117.会話 この世界の話
本日もこんばんは。
本日はこの世界の話ですがこの世界ではなく勇者さんたちにとってのこの世界のことでつまりこの世界のことです。
「おお~。今日も元気にドラゴンが飛んでいますねぇ。あ、向こうにはゴーレムが」
「まるで当然のように言っていますが、なんでもいるんですね、この世界」
「そりゃあ、ファンタジーですから」
「理由にしては弱っちいですね。もうちょっとないんですか。魔王さんの魔法暴走によって生まれたとか、人間が下剋上しようとして生成したとか」
「さりげなくぼくの仕業にしようとしないでください。ですが、魔族に関してはぼくのせいとも言えますね。すべての魔族はぼくのあとに生まれましたから」
「つまり、魔王さんは母になるんですか。いや、父? 違うな、父母二役ですかね」
「あんなゴミどもの親になる気はありませんよ」
「素敵な笑顔で言わないでください。脳がバグります」
「結局のところ、なにがいようとどうでもいいのです。この世界は魔王と勇者がいれば成り立ちますからね」
「そんな重要人物に選出されても困ります。捨て駒になりたいです」
「もう勇者になっているので諦めてください。その他の捨て駒ならたくさんいますから。ほら、あそこには低級が群がっていて目障りですよ」
「隠す気のない魔王さんには好感です」
「勇者さんは出会ってみたいファンタジーキャラクターっていますか?」
「ファンタジーキャラクター代表みたいなひとに言われても」
「特大ブーメランが刺さっているようですが」
「誰にも何にも会いたくないです。言えばフラグがたちそうなので」
「つまり、ぼくだけで満足ってことですね。うれしいです!」
「思考がポジティブにしか動かないのか、果てしないばかなのか」
「とはいえ、旅を続けていればいろんなひとに出会うことでしょう。そこで、心の準備もかねて出会ってみたい存在についてお話しましょう」
「出会いたくない存在についてならいいですよ」
「そっちの方がフラグっぽいですが、いいのですか? いいなら参りましょう~」
「ランキングトップは魔王ですね」
「さっそく⁉ し、しかし、時すでに遅しです! でもちょっと泣きそう!」
「めんどくさい存在はいやですね。上級以上の魔族とか」
「魔族魔物はぼくもいやです」
「どの口が言っているのかと言わずにはいられないセリフですね」
「第一、なんでこんなに魔族やら魔物やらがばっこしているんですか。この世界おかしいですよ!」
「ファンタジーですから」
「便利な言葉ですね。怒りますよ」
「なにに対してですか」
「この世界すべてです。ぶっ壊してやりたいです」
「いつもの私みたいなこと言ってますね。魔王っぽくていいと思いますよ。この際、世界ぶっ壊す同盟でも結びますか? 世界に対する反逆です。かっこいいでしょう?」
「めちゃくちゃ賛成したいところですが、遠慮しておきます」
「おや、なぜです」
「勇者さんが神様に怒られてしまいますから。そういった役割はぼくでいいのですよ」
「そうですか。残念です」
「道すがら魔物をなぎ倒していく勇者さんはとってもかっこいいですが、たとえば今この時、つよーい魔族が現れたらどうしますか? 吸血鬼とか竜族とか」
「どうもしません。邪魔するなら斬りますけど」
「強者のセリフですね」
「戦うのもめんどうなので、極力出会いたくないです」
「それはたぶん無理ですねぇ」
「なにゆえ」
「きみが勇者だから、ですよ」
「意味深な言い方ですね。まさか、魔なるものは聖なるものに引き寄せられるとか言いませんよね?」
「よくわかりましたね。ぼくたち魔なるものと、勇者さんが属する聖なるものはお互いに対となる存在ですから。いくらひっそりと旅をしても出会うようにできているのです」
「くそったれにもほどがありますね」
「ぼくと勇者さんが出会ったのも予定されていたことですからね。そう、運命なのです! ディスティニー!」
「反吐が出そうな運命ですね」
「そしてそして、ぼくが勇者さんに引き寄せられるのもディスティ――ぐえっ」
「物理的に近寄ろうとしないでください。首、もぎますよ」
「世界に抗うおつもりですか」
「ひとりぼっち反逆計画の立案者ですから」
「そんなさみしいこと言わないでくださいよう。ふたりぼっち反逆計画にしましょう」
「さっき遠慮したじゃないですか」
「メンバーに名前だけ入れておいてください」
「反逆計画を舐めているようですね。反逆計画に反逆するレベルですよ」
「は、反逆するのは世界だけでいいですよ」
「メンバー加入を認めるので、私の世界に居座る魔王という大悪党に反逆してください」
「お任せください! って、ぼくはぼくに反逆することになるんですか? あれれ?」
お読みいただきありがとうございました。
この世界はファンタジーです。この世界はファンタジーです。大事なことなので二回言いました。なんでも出てきます。お楽しみに。
勇者「ドラゴンってちょっとおいしそうですよね」
魔王「その感想を抱いた人は勇者さんが初めてでしょうね」
勇者「いつか食べてやります」
魔王「その決心も勇者さんが初めてでしょうね」