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120.会話 欲望の話

本日もこんばんは。

脳内にある話が勝手に文字化されたらいいのにと常々思います。そんな話です(違います)。

「勇者さん~? 今日は朝ごはんを食べてから一歩も動いていませんよね?」

「そーですね」

「あまりに怠惰すぎですよ。雨ならばわからないでもありませんが、今日はピーカン! 絶好の旅日和ですよ」

「ピーカンの日もいやですよ……。日光がしんどいです」

「あれがいやだこれがいやだ……と、文句が多いですねぇ」

「人間は欲望のかたまりですからね。食べたい眠りたい動きたくないしゃべりたくない働きたくない生きていたくない帰りたいなど、欲は尽きません」

「見過ごせない欲があった気がしましたが」

「気のせいでしょう。なにぶん、考えたくないもので」

「生命維持に関する欲は許容できるとしても、限度ってものがあります。一日ぐーたら禁止にしますよ」

「た、食べることも飲むことも眠ることも禁止するとおっしゃいますか。なんと無慈悲な……。これが、むしゃ、魔王……。おそるべし存在です。むしゃ」

「そ、そこまでは言っていません。おそるべしと言いながらおせんべいを食べない」

「食べます?」

「け、結構です。このあと夕飯の時間ですし、ぼくの胃は無尽蔵ではありません」

「魔王さんって魔王のわりに欲望が薄い気がします」

「そうでしょうか? ぼくはそんなことないと思いますけど……」

「ご飯を食べているとき、私がじっと見つめるとおかずをくれたり」

「あげるとうれしそうな顔をする勇者さんを見られるのでお腹いっぱいです」

「道端で私が昼寝し始めても、基本的には起きて待っていますよね」

「寝ている勇者さんになにかあっては困りますから」

「甘いものを買い食いすることはあっても、おひとりで食べたことありませんよね」

「勇者さんと食べることが重要なんです」

「あれがかわいいこれがほしいと言いつつも、実際に買うことも少ないですよね」

「勇者さんとおそろいのストラップを買いましたね」

「…………パッとしない」

「な、なにがですか? なにゆえ、そんな不満そうなお顔を……?」

「魔王というものは、『この世界で一番強くおそろしい存在である我は、すべてのものを手に入れる。ええい、頭が高いぞ! 端から端までのケーキをすべて寄越せ!』と言うものでしょう?」

「それはそれでちっぽけな欲ですけど……。かなり甘党の魔王ですね。あ、ぼくか」

「欲望の権化であろう魔王が蓋を開けてみればコレですよ」

「食べかけのおせんべいでひと指さない。コレって言わない」

「もうちょっとないんですか、欲望?」

「ありますよ?」

「そんな感じしませんけどね。欲を感じないから余計に聖女的な神の使い感が……」

「そ、それはぼくの非ではありませんよう。ですが、欲望ですか……。感情も意思もありますからね、それなりに欲はあるつもりですよ。それに、ぼくが思うに、ぼくはとっても欲深いひとだと思います」

「おや、珍しい顔をしますね。まるでいたずらっ子のようです」

「ふっふっふ~。なんてったって、ぼくは魔王ですよ? この世界を蹂躙する悪の親玉。勇者さんの言葉で言えば欲望の権化。ありとあらゆる欲がぼくの中にあるのです」

「それっぽいことをおっしゃいますね。フリですか」

「ほ、本心ですよう。ぼくは魔王ですからね」

「無理に魔王にならなくていいですよ」

「無理にもなにも、魔王なんですよ、ぼく!」

「強がっちゃって」

「強がってません! あ、わかりましたこうしましょう。魔王と言われることへの欲も深いということで!」

「無理やりですね」

「物事を自分の思い通りに進めようとする強欲さの表れです。えへん」

「ふっ、私には及びませんけどね」

「勇者さんがおせんべいを持っていると何か強力な武器のように見えてきます……」

「残りのせんべいはすべて私のものです」

「あ、はい、どうぞ。夕飯もしっかり食べてくださいね」

「魔王さんの欲は、結局よくわかりませんでした」

「あれ、まだ続いていたんですか。簡単ですよ。ぼくは何も譲るつもりはないし、渡すつもりもないということです」

「散々、食べ物を私にあげておいて……?」

「勇者さんには無償の厚意ですよ。海より広く空より広いぼくの心でプレゼントします」

「ただ広いだけじゃないですか。薄っぺらい偽りの優しさになりますよ」

「だいじょうぶです。ぼくは魔王ですから」

「というと?」

「不特定多数に手を差し伸べなければならない勇者さんとは違う存在である、ということです」

「つまり?」

「ぼくは生粋の魔王ってことですよ」

「意味深なことを言うのも魔王としての欲……ですかね」

お読みいただきありがとうございました。

勇者さんは夕飯前にすべてのおせんべいを食べました。


勇者「魔王なら、世界を手に入れたいとか思わないんですか」

魔王「えー……。いらないですねぇ。第一、世界といわれても広すぎますし、国ひとつの方がわかりやすいですよ」

勇者「現実的な魔王だこと……」

魔王「それに、ほしいものはもう手に入れましたから。えへへ」

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