110.会話 不老不死の話
本日もこんばんは。
不老不死って大変そうですよね。そんな話です(違います)。
「不老不死って意味わかんなくないですか?」
「その質問とぼくに剣を向けている事実になんの関係があるか教えて頂いても?」
「そもそも、死とは一体何でしょうか」
「哲学のお話ですか? でしたら今すぐ剣を納めて机を並べて青空の下爽やかな弁論大会でも開催しま――」
「そこで、魔王さんに手伝っていただこうと思いまして」
「どこで? ぼくだけ数行分の会話飛ばされました?」
「不老とはつまり老いないことです」
「つまらなくてもその意味ですよ」
「不死とはつまり死なないことです」
「ツッコみ待ちですか? さっきからツッコんでいるつもりなんですけどね」
「例えば、食べたら死ぬ毒草を食べたとして、不死なら苦しみはするけど時間経過とともに回復すると解釈できます」
「食べ物ならそうでしょうね」
「では、延々と出血している場合やマグマに落ちた場合、無数の剣で貫かれている場合など、死という状態を維持している場合はどうなるのでしょう」
「ええ……、考えたくないですけど、死ぬくらいの痛みや苦しみを味わい続けることになるのではないでしょうか?」
「悲しいですね」
「何目線のセリフですか?」
「不老不死に関しての疑問は尽きませんが、ちょうどよく偽ロリババアがいるので実験してみようと思ったんです」
「偽って言った?」
「近くにマグマはありませんし、大量の刃物を用意するのもめんどうでしてね」
「ぼく、どういう感情で居ればいいのかわかりませんよ」
「今日は使い慣れたこちらの剣で魔王さんをひたすら斬り続けようと思います」
「全年齢の敵になるおつもりですか? 痛いのはいやですよう」
「ご安心ください。痛みを感じる暇もなく切り裂いて差し上げます」
「ぼくの性質上、ケガを負うと自動的に回復するのでどこかのタイミングで痛みを感じると思います」
「それはそれでどうでもいいです。私は痛くないので」
「血も涙もない」
「これから血も涙も流すんですよ。魔王さんが」
「今日の勇者さんこわすぎません? ホラー映画でも観たんですか?」
「いつも通りオブいつも通りです。さあ、まずは上半身と下半身をさよならしましょう」
「い、いやですよ! このお洋服、気に入ってるんですから」
「心配するところが常人のそれではないんですよ。魔王さん、あっ」
「なんですか? って、痛ぁ⁉ な、なんでデコピンするんですか!」
「不老不死ゆえ、痛覚やその他の感覚が鈍くなっている……なんてこともあるのかなと思いまして。いつも、なんやかんやで『痛い』とおっしゃいますが、ほんとうに痛みを感じているんですか? とりあえず『痛い』って言っときゃいいと思ってません?」
「え、いや、ほんとにまじで痛いんですよ……」
「これしきのパンチで? 魔王なのに?」
「ちょっ、痛いですよう! 暴力反対! あのですね、魔王のくせにこれくらいで痛がるなんて……ではなく、魔王だからこそ、きみのデコピンやパンチが効くんですよ」
「ははーん、勇者補正とかいうやつ」
「神様から説明されませんでした?」
「私が覚えていると思います?」
「きみのことですから、神様からの言葉は意図的に忘れる努力をしていると思います」
「そういうわけで、魔王攻略の方法を一ミリたりとも知りません」
「その結果、ぼくを延々と殺してみようと思い至ったんですか? ご勘弁を」
「いえ、これはただの興味です」
「うそでも勇者の使命と言って欲しかったです。こわいので」
「常時体に剣をぶっ刺しているというのはどうでしょう? 魔王危機一髪です」
「ぼくに一体なんのメリットが……」
「その聖なる見た目と裏腹に、剣に貫かれ血を流し続けながらも平然といることのギャップ萌えですよ。一時間ごとに吐血するオプション付きで」
「ギャップじゃなくてグランドキャニオンができそうですね」
「グラキャニ萌え?」
「新語を作らないでください。そして、ぼくの体に爆弾を巻きつけないでください」
「魔王危機一髪パワーアップバージョン。魔王さんからどうぞ」
「どこを選んでも爆発するじゃないですか! 先制が絶対負ける仕組み! やだぁ!」
「私は、勇者として次代の勇者たちに魔王さんのあれやそれやを伝える使命があるのです。手始めに、不老不死について調査しA4サイズの紙三枚にまとめようと思います」
「少なすぎません? 調査ならもっと膨大な枚数をですね。あと、ご自分の代での魔王討伐を当然のように諦めないでくださいよ」
「いやですよ。めんどくさい」
「爆弾ぐるぐる巻きで身動きが取れません。これではご飯が食べられませんよう」
「そんなこともあろうかと、こちらに夕飯のプレートをご用意しました」
「わあ~、珍しいこともあるんですね――って、どう見ても毒草サラダですね、それ」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんは基本的に最強ですが、勇者さんといる時は諸々を勇者さんに合わせています。痛くなくても痛いと言う時は、「人間ならば痛いだろう」と思っている時です。ちょっとした裏情報でした。読まなくていいです。
魔王「ですが、勇者さんの攻撃はどれもほんとに痛いんですよ~」
勇者「のほほんとした顔で毒草サラダ食べながら言われても」
魔王「死にはしませんからねぇ。もっしゃもっしゃ」
勇者「くっそ……腹立つな……」