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102.会話 魔王が散歩してきた話

本日もこんばんは。

散歩したい気持ちはあるけどあまりの暑さに外に出られない人類の皆さんにおくる散歩の話です。

「ただいまです~。勇者さん、ぼくがいなくてさみしくなかったですか?」

「静かで快適な睡眠を得ることができました。もうちょっといなくていいですよ」

「ぼくは勇者さんに会えなくてさみしかったので、おでかけは終了です!」

「どこに行ってきたんです?」

「ちょっとお散歩に。あ、魔界まで」

「魔界」

「勇者さんを連れて行くことはできないので、ぼくひとりで行ってきたんですけど、いつも一緒にいたので少しの間でもさみしくてさみしくて……」

「だからって抱きつかないでください。離れろ」

「用事も兼ねたお散歩でしたが、勇者さんがいないとつまんないです~」

「魔界を散歩って、魔王っぽいですね。魔族たちが首を垂れて道を空けるんですか?」

「あ、いえ、ぼくのことを見向きもしませんね。たまにお買い得商品のセールスをくらったり、怪しいお店から求人のお誘いをいただいたりしましたけど」

「魔王の権威って塵以下なんですか」

「あんまりしつこい魔族は消しときました」

「おお……。涼しい顔で言いますね。片鱗が見えましたよ。いい調子です」

「のんびりお散歩したくても、そこかしこで戦闘やら虐殺やら爆発やらでちっとも落ち着きません。あう~……、やっぱり勇者さんの隣は落ち着きますねぇ……」

「その状況で落ち着こうと考えるのがさすがって感じですよ」

「視界に魔物がいる状態でお昼寝しようとする勇者さんが言うことではないかと」

「雑魚一匹程度に睡眠を削るわけないでしょう。魔界を散歩して何の用事だったんです」

「まあ、一応世界の確認と言いますか、視察といいますか、偵察といいますか。勇者さんにお土産を買おうと市場にも行ったんですが、魔界の様子に辟易してしまって……」

「魔王が魔界に辟易するの、控えめに言ってめちゃくちゃおもしろいですね」

「魔界に人間はいないのに、人間界に魔物がいるのはおかしいと思うのです! どっちかにしてほしいです!」

「魔物が消えたら私の仕事もなくなってうれしいですよ」

「それはぼくがいやです。まあ、いつか勇者さんとも魔界をお散歩してみたいと思っていますよ。野蛮な輩が多いですが、おいしいものもたくさんありますからね」

「人間は魔界にいられないのに……」

「ただの願望ですよー。本気じゃないです。あ、今度食べ物持って帰ってきますね」

「それは私が食べられるものなのでしょうか」

「魔界で流行っている食べ物ですよ。たしか、魔物の血液と毒で煮込んだソースをレア焼きした心臓にかけて食べる一品なのだとか」

「ちょっとおいしそうだと思ってしまった自分がいる」

「食べたひとの三人に一人はおいしさのあまり死ぬらしいです」

「おいしくて死ぬってほんとうにあるんですね。たぶん原因は毒ですよ」

「のんびり食べ歩きするのは楽しいんですけどね、事あるごとにぼくを殺そうとしてくる不遜な魔族魔物が多くて困ります。落ち着いて世間話もできません。まったくもう」

「魔王と魔なるものの関係性ってそういう感じなんですね。キレるのもわかります」

「従順なものもいますけどねぇ。だいたいは脳にゴミしか詰まっていないような不敬極まりないものばかりですよ」

「なんか、今日の魔王さんはレアですね」

「レア焼き心臓ステーキに興味持ちました? 今度お持ちしますよ」

「食べたら死ぬと思うので結構です。魔界に行くと空気にあてられてピりついた魔王さんが見られるのかもしれませんね。それとも、これが本来の魔王さんなのでしょうか」

「どれもぼくですよ。一番ありのままでいるのは勇者さんの隣ですけど! えへん!」

「ピリつき魔王さんはかなり魔王っぽいので定期的に魔界に行くのをおすすめします」

「そ、そんなにピリついてます……? たしかに、ぼくは魔界きらいですけど」

「魔界が嫌いな魔王という字面、今日イチおもしろいですね」

「魔界にはめんどうなのもうざいのも気味が悪いのもいっぱいいるんです! どうせ勝てないのにいちいちぼくに勝負をしかけてきて、学ぶ脳がないのもいい加減にしてほしいですよ。従順だからいいというわけでもありませんし、もう行きたくないです!」

「じゃあ、行かなきゃいいじゃないですか」

「ほぁ?」

「いやなことはしなきゃいいんです。魔界に何をしに行っているのかは知りませんけど、ほっといて壊れるなら本望でしょう」

「ゆ、勇者さんが優しい……!」

「穏やかな魔王さんの堪忍袋の緒が切れて私に飛び火するのは御免です」

「世界がひっくり返ってもそんなことはしませんよ!」

「勇者を守る魔王にツッコむのもめんどうですね」

「でもですね、魔界に行く時はエネルギーを補充していくのでだいじょうぶですよ」

「まさか、出かける前に私に抱きついてきたのって……」

「勇者さんを充電していました~痛ぁ⁉」

「二度とやるな。そして二度と魔界に行くな。行かなければ充電の必要はないでしょう」

「つまり、ずっと勇者さんのおそばにいろということですか⁉ それはまるで――」

「うるせえんですよ。私も散歩に行ってきます」

「いててて……。どちらへ?」

「出かけたまま帰らない散歩の旅に」

「はい、いってらっしゃ……待って⁉ ぼくは置いてけぼりですか⁉」

お読みいただきありがとうございました。

魔界魔族魔物関連の魔王さんはちょっとだけ物騒。


勇者「むしろ魔王っぽくていいはずなんですけどね。このひとに限っては違和感が……」

魔王「なにかおっしゃいました?」

勇者「毒されてきたなぁと」

魔王「毒⁉ もしや毒草食べたんですか⁉ げ、解毒剤はっ⁉ あわわわわ⁉」

勇者「……そういう意味じゃない」

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