114.会話 趣味の話
本日もこんばんは。
だいたいの予想がつくおふたりの趣味の話です。
「勇者さんの趣味はなんですか？ まあ、答えの予想はつくんですけど」
「それなら訊かないでください」
「そんなこと言わないでくださいよう。ぼくはおしゃべりしたいんです。で、答えは？」
「食べること、寝ること、だらけることです」
「一字一句予想通りでした。勇者さん検定一級も合格間違いなしです。えへん！」
「頭を疑う検定ですね」
「耳ではなく？」
「魔王さんの頭の心配です。なにも間違えていません。この流れで訊きますが、魔王さんの趣味はなんですか。人間をいたぶり内臓を引きずり出し首を切り取りハイパーグロテスクロードを作ることですか？」
「それ、もし合っていたとして、勇者さんはどう思うんですか？」
「魔王だしこれくらいは……と思いますよ」
「ぼくの世間的イメージってそんなこわいんですか……。ぐすん……」
「悲しむ理由がよくわかりませんけど、実際どうなんです」
「やるわけないじゃないですか。首を取るのはお侍さんだけですよ」
「私はいつも魔王さんの首がほしいです。もしかして私、サムライだったんでしょうか」
「否定するまでもなく違うので違います」
「でも、魔王の趣味が穏やかでのほほんとしたものだと威厳が失われますよ」
「ハイパーグロテスクロードによって得られる威厳などなくていいです」
「改めて訊きますけど、魔王さんの趣味はなんですか。まあ、予想はつくんですけど」
「一字一句予想がついても絶対に質問してくださいね。ぼくの趣味は！ そう！ 勇者さんと一緒にやることなすこと関わることすべて――」
「もう結構ですよ」
「まだぜんぶ言ってませんよ。言わせてくださいよ」
「質問した自分の愚かさに悲しくなります」
「死んだ目で言われても説得力ないですね」
「甘いものを食べることや料理、おしゃべりも趣味って言いそうなので先手を打ちます」
「ぼくに何も言わせないおつもりですか」
「おつもりです」
「ブレない勇者さんも素敵ですね」
「魔王さんの心臓には毛が生えているのではと思い始めました。確認していいですか？」
「事あるごとにぼくを殺そうとするのやめてくださいよう」
「魔王さんを殺すのも私の趣味です」
「あまりに物騒ですね。ぼく以外にやっちゃだめですよ」
「魔王さんはひとりしかいないので問題ありません」
「ですが、プロフィール欄に書いたらドン引きされてしまいます。その時は『食べることやのんびりすることが好き』と書いてくださいね」
「添削された。誇るべき私の趣味なのに」
「ぼくはスペースいっぱいに勇者さんのことを書きます」
「別の意味でドン引かれますよ」
「だいじょうぶです。その分、激推ししますから」
「推せば推すほど引かれる構図ですね。個人的な感想ですが、ハイパーグロテスクロードを作るより勇者を推す魔王の方が何倍もやべえ奴だと思いますよ」
「い、いいんです。誰かが楽しんでいることに水を差すのはよくありませんから」
「その言い分を通すなら、私のぐーたらにあれこれ言わないでほしいです」
「勇者さんはぐーたらしすぎてそのまま死ぬのではないかと思ってしまうので、心配でつい……。生きているかの確認みたいなものですので、お気になさらず」
「お気にしますけどね。他人の楽しみに口出しするのはよくないですが、例えばあの状況はどうなるでしょうか」
「あの状況とは……。おや、人間が魔物に襲われています。このままでは危険です。すぐに助けましょう！」
「魔物の性質として、人間を襲ったりいたぶったりすることは趣味みたいなものだと思うのですが、それは」
「魔物の趣味とかどうでもいいです。人間優先！ 人命大事！ こらぁぁぁぁそこの低級！ なにやってんですか死になさい！」
「……あらあら、私が出るまでもなく魔王さんが魔物を木端微塵にしてしまいましたね」
「はあ、まったくもう、弱き人を襲うとは何事ですか。これだからレタスとキャベツの区別もつかないような低級は……ぶつぶつ……」
「食べてしまえばどちらも同じですけどね。ところで魔王さん、魔物の楽しみを問答無用で壊しましたけどよかったんですか」
「趣味というのはあくまで他者に迷惑をかけない程度に楽しんでこそ趣味として成立するのです。誰かの命を脅かすことを趣味にするなんて言語道断！ 許されません」
「他者に迷惑をかける趣味は許されないと？」
「とーぜんです！」
「魔王さんの趣味はなんでしたっけ」
「勇者さんと一緒にご飯を食べたり遊んだり眠ったりおしゃべりしたりなどなどですね」
「それ、私が迷惑だと言ったらどうします？」
「えっ⁉ えっ……、ええっと……えっ、え……や、やめ……た方がいいですか……？」
「あ、魔王さん。私の趣味、ひとつ追加しておいてくださいませんか」
「え？ あ、は、はい。なにをですか？」
「旅をすること、を」
「旅……ですか？」
「はい。ふたり旅、です」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんはサムライではありませんが、その昔、侍の勇者はいたらしいです(魔王談）。
勇者「勇者さん検定ってなんですか」
魔王「ご存知ない⁉」
勇者「合格したら何かもらえるんですか」
魔王「勇者さんからのお褒めの言葉が～……。冗談ですよう……」
