118.会話 折り紙の話
本日もこんばんは。
折り紙で鶴を折れない人はこのままお読みください。
折れる人はすごいですね。教えてください。
「見てください、きれいな折り紙を持ってきましたよ。折ってみましょう」
「折り神ですか。あのやろうの腰にダイレクトアタックできるとはいいものです」
「それはぼくもやりたいですが、残念ながら紙です。一見するとただの紙ですが、決まった折り方をするといろんな形を作ることができるのです。たとえば、うさぎさんとか!」
「へえ、すごいですね。このぺらっぺらの紙がうさぎになるんですか。人間はおかしなことに脳みそを使うんですね」
「勇者さんも人間ですよね? いいですか、勇者さん。ただの紙、されど紙ですよ。折り方によって無限の可能性を秘める魔法の紙です!」
「やったことがないのでよくわかりません。試しに折ってみてください」
「えうっ⁉ ぼ、ぼくがですか?」
「他に誰がいるんです」
「ゆ、勇者さんは器用なんですからお手本とかいらないですよ。きっと!」
「私は器用不器用以前の問題です。方法を知りたいので、私の目の前でどうぞ」
「えっ……とぉ~……。あ、折り方の説明書も入っていますよ。これを見て――」
「この図、ちょっとわかりにくいです。魔王さん、折ってください」
「あ、あの~……、ぼくはその、あのですね~……お、折れなくて……」
「では、このうさぎは?」
「お手本で封入されていたものです……。ぼくはうまく折れなくて……」
「試してはみたんですね。それはどこに?」
「し、失敗したのでゴミ箱に棄てましたよ」
「どれどれ。あ、これか」
「当然のようにゴミ箱をあさらないでください。わあああああ見ないでください!」
「魔王さんの折り紙うさぎはどんな感じ――って、これは……カラス……ですか?」
「うううう……。うさぎさんのつもりで折ったのにぃ~……」
「ある意味では成功ですね。うさぎがカラスに突然変異する理屈はわかりませんけど」
「他にも折ってみたんです。どうぞ」
「これはワニですか。お上手じゃないですか」
「いえ、説明書ではニワトリでした」
「弱肉強食が逆転してますね。ニワトリの逆襲でしょうか。これは簡単です。犬ですね」
「いえ、プレーリードッグです」
「ドッグって言ってるじゃないですか。つまり犬ですよ」
「彼らはリスの仲間です。つまりリスです」
「間をとってネズミにしましょう。今度こそ正解します。これは桜です」
「いえ、梅です」
「ややこしいですね。似たようなもんでしょう。正解です。せいかーい」
「全然違いますよう。ぼくの折り紙はいいので、勇者さんもぜひやってみてください。そして、ぼくに折り方を教えてください」
「仕方ないですね……。図の見方がいまいちですが、ここをこうして……。ここを折って、ああ、こんな感じですか。最後にここを――っと、できました」
「わあ……! お上手ですね! これはアイス、いちご、キャンディー、チョコレートにかき氷ですか。とてもすてき――って、いつの間にこんなに? しかもぜんぶ食べ物」
「我ながら良い出来です。なんで食べられないんでしょうか」
「紙だからですね」
「これになりたい」
「あ、ヤギ。お上手ですねぇ」
「今はこれが食べたい気分です」
「骨付き肉ですか。あの、折り紙で会話しないでくださいよ」
「そんな魔王さんにはこれを」
「手紙ですか。折り紙の手紙なんてかわいらしいですね。って、勇者さんが手紙⁉」
「白紙ですけど。まだ字は書けないので」
「そ、そうですか。ですが、ありがたくいただいておきますね。それにしても、折るスピードえげつないですね。さすが勇者さんです」
「折り紙だけでフルコースが作れそうです。食べられないことが惜しくて仕方ないです」
「ご自分で折った折り紙を恨めしそうに見る勇者さん……。もうじきお昼ごはんですね」
「昼ごはん前にこんなもの持ってこないでくださいよ」
「食べ物しか作らない勇者さんが悪いんじゃないですか。動物とかあるでしょうに」
「動物だって肉になるでしょう」
「安直な思考回路ですね」
「つまり、折り紙を持ってきた魔王さんが悪いのです」
「安直な思考回路ですね」
「くらえ、勇者の怒り」
「わあああああ⁉ 待ってくださいぼく悪いことしてない魔王だから悪いけど今は悪いことしてないと思いま――あれ? なにもない? って、なんですかこれ」
「折り紙で作った勇者と魔王です」
「魔王が剣でぶっ刺されていますが……」
「ええ。勇者の怒りを一心に受けた結果です」
「あ、折り紙の延長だったんですね。一安心です……って、なにしてるんですか」
「ケチャップで血だまりを表現しようと」
「そこは最後まで折り紙で貫いてくださいよう。貫かれているだけに……痛いっ!」
「くだらないギャグに勇者の怒りを」
お読みいただきありがとうございました。
このSSを書くにあたって折り紙を調べましたが、ありとあらゆる折り紙があるんですね。勇者と魔王を紛れ込ませても絶対バレないくらい種類がありました。
勇者「意味もなく紙を折ってしまうのはそういう理由だったんですね」
魔王「折り紙の歴史を捏造しないでください」
勇者「ストローの袋とかくるくるしたくなりません?」
魔王「それはちょっと違うような……?」