ガソリンです‼ 爆発の危険があります逃げますよ勇者さん‼」

「はあ、やれやれ。めんどうなことになりましたね」

「金品のひとつでもあれば勇者さんのごはん代になったものを……。危険に遭遇しただけで何も得られませんでしたよ。むかー‼」

「いえ、もらったものがありますよ」

「なんですか?」

「事故」

お読みいただきありがとうございました。

たぶん、魔王さんが白いので遠くからでもよく見えたんだと思います。


勇者「一番の被害者――いえ、被害車はガラクタと化したアレだと思います」

魔王「訴えたくても車ですからねぇ」

勇者「こうして世界への怨みが少しずつ溜まっていくんですよ」

魔王「勇者さん、轢かれそうになって実はちょっと怒ってます?」

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