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87.またもやこのパターン

本日は2話投稿できそうです。

久々公爵さま登場で、ちょっと長めです。

「エクシュタイン公爵さま、本日は当家にご訪問、まことにありがとうございます」

 カーテシーで正式な礼をして公爵さまをお迎えしているお母さまに並び、私もカーテシーでお迎えした。

「うむ、本日の話し合いが両家にとってよき結びつきとなることを期待している」

 公爵さまはいつも通り眉間にシワを寄せたままうなずいている。そんでもって、近侍さんもいつも通りうさん臭さ満載の笑顔で礼をしてくれた。


 お母さまはそれから、先に到着していたゲンダッツさんズを公爵さまに紹介した。今日はゲンダッツさんも2人で訪問。かしこまったようすで公爵さまにご挨拶してる。

 これから客間に移動して、後見人契約の書類を確認し、その書類をゲンダッツさんが国に申請してくれて、公爵さまは正式に私の後見人になってくれる、っていう流れなのよね……。


 はー、それにしても本当なんだろうか。公爵さまが、私に領地を返してくれるなんて。

 そりゃまあ、国内でも有数の豊かな領地であるエクシュタイン領をお持ちの公爵さまにしてみれば、クルゼライヒ領なんて別に欲しくもないし、なのかもしれないけど。

 でもぶっちゃけ、返してもらっても困るのよー!

 こっちはもう、お母さまとアデルリーナと3人でつつましく穏やかに暮らしていければいいからって、もう完全にその気、その態勢になってたのよね。幸い、レシピが売れそうだし、そのレシピ本を作る見込みも立ちそうな状況だし。

 それでいくらか収入を得て、もうむしろひっそりと暮らしていきたい。


 だから、そのためにどうすればいいのか、私は昨日ゲンダッツさんのお話を聞いてから考えたの。もう、めっちゃ考えたの。

 とにかくいちばんいいのは、公爵さまにクルゼライヒ領を引き取ってもらっちゃうこと。

 公爵さまはいいご領主だと聞いてるってゲンダッツさんも言ってたし、公爵さまにおまかせしてしまえば、クルゼライヒ領が立ち行かなくなることはないと思うのよね。そのぶん、公爵さまの負担は増えてしまうだろうけど……そこはもう、お願いします、ってことで。


 そんでもって、もし公爵さまに引き取ってもらえないなら、私はもう最終手段に打って出るしかないかも、って思い始めてる。

 つまり、すぐに爵位を返上し領地も国に返納しちゃおう、っていう、ね。


 爵位を失うことについては、お母さまがそれでもいいって、私が結婚できなくてその結果爵位を失ってもかまわないって、言ってくれたからね。

 だからもう、お母さまとアデルリーナには本当に申し訳ないけど、伯爵位も領地も国にお返ししようかと思うの。そうすれば、本当に私たち母娘3人はある意味とっても身軽になれる。貴族としての体裁を保てるだけの収入さえあればいい、って状態になれちゃうんだから。


 だけど問題なのは、昨日ゲンダッツさんが言ってた、あくまで公爵さまが私に領地を相続させ、私に爵位と領地を維持させようとした場合よ。

 この場合、いくら公爵さまが後見人として私を援助してくれるっていっても、爵位を維持できる条件が私の結婚だっていうのが、ね。


 だって、私に領地を返してくれるんだっていっても、まず私が22歳までに結婚できなければ、私は爵位を失う。そんでもって、もしまかり間違って私が結婚しちゃったら、領地は私の配偶者が所有することになる。

 ゲンダッツさんは、裏技を使えば私が結婚しても領地を配偶者の好きにはさせないこともできるって教えてくれたけど、たぶん公爵さまもその線を狙ってるんじゃないかって教えてくれたけど、それってナニをどうやっても『私が結婚する』ってことが大前提なのよ。


 公爵さまは、私に結婚を無理強いしないって約束してくれたけど、それを果たしてどこまで信用していいのか。

 公爵さまがあくまで私に領地を返そうとするってことは、どう考えても私に対し、領地を含めクルゼライヒ伯爵家を維持することを望んでるってことだからね。


 と、いうことはこの場合、私には、しっかり領地経営をしてくれる有能なお婿さんAをゲットするか、領地経営には一切手を出さずお飾りの爵位で納得してくれるお婿さんBをゲットするか、の二択しかないってことでしょ?

 もちろん、どちらの場合も、家族に暴力をふるったりギャンブルで領地や財産を全部スッちゃったりしないような人であることは、最低条件でね。


 いやもう、悪いけど私にそんな有能で誠実な、できたお婿さんがきてくれるなんて、想像すらできないわ。

 かと言って、自分で領地経営なんてのも、どう考えても無理ゲーでしょ。

 私は領主教育なんてこれっぽっちも受けてないどころか、いままでクルゼライヒ領に足を踏み入れたことすらないのよ?


 ただ図書館で調べた知識があるっていうだけで、そこでどんな人たちがどんなふうに暮らしてるのかもわからない。それなのにその人たち、たぶんもう何千人っていう規模だと思うけど、その何千人もの生活を、私が背負って養わなきゃならないなんて……。


 やっぱり、どうしても公爵さまが私に領地を相続させようというつもりなら、いっそ最初から爵位の返上と領地の返納を申し出たほうがいいかもしれない。豊かな領地であるのならなおのこと、経営なんてまるでわからない素人のせいで、領民の暮らしが破綻するなんてことには絶対にできない。

 もし公爵さまがそれを承諾してくれないなら、後見人手続きも止めてもらいますくらいのことを言わなきゃいけないかも……でも、まずは公爵さまの意向をちゃんと確認して……。


「ゲルトルード嬢?」

 呼ばれてハッと顔を上げると、目の前に公爵さまの顔があった。

 眉間にシワを寄せたまま、公爵さまが私の顔を覗き込んでいる。

「顔色がすぐれぬようだが、大丈夫だろうか?」

「えっ、あっ、あの、大丈夫です」

 私は慌てて応えたけど、そりゃまあ、昨夜は考えすぎてすっかり寝不足になっちゃったからね、ちょっとその辺は顔に出ちゃってるかもしれない。

 てか、近いよ公爵さま! 私ゃ思わずのけぞっちゃいそうになっちゃったよ!


「本当に大丈夫なのか? もし不調なのであれば……」

「大丈夫でございます、公爵さま」

 私はなんとか笑顔を貼り付けた。「本日はお越しいただき、まことにありがとうございます。ご案内いたしますので、どうぞ客間へ」

 なんか公爵さまはまだ不審そうな顔をしてるけど、寝不足だと申告してもしょうがないし、むしろさっさと用件を済ませて、ちゃんと確認させてもらいたい。本当に、公爵さまは私に領地を返してくれちゃうおつもりなんですか、って。


 客間へと移動し、全員が着席したところで、本日最初の議題が始まった。

 ゲンダッツさんズが用意してくれた後見人契約の書類を、公爵さまと私たち母娘が確認していく。

 私たちはもう、昨日のうちに内容のチェックは済ませているので、特に問題なし。

 公爵さまも書類を一瞥してすぐに言った。

「この内容で私は問題ない。ゲルトルード嬢、きみのほうは?」

「わたくしも、問題ございません」

 私の返事に公爵さまはうなずいた。

「では、この内容で手続きを進めるように」

「かしこまりました」

 ゲンダッツさんズが頭を下げて書類を受け取った。


 私はそこで、公爵さまに問いかけるべく姿勢を正した。まずは公爵さまが本当に、私に領地を返すつもりであるのかどうかを確認しなきゃ。

 だけど、私が問いかける前に、公爵さまはさらりと付け加えてくれちゃった。

「それから、私が正式にゲルトルード嬢の後見人となれば、すぐにゲルトルード嬢の相続の手続きを進めたいのだが」


 そんでもって、口を開きかけて固まっちゃった私の目の前で、ゲンダッツさんズもさらりと応えてくれちゃうんだ。

「かしこまりました。ゲルトルードお嬢さまが相続されるのは、ご領地のみになりますでしょうか? こちらのタウンハウスは手放すと、ゲルトルードお嬢さまからお伺いしておりますのですが」

「そうだな、まず領地の相続を進めてほしい。このタウンハウスも売却の手続きがすめば、売却代金はゲルトルード嬢の財産となるので、そちらは別途手続きを頼む」

「かしこまりました」


 って!

 なんで私が公爵さまに確認する前に、領地どころかタウンハウスの売却代金まで増えてんの?

 なんでゲンダッツさんは当たり前の顔をして、公爵さまと話を進めてるの?

 いや、確かに昨日、領地については話したけど、さらに上乗せがあるなんてことは、まったく話してないよね? え、でも、なんか領地と財産の相続について、ってゲンダッツさん言ってた?


 いや、でも、やっぱおかしいよ。もう本気でどうかしてるとしか思えない。このバカでかいタウンハウスを売り払った代金まで私にくれるって? どう考えても、『クルゼライヒの真珠』どころの金額じゃないでしょ? 冗談抜きで『財産』な金額でしょ?

 ああ、でも、本当にマジでこんなにバカでかいタウンハウスが、簡単に売れるわけがないよね? こんな無駄にバカでかい邸宅なんて、むしろ『負動産』だよね?


 とか私が思ってたら、またもや公爵さまはさらりと言ってくれちゃうんだ。

「このタウンハウスに関しては、今後国賓の随行者のための迎賓館として使いたいと、陛下がおっしゃってくださっている。ゲルトルード嬢たちの引越しが済めば、すぐにその手続きに入れると思う」


 陛下って……まさかの国王陛下売約済み? マジですぐに売れちゃうの? さすが公爵さまは国王陛下の義弟でいらっしゃる。てか、いつの間にそんな話になってたんですか?

 私、本当に、マジで冗談抜きで、ソレもコレも初耳なんですけど!


 あまりのことにちょっと遠い目になってる私の耳に、公爵さまの声がひびく。

「ああ、ゲルトルード嬢もコーデリアどのも、引越しを急がれる必要はない。迎賓館として使用するには改装が必要なのだし、どのみち次の社交シーズンには間に合わぬからな」

「お気遣い、ありがとうございます」

 お母さま、なんでそんなにふつうにお礼が言えちゃうんですか。私は遠い目になったまま、どうにも戻ってこれそうにありません……。


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― 新着の感想 ―
[一言] まだまだ女が弱い文明の時代で 女だけで暮らせると思う感覚が浮世離れしてるというところに本人が気づいていないんだよなぁ 日本だって昭和の時代に女だけのお家を狙ってる人達がいた。今は母子家庭の…
[一言] 爵位返上するなら端っこといえども貴族街に住んじゃいけないから、また引っ越しが必要になるし お洋服も身分に合う服装にしなきゃいけなくなるから、お母様の思い出の品も小さなもの以外は全部手放さな…
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