108.会話 勉強の話
本日もこんばんは。
「勉強」という言葉、ふたりに似合わないなと思いながら書きました。
内容はいつも通りです。
「おや、お勉強ですか? 感心感心です。読み書きの練習は順調ですか?」
「ちょっ……と、勝手に見ないでください。プライバシーですよ」
「わわっ、失礼しました。ですが、恥ずかしいことは何もないかと」
「人には色々あるんです――って、なんで横に座るんですか。気が散る」
「ぼくもお勉強……読書をしようと思いまして。勇者さんと並んで勉学に励むと、まるで小さな学校のようですね」
「学校がどういうものか知りませんけど、集中力が低下します。やるなら視界に入らないところでやってください」
「つれないですねぇ」
「何も聞こえなかったかのごとく本を開くな。当然のように読み始めるな」
「静かにしていますから」
「存在がうざったいんですよ」
「んも~。すぐそういうこと言うんですから。あ、勇者さんも読みますか?」
「まだ勉強中ですので。ちなみに、何を読んでいるんですか」
「『小松菜とほうれん草の大冒険第二章~出会い頭に茹で窯アタック~』です」
「どういうリアクションが正解なのでしょうか」
「おもしろいですよ? かぐや姫さんの新作シリーズなんです」
「あの人、定期的に出てきますね。ていうか、月に小松菜とかあるんですね……」
「あとこれも。『誰かの誰かによる誰かのための物語』」
「もはやまともなタイトルに思えてきました。感覚麻痺です」
「雨降って地ぬかるむシリーズの外伝です」
「一ミリも内容の想像ができないタイトルやめてもらっていいですか」
「読書は見聞を広めることに繋がりますからね。タイトルで選り好みするのはもったいないですよ」
「そうですね。タイトルを読んで選別できるようにならなければ。かぐや姫さんの本を」
「ぼくが言ったことの真逆を突き進むんですね。おもしろいのに……」
「読む勉強はここまでにして、次は書く練習をします。絶対こっち見ないでくださいね」
「なんでですか?」
「言ったそばから覗くな。その目えぐるぞ」
「物騒なことを……。あ、もしかして、文字を書くのが苦手なんですか?」
「……まだ下手なので」
「誰でも最初はそうですよ。練習あるのみです。どれどれ~。おや、お上手ですよ?」
「見るなって言ってるのに……。言葉、わかります? その脳みそは飾りか?」
「だって、勇者さんの文字を見るのは初めてですからね。うれしくて」
「魔王さんの感情はよくわかりませんね。人の文字を見てなにが楽しいのやら」
「うふふ~。勇者さんが新たに何かをする。それだけでもぼくはうれしいのですよ」
「親みたいなことを言いますね」
「毎日三時間お勉強! 四時間遊ぶ! 八時間眠る!」
「残りの九時間は?」
「ぼくと一緒にいましょう!」
「お断りします」
「そんな……。ですが、なんだかんだ言いつつ、ちゃんと文字のお勉強をしているのを知っていますよ。読み書きができる日も近いでしょう」
「ええ、楽しみです。魔王さんの日記を盗み見る日が」
「プ、プライバシー侵害です。勇者さんが読む前になんとかしなくては……」
「手紙も書きますよ。魔王さんを呪う呪文を紙一杯に詰めて差し上げます」
「ぼ、ぼくに一体なんの怨みが⁉」
「ご自分が魔王で、私が勇者ということをお忘れなきよう」
「せめて交換日記にしましょうよ。絵も描いて」
「え、あの呪いの絵も? いやですよ。私の目が潰れます」
「が、頑張りますので……! あ、お話しちゃって全然進みませんよね。ごめんなさい、お邪魔してしまい……」
「いつものことでしょう。だいじょうぶですよ。魔王さんと話している間も手は動かしていますから」
「すごいですね。ぼくは一度にふたつのことをやると頭が混乱しちゃって。えへへ」
「会話しながら読書は難しいでしょうね。文字でも書いたらいいのでは」
「勇者さんにラブレター書けばいいとおっしゃいました?」
「耳鼻科行った方がいいですよ。お好きにどうぞ。もらっても捨てるので」
「勇者さんの態度は今日もキレッキレですねぇ」
「私が言えたことではありませんが、勉強ってもっとこう、なんだ、お堅い感じがするものだと思っていたんですけど、違うみたいですね」
「お堅いお勉強します? どうぞ、ドリル、ドリル、ドリルとドリル、ドリルです」
「あああああ結構です。すみません、お隣でしゃべっていてください」
「ふふふ、勇者さんは怠惰でだらけ癖があって極度のめんどくさがり屋さんですが」
「間違ってはいませんがそこまで言われると腹立ちますね」
「真面目な部分もあるいい子ですからね。やる時はやるお人です」
「そりゃどうも」
「そんな勇者さんに、こちらのお手紙セットと交換日記ノートを――」
「まだドリルの方がマシです」
「ブレないなぁ……ぐすん」
お読みいただきありがとうございました。
勇者さんは地頭は良いです。
勇者「そんなにドリルがお好きなら、こちらのドリルをどうぞ」
魔王「いやそれ、体に穴が開く方。ドリルでも怖い方のドリルですよ」
勇者「私からしたら積み重なったドリルの山の方がこわいです」
魔王「スイッチ押しながら言うのやめてもらっていいですかね」