12.会話 性別の話
本日もこんばんは。
性別の話です。
パンが焼けるには時間が足りないくらいの長さです。
「魔王さんって、結局、男なんですか? 女なんですか?」
「どっちだと思います?」
「どちらでもない可能性もありますよね」
「多様性の世の中ですからね」
「魔族には性別と言う概念を持たないものもいると聞きました。魔王さんもそのタイプですか?」
「…………」
「なんですか、その顔。私を見つめて、気持ち悪いですよ」
「もうちょっとオブラートな言葉にしてくれてもいいんですよ。魔王、泣いちゃいますよ」
「泣きたきゃ泣けばいいんです」
「ああ、無情」
「それで、どうなんです?」
「勇者さんが求める答えを考えていたんです」
「聞きましょう」
「ぼくの性別は魔王です」
「殴っていいですか?」
「ぼくは至って真面目ですよ? って、許可する前に右ストレートやめてください」
「うるせえんですよ。性別魔王ってなんですか」
「それが一番争いを生まない答えだと思いまして」
「誰が争うんですか」
「女の子なのか男の娘なのかで人々は争い合うんです」
「くそどうでもいいです」
「大事なんですよ、これ! そもそも、どうして今、ぼくの性別を訊くんですか?」
「ふと思ったんです。もし魔王さんが男なら、まるでデートしているみたいじゃないかって」
「だめなんですか?」
「私にリアルを充実している人生なんていらないんですよ!」
「八つ当たりじゃないですか」
「うるせえんですよ」
「それに、どちらでも問題ないですよ。女同士でもデートしますから」
「おらぁ!」
「こわい! アッパーやめてください!」
「めんどうなので魔族の性別を統一してくださいよ。魔王ならできるでしょう」
「できませんよ、なんですかその横暴な策。じゃあ、ぼくも訊いていいですか?」
「私は女です」
「まだ何も言っていないのに……。でも、はい、知っていましたよ」
「髪を切って一人称を“僕”にしようかな」
「ええ! なんでですか」
「魔王さんが強くて」
「そりゃ、魔王ですし」
「いえ、そういう意味ではなく」
「?」
「はあ……。人間辞めたい」
「ど、どうしたんです、勇者さん」
「私はね、悩んでいるんです」
「そのようですね?」
「魔王さんの性別を訊いたのもその悩みが原因なんです」
「そ、その悩みとは?」
「魔王さんが」
「ぼくが?」
「私の入浴中に侵入しようとしてくることですよ!」
「ああ、それですか。一緒にお風呂、楽しいですよね」
「勝手に! 入って! 来るな!」
「えー」
「入浴は完全プライベート空間なんですよ。圧倒的自分の世界なんですよ。わかります?」
「ひとりよりふたりの方が楽しいじゃないですか」
「私はひとりがいいんです」
「ぼくはふたりがいいです」
「あの空間に自分以外の存在がいることに耐えられないんです」
「うーん、それと性別になんのかかわりがあるんですか?」
「準備が変わるんですよ」
「ぼくが男なら?」
「剣を持参します」
「容赦ないですね。女なら?」
「ふっ。私にも慈悲はありますよ」
「おお、して、いかに?」
「剣を持参します」
お読みいただきありがとうございました。
Q,魔王さんの性別は結局どっちですか?
A,『魔王』です。
勇者「そもそも、人間と魔族に同じ区別をつけようというのが間違いでした」
魔王「わかっていただけましたか?」
勇者「ええ、どんな相手にも真摯に大剣を振りかざせばいいんですね」
魔王「思考の放棄!」