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111.会話 おばけ屋敷の話

本日もこんばんは。

前々から薄々感じていたかもしれない勇者さんの秘密が明らかになるかもしれなくもない話です。

おばけの気分でお読みください。

「道沿いに出張おばけ屋敷があったのでさっそく突入してみましょう~」

「いいいいいいだいじょうぶです結構ですの方の意味のだいじょうぶです行かなくていいですやめてください引っ張らないでくださいああもう力が強いなこのやろう」

「どうしたんですか? おばけ屋敷ですよ。楽しそうじゃないですか」

「いいです求めてないです私は入らなくていいので魔王さんおひとりでどうぞ」

「……もしかして勇者さん、おばけ苦手なんですか?」

「……まさか。私は神の啓示を受けし勇者ですよ。おばけ如きにビビるわけないです」

「あ、勇者さんのうしろに髪の長い女の人が」

「……っ!」

「うわぁ、すごい剣術。すみません、何もいませんよ。ですが、やっぱり苦手なんですねぇそうですかそうですか。かわいいところがあるじゃないですか~。って、わぁ⁉」

「うるせえんですよ。その舌、切り取ってやりましょうか。私はおばけが苦手なんじゃなくて、剣で斬れないものが嫌なだけです。力こそ正義なんですよ。困ったら剣を振り回せと先人たちが言っているでしょう?」

「ぼくの知らない先人のようです。とはいえ、おばけ屋敷は娯楽施設です。運営しているのは生きとし生ける方々ですよ」

「では、剣で斬れるということですね。それなら行ってもいいですよ」

「行ってくださるのはうれしいですが、絶対に斬ってはいけませんよ。作り物のおばけ屋敷に本物が出てくることになりますからね」

「それはそれで、リアルだと評判になるんじゃないですか」

「勇者さんが殺人者になってまでおばけ屋敷を成長させなくていいんですよ。こういうのは作り物だからこそ楽しむことができるのです。映画と同じですよ。ほんとうに死んでいるわけではないから、残虐シーンも楽しく観ることができるという寸法です」

「それは人それぞれかと。ともあれ、剣はなるべく仕舞って進みますよ。血の匂いはわかりやすいですから」

「理由が物騒ですが、やっとこさおばけ屋敷を楽しむとしましょう~。まずはお金を払って、順路と書かれた案内に従って中へ。館内はとても暗いようです。用意された懐中電灯を持っていくようにと書いてありますよ」

「魔王さんの頭の上のそれ、光源にならないんですか? 懐中電灯を持つのもめんどい」

「光りますよ――って、懐中電灯は持ってくださいね。足元危ないので」

「仕方ないですね……。あの、なんですか? はやく行ってくださいよ」

「ぼくが先でよろしいのですか?」

「よろしくないと思いますか?」

「暗くて顔がよく見えないのに『はよ行けオーラ』がすごい……」

「これなら背後からの不意打ちもしやすそうですね」

「隠すつもりのないひとりごとと、剣を抜いた音がばっちり聴こえているのでやめてくださいね? 狭い通路に大剣ががったんがったん当たっているようですが、だいじょうぶですか?」

「だいじょうぶじゃないです。どこかに刺さって動きません」

「も~。懐中電灯で照らしますね。さて、どこに刺さって――」

「…………」

「勇者さん、息。息してます? 息してください? それ、お人形ですからね。だいじょうぶですから、ほら、息」

「…………っ。こ、けほ、こどもだま、ごほ、子供だましですね。まあ、よくできて、けほ、いると思いますよ。ちょっと、げほっ、驚いたかもしれませんね?」

「だいぶ驚いていると思いますけどね……。動かないでくださいね。ぼくが剣を抜きますから。よいしょっと」

「……けほっ、ごほ……っ……」

「だ、だいじょうぶですか? もう出ますか?」

「お金を払ってまで入ったんです。絶対最後まで行ってやる……」

「勇者さんだけ目的が変わってません?」

「はあ……。待ってろおばけども……。今すぐささがきにしてやるからな……」

「趣旨が違う。……おばけをささがきってどういう意味――あ、待ってください。剣、置きっぱなしですよ。それに、走ったら危ないですよう」

「最深部がボスでしょう。走って行って退治――ん? いま、何か肩に……ひっ」

「あ、おばけ役の従業員さん。ただれた皮膚と浮き出た血管がこれまた見事ですねぇ。……勇者さん? 勇者さーん?」

「~~~っ! あ、あれ、剣がない……⁉」

「いや、だから、勇者さんがほっぽって走るから、ぼくが持って来――」

「剣を持ったおばけ⁉」

「ぼくですよ⁉ さすがにぼくをおばけと見間違えるのはいかがなものかと」

「そうじゃな……。~~~もう限界です逃げます出ます帰りますさようなら!」

「ちょっ、ちょっと待ってください~! またぼく置いてけぼりですかぁ~……。はあ、この剣めちゃくちゃ重い……。引きずっていいでしょうか。……あれ? さっきのおばけ役の人、いませんね。勇者さんの殺意振りまく恐怖に慄いて隠れたのでしょうか。おっと、はやく勇者さんのところに向かわねば。それにしても……はあ、ぼくの計画はおじゃんでしたね。おばけ屋敷で合法的に勇者さんとくっつく計画が……。まさか、勇者さんがあんなにおばけ苦手とは。ですがですが、普段見られない勇者さん、かわいかったですねぇ。今度、ほんのちょびっと驚かしてみて――うーん、殺されるかもしれませんけど、ま、いっか! 勇者さーん、だいじょうぶですかーー? 息してますかー?」

お読みいただきありがとうございました。

おばけ屋敷のおばけ役にホンモノを雇ったら人件費が浮くと思います。


勇者「二度と行かん……」

魔王「今度はカメラ持ちながら行きましょう~」

勇者「心霊映像を撮るおつもりですか」

魔王「そんなものよりかわいらしい勇者さんを――あ、逃げた」

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