107.会話 枕投げの話
本日もこんばんは。
寝る前に読んでいる方はご自分の枕をぶん投げてからお読みください。
「魔王さん、枕投げをしましょう」
「ぼくがイエスと言う前に、すでに剛速球で飛んできたこの枕は一体なんでしょうか」
「音と光の速さは比例しないそうですよ」
「少なくとも部屋の中では同じだと思いますよ。あっ、ちょっと二投目やめてください」
「夜、寝る前は同室の相手と枕投げをするのが伝統であり常識だと聞きました」
「誰ですか勇者さんに間違った知識を植え付けたのは」
「心を込めて投げる所存であります」
「殺意を感じるのはぼくの気のせいでしょうか。気のせいだといいなぁ」
「さっきから避けてばかりですが、なぜ避けるのです?」
「避けちゃだめなんですか?」
「私の愛ですよ。受け止めてください」
「勇者さんにこれほど似合わない言葉があるのも、一周回っておもしろいですね。いえ! 愛のかたちは人それぞれ千差万別多種多様で色とりどり。どんとこ――うぎゃっ」
「こめかみヒット。勇者に一ポイント」
「ポイント制なんですか? というか、いつの間にバトルになっているんですか」
「十ポイント先制で相手の命を刈り取るチャンスをゲットできます」
「デスゲームじゃないですか。キャッキャウフフな枕投げはどこへ……いだぁ!」
「みぞおちヒット。二対ゼロ」
「勝ったら相手を殺せるってことですよね。ぼくは八百長してでも負けますよ」
「約束された勝利……。おらぁ! 死にやがれください!」
「負けるとは言いましたが、枕に当たるとは言っていません! 勇者さんが飽きるまで避け続け、勝敗つかずで勝ち逃げします。ん? 負け逃げ? どっちでもいいや!」
「すでに私が二ポイントなので、どのみち私の勝ちですよ」
「ポイント反映されるんですか? し、仕方ありません。不本意ながら魔王、勇者さんに枕攻撃をしなくてはならないようです……。そ、そおれ~……」
「……よっわ。え、本気ですか? ネタですか? ばかですか?」
「最後純粋なディスりな気が……。だ、だって、ぼくが本気で投げたらこのお宿ごと吹き飛びますよ? 勇者さんは塵も残りませんよ」
「ばか力ですもんね。やっぱりばかなんですね」
「ば、ばかでいいですもん! こんなことで勇者さんを殺すわけにはいきません」
「そこだけはやたらと頑固なんですよねぇ……。わかりましたよ。では、ふつうの枕投げで遊びましょう」
「デスゲームではなく?」
「飽きたので」
「デスゲームに飽きる勇者さん、なんだか強者感がすごいですね。ふつうの枕投げならぼくにもできます。いきます、そおれ~」
「甘い。食らいやがれください」
「ぼくだって避けますよ。次、そいや!」
「まだまだ。これで終わりです。顔面もらった!」
「ひぎゃっ‼ うう~……勇者さん、投擲能力がお高いですねぇ……。いたた……ん?」
「どうしました? 変な顔して」
「枕が顔に当たった時、おかしな感触がして……。ぷに?」
「……そうですか」
「……なんで枕で顔を隠しているんです? まさか、枕に何かしましたね⁉」
「中、見てみたらいかがです」
「絶対何か仕込んだ……絶対……。一体なにを――ハッ⁉ こ、これは‼ ここここここここっこっここんにゃくっぅぅぅうぅぅうぅうわぁぁあぁぁああぁぁああ⁉」
「だーいせーいかーい……くすっ」
「な、なんておおおおおっそろしおそろしろいいしことを⁉」
「言葉ヘンですよ」
「あ、危うく力が暴走するとこ、とろことじゃないでしたかですか⁉」
「何しゃべってるんですか?」
「ちょっと待ってください。まさか、この枕すべてにこおこここここんにゃくが⁉」
「そうですよ」
「そうですよじゃないですよ‼ そもそも数十個の枕はどこから持ってきたんですか! いたずらに手間をかけすぎなんですよう……」
「すみません。定期的にこんにゃくアタックをしたくなる持病が」
「ご病気なんですか⁉」
「もはやまともな思考力が失われているようですね。哀れな」
「散乱した枕にこんにゃくが秘められていると思うと、震えが止まりません……。枕の乱雑な配置が魔法の構築式に見えてきました……。ぼくの目には見えます……こんにゃく魔法陣が……」
「眼科行った方がいいですよ」
「ま、まさか勇者さんはこんにゃく魔法陣を形成するために枕投げを⁉ テキトーに投げているように見せかけ、ぼくを魔法陣の中央にくるよう計算して……⁉」
「頭だいじょうぶですか?」
「枕投げ……。それはキャッキャウフフな寝る前の遊びの姿をした、魔法の構築式を形作る緻密に計算され尽くした智者の技……‼ 勇者さんの秘められた力が――ぴぎゃっ⁉」
「うるせえんですよ。ただの枕投げだって言ってんだろ」
「また顔面……。って、これ枕じゃなくて中身のこんにゃくじゃないですかぁあぁぁ⁉」
お読みいただきありがとうございました。
こんにゃくが絡むと魔王さんはいつも以上にばかになります。
勇者「枕を最初に投げた人は怨みでもたまっていたんでしょうか」
魔王「遊び心であることを願いますよ」
勇者「今度やる時は、こんにゃくじゃなくて爆弾を仕込んでもいいですか?」
魔王「いいと思いますか? ねえ? ほんとに?」