93.諸悪の根源は誰だーッ!
本日3話目の更新です。
「ゲルトルード嬢が考案したレシピや品々を取り扱うのだから、ゲルトルード商会以外の名は考えられぬだろう」
「はい。それがいちばんふさわしい商会名かと」
公爵さまとエグムンドさんがうなずきあってる。
エグムンドさんは自分の鞄から何か用紙を取り出し、さらさらと書き込み始めた。
「まずはレシピ本の製作と販売、それからコード刺繍の製作を行うツェルニック商会さんの窓口業務ですね。そうしておかなければ、ツェルニック商会さんはコード刺繍製作の申込をさばくことに忙殺される可能性が非常に高いですから」
「ありがとうございます。ゲルトルードお嬢さまの商会にそのようなことまでしていただくのはまったくもって恐れ多いことではございますが、非常に助かります」
ツェルニック商会一行がそろって頭を下げてる。
そこに公爵さまが口をはさんできた。
「あの布に魔力付与をした品の販売権も得られるだろう。加工の権利を売るさいの条件に販売権を入れればいいのだから」
「さようにございますね」
エグムンドさんがまたさらさらと用紙に書き込んでいく。「それに、ゲルトルードお嬢さまはあの細長いパンの『さんどいっち』を、街の商店で販売することをお考えです」
「ああ、ご当家の料理人の親族が経営する店だな。私も話は聞いている」
「ゲルトルードお嬢さまは、新年の祭りのさいにあの細長いパンを売る屋台を出すこともお考えだそうです」
「ほう、それは初耳だ。しかし、それもおもしろそうだな」
「はい、ゲルトルード商会直営の屋台として出店すれば、それだけ話題にもなりましょう」
って!
って!
ってーーー!
ようやくそこで、真っ白になっちゃってた私の頭の中が動き始めた。
ゲ、ゲルトルード商会?
って、なんの話をしてるの? 公爵さまもエグムンドさんも?
「商会の設立基金は、そうだな、このタウンハウスの売却代金を充てよう。そもそもこのタウンハウスも、ゲルトルード嬢が相続すべき財産なのだし」
「はい、とても良いお考えだと存じます。ゲルトルード商会の店舗として使用できる物件も目星をつけておりますので、そちらの購入に使わせていただきます」
「さすがだな。その物件はどの辺りだ?」
「中央広場から通りを一本入ったところにございます。3階建てで、1階を店舗として使用できますので、レシピ本やコード刺繍を使用した服飾品、それに魔力付与をした布などを展示するのもよろしいかと」
だだだだから、だからなんの話?
設立基金? 店舗? 中央広場から通りを一本入ったところ?
なんでお店にする物件がすでに決まってるの?
なんかもう、やっと動き出した私の頭がまったく追いついてくれない。
「それに、国軍とのレシピ売買契約と、魔法省との権利売買契約につきましても、ゲルトルード商会として行われたほうがよろしいかと」
「そうだな。では、ゲンダッツ弁護士にはゲルトルード商会の顧問弁護士になってもらおう」
「謹んでお受けいたします」
粛々と頭を下げるゲンダッツさんズに、エグムンドさんはこちらこそどうぞよろしくと頭を下げ返してる。
「そうしますと、ここはやはり、ツェルニック商会さんにもゲルトルード商会専属となっていただく必要がありそうですね」
「ありがとうございます。そのお言葉を千秋の思いでお待ちしておりました。私どもツェルニック商会一同、末代までゲルトルードお嬢さまにお仕えさせていだきます」
ツェルニック商会はやっぱり通常運転……って、なんで?
「ふむ、それならばツェルニック商会には刺繍工房を増設するか、あるいは既存の工房を買い取る必要がありそうだ。その資金も、ゲルトルード商会から出そう」
「公爵閣下にはそのようなお気遣いまでいただき、我らツェルニック商会一同、感謝に絶えません。ご期待に応えるべく、一同力の限りを尽くすことをお約束申し上げます」
やっぱり通常運転のツェルニック商会……って、だからなんで?
ダメだ、まったく頭が追い付かない。
なんでゲンダッツさんズもツェルニック商会も、当たり前の顔をして通常運転なの?
おかしいよね? なんか絶対、おかしいよね?
「それではこちらが、商会設立の申請書類になります。商会名はゲルトルード商会、頭取はクルゼライヒ伯爵家令嬢ゲルトルード・フォン・ダ・オルデベルグさま、そして顧問にエクシュタイン公爵家当主ヴォルフガング・フォン・デ・クランヴァルドさま。それでは、概算で結構でございますので、設立基金がいかほどになるかお教えいただけますでしょうか?」
「うむ、陛下より内々に承っている金額は……」
公爵さまがとんでもない金額を告げたところで、なぜかお母さまが口を開いた。
「公爵さま、ゲルトルードは未成年でございますが、それでも商会の頭取になることができるのでございますか?」
はっ、そうだよね?
私、未成年だよね? それで商会の頭取とか、あり得ないよね?
だけど、公爵さまはあっさりとうなずいた。
「ああ、私が顧問に就任するのであれば、問題ないと聞いている」
「さようにございます、コーデリア奥さま」
エグムンドさんが説明を始める。「未成年の貴族令嬢が頭取をお務めになられる商会というのは非常に珍しくはございますが、後見人であるエクシュタイン公爵さまに顧問にご就任いただいた上に、これだけの設立基金をご用意いただけるのですから、商業ギルドでの審査でもまったく問題ございません」
「そうですのね。それならば安心いたしました」
って、お母さま! 安心しないでぇぇーーー!
いや、そもそも、お母さままでなんで、こんなワケわかんない話にナチュラルに参加されちゃってるんですか!
こんな話、これっぽっちも聞いてなかったですよね?
私が頭取になって商会を設立するとか……いったいナニがどうなってこんなことに!
もう置いてきぼりどころの話じゃないでしょうがあああーーー!
もはや完全に脳内絶叫状態になっちゃってる私を置いたまま、話はどんどん進んじゃってる。
私はようやく、よーーーやく、声をあげた。
「公爵さま、お伺いしたいのでございますが?」
私の盛大に引きつった笑顔に、公爵さまが顔を向けてくれた。
「わたくし、自分が商会の頭取になるなどというお話、これまでまったくお聞きしたこともなかったのですが、いったいどういうことなのでございましょうか?」
いやもうマジで、私のこめかみに血管が浮いててもおかしくないでしょな状況で、よくこれだけ落ち着いて問いかけられたよね、私偉いよね?
なのに、公爵さまはしれっと答えてくれた。
「そうであろうな。私もいま初めて口にしたのだから」
って、なんじゃそりゃーーーーー!
いやもうマジで、目の前にちゃぶ台があったら全力でひっくり返してたよ!
いま初めて口にした? それでなんで、商会設立の申請書類がいまここにあるっていうのよ! しかも店舗にできる物件? 誰がどう考えたって、事前にきっちり準備してあったとしか思えないでしょーが!
脳内絶叫どころか脳内ぶちギレ状態の私に、公爵さまは悠然と告げてくれちゃう。
「私も、きみが考案したレシピや品々を一元的に扱える商会をいずれ設立する必要があるだろうという話を、間接的に打診されたのは昨日のことだ。そして本日、この場でさまざまな話し合いをした結果、いずれではなくただちに、その商会を設立すべきであると判断したのだ」
間接的に打診?
商会の設立を、公爵さまに間接的に打診って?
公爵さまの視線の先では、エグムンドさんが実にイイ笑顔でうなずいていた。
かの人は本物の黒幕だったようです(爆
そんでもって、置いてきぼりもここまできたかの主人公ゲルトルードちゃんw





