119.会話 雨漏りの話
本日もこんばんは。
台風の季節ですね。お気をつけてお読みください。
「魔王さん、魔王さん。さっきから顔に水滴が当たって気分が悪いのですが、天井に血みどろのゾンビでも張り付いているのでしょうか」
「そういうのははやく言いましょうね。ゾンビはいません。雨漏りのようです」
「欠陥住宅、もしくは老朽住宅ですね。訴訟しましょう」
「残念ながらここは廃屋ですから、訴訟する相手はいませんよ。所有者もいないので不法侵入しているぼくたちを咎める人もいませんけどね」
「突然雨に降られて小屋を見つけたのはいいものの、ぼろいですよね」
「仕方ありません。雨風しのげるだけマシと考えましょう」
「風はともかく、雨はしのげていないんですよ。見てください、顔がびしょぬれ」
「風邪引いちゃいますから、場所を動くなどしてください。ぼくのここ、空いてますよ」
「誰が行くかってんです。そこどけください。私が占領します」
「ぼくはびしょぬれになってもいいということですか」
「私とどっちが大事なんです」
「勇者さんに決まってるじゃないですかケンカ売ってんですかぼくを舐めてんですか‼」
「魔王さんのキレポイントがよくわかりませんが、さっそくどいてください」
「小屋はせまいですけど、わざわざ雨漏りしているところで眠らなくても……。くっついて眠れば問題ありません」
「私が問題あるんです。それに、うとうとしている魔王さんが一定間隔で水滴攻撃を食らうのを想像すると非常に愉快でして」
「悪いことをおっしゃるぅ……」
「こうして話している間に、強風でめくれた天井からさらに雨漏りが」
「雨も風しのげてないじゃないですか」
「翌朝まで小屋がもつでしょうか。世論調査してみましょう」
「対象人数が少なすぎてまともな結果が出ませんよ。もたないに一票」
「私ももたない派でしたが、魔王さんと被るのでもつに変えます」
「そういうのはよくないです。ご自分の意見を強く持ってください」
「意見というより願望に近いですが、現実は残酷です。見てください、もはや雨です」
「はやく移動してください! もー、なんで風も強いんですか。小屋のぼろさ舐めてんですか。優しさを持ってください」
「自然とはすべてに平等な優しさと残酷を持つものです」
「水が滴る勇者さんが言うと、悟りを開いた仙人に見えてきますね。寒くないですか?」
「かなり寒いです。あ、いえ少しも寒くないです」
「強がらないでください」
「ドアを開けて欲しいくらいです」
「開けたら雨風がこんばんはしますよ。冗談はよしこちゃ――わあっ⁉ か、風で扉が全開に……。この、おんぼろめー‼」
「一緒に遊びたいんですよ、きっと」
「誰がですか? 風ですか雨ですかばか言わないでください勇者さんが風邪引くような遊びをぼくが許すと思ってんですか出直しなさい自然現象‼」
「自然に説教する魔王さんって、一歩間違えたらただのやべえやつですよね。実際やべえやつなんですけど」
「おんぼろすぎて扉が閉まりません! もう雨漏りとかの問題じゃないですよう」
「上からも横からも雨漏りですね。あ、横からは雨出入りか……?」
「あの、びしょぬれのまま何言ってるんですか……? はやく拭いて着替えてください」
「ここまで濡れたので、いっそお風呂タイムにしようかと」
「雨は! お風呂じゃ! なぁぁぁぁぁぁぁいっ‼」
「それにしても、冷えますね。冬でしょうか」
「夏です。震えているじゃないですか! ちゃんと拭いてください。スープ缶があるので火を起こして飲んでください」
「ういー……。火起こしめんどいですね……」
「いいからやる!」
「扉を押さえている魔王さんを眺めながら飲むとします。あー……、温まりますねぇ」
「何か道具を見つけねば……一晩中扉と仲良くする羽目に……! 勇者さん、飲み終わったら扉を固定できる物を探していただけませんか……!」
「いいですよ。……ん? お~……」
「何か見つけましたか?」
「雨漏りのしずくが缶に当たる音、ちょっとおもしろいですね」
「たしかにいい音――っていうか、強風すぎてほとんど聴こえませんけど……」
「なんだか眠気を誘いますね……すう……」
「ちょっと⁉ ちょっと待ってください⁉ 勇者さ、勇者さーーーんっ‼」
「なんですか……」
「と、扉を固定するものをですね。固定しないと雨と風で小屋が埋め尽くされますよ」
「あー、それですか」
「反応うっすいですね。そんなに眠いんですか」
「扉、もう押さえなくていいですよ」
「なんで――ぴぎゅあっ⁉ な、なんですか上から冷たい……って、あれえええええ?」
「スープ缶に雨が当たったのでおかしいと思ったんですよ。雨漏り位置から移動したはずなのにって。気になって上を見上げたらね、なかったんですよ」
「な、なななな、ないって、あの……」
「ええ。天井、吹き飛ばされちゃいました」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは諦めて寝ました。魔王さんは困惑のままがんばりました。
魔王「せめてテントを張るとか……」
勇者「こうも風が強いと無理でしょう」
魔王「いえ、張らずに体重で抑えるのです」
勇者「その手が……」