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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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82.おあずけとお味見

本日2話目の更新です。

「どうかなさいましたか、ゲルトルードお嬢さま?」

 マルゴが不思議そうに問いかけてくる。「その、鍋いっぱいの油で調理するお料理というのは……」

 私はなんとか興奮を抑え込んで言った。

「とってもいいお料理を思いついたのよ。絶対美味しいわ。ぜひ試してみたいの」

「それはもう、いくらでもお手伝いいたしますです」

 マルゴの口元がほころぶ。さすが天才料理人マルゴ、新しいお料理に意欲的よね。


 ああでも、今日も明日も予定テンコ盛りで、揚げ物を試作している時間がなーい!

 どうしよう、めちゃくちゃ唐揚げ食べたくなってるんですけど!

 あっ、でも、お醤油がないから唐揚げは無理? じゃあ、ザクザク衣をつけてスパイシーなフライドチキンにすれば……あああああ、どっちでもいいから食べたい!


 私はもう断腸の思いで言った。

「でもマルゴ、わたくしはしばらく忙しくて……マルゴと一緒にお料理の試作をする時間が取れそうにないのよ」

「レシピを教えていただければ、あたしが試作しておきますですよ」

「ええ、そうしてもらいたいのはやまやまなのだけれど、わたくしも本当にいま思いついたばかりなので、実際に調理してみないとわからないの。まだレシピが書ける状態ではないのよ」

「さようでございますか……」

 マルゴの顔にも残念さがにじんでいる。

 うう、フライドチキンもポテチも、当面はおあずけだわ。


 油で揚げる料理の経験がないマルゴに、レシピだけを渡してもさすがに難しいと思う。揚げ物って温度管理が重要だし、大量の油を沸かして使うんだから、いくらマルゴが天才料理人でもやっぱり危険だと思うのよ。

「少しでも時間を作って厨房へ来るようにするわ。絶対、美味しいと思うの」

「それはもう、ゲルトルードお嬢さまがおっしゃるなら間違いないことでございますよ。あたしも本当に楽しみでございます」

 笑顔でマルゴは応えてくれた。


「ルーディ、また何か、美味しいお料理を思いついたの? 今度はお食事かしら? それともおやつ?」

 私たちの会話を聞いていたお母さまも、興味津々という顔つきで問いかけてくれちゃう。

「両方です、お母さま。お料理というか、調理方法を思いつきましたので。お食事もおやつも、どちらにも使えそうです」

「どちらも? すごいわ、いったいどんなお料理なのかしら? とっても楽しみだわ」

 ね、そうでしょう? と、お母さまから顔を向けられたアデルリーナも、満面の笑顔で応えてくれた。

「はい、とっても楽しみです!」


 ああもう、お母さまもアデルリーナもめちゃくちゃかわいくてかわいくてかわいすぎる!

 ホントに2人ともにこにこ顔で、毎日美味しいごはんやおやつを食べてくれて。ホントに、ホンットに2人が毎日笑顔でいてくれるなら、私はいっくらでもがんばれちゃうわよ!


 などと私が思っていたら、マルゴが思い出したように言い出してくれた。

「そう言えば、新作のおやつはもう召し上がっていただきましたでしょうか?」

「あら、甘い蒸し卵かしら?」

 お母さまが首をかしげる。「昨夜はさすがに食べすぎになってしまうから、食べずに休んだのだけれど」

「はい、甘い蒸し卵もですが、もうひとつゲルトルードお嬢さまに教えていただいたおやつがございまして」


 あ、忘れてた!

 そうよ、もうひとつ、マルゴには伝えてあったんだっけ!


 マルゴは戸棚から、ボンボニエールのような、ふたのついたかわいらしい容器を取り出してきた。

「申し訳ございません、昨夜お伝えするのを忘れてしまっていたようでございます」

 頭を下げながらマルゴが差し出してくれた容器には、小さなメレンゲクッキーがぎっしりと詰まっていた。


「本当に見たことがないおやつだわ」

 お母さまが嬉しそうに容器を覗き込んでいる。「お味見してもいいかしら?」

「ええ、もちろんです、お母さま」

 私が笑顔で応えると、お母さまはつまみ出したメレンゲクッキーを、アデルリーナにも渡してあげてる。

 そして、そのメレンゲクッキーを2人そろって口に入れたとたん、驚きの声をあげてくれちゃった。

「えっ、お口の中で溶けてしまったわ!」

 お母さまもアデルリーナも、目が真ん丸になっちゃってる。ああもう、ホンットに2人ともなんでこんなにかわいくてかわいくてかわい(以下略)。


 私もひとつ、メレンゲクッキーを手に取って口に入れた。

 サクッと噛んだとたん、本当にしゅわっと溶けるように口の中で消えていく。

 さすがマルゴとしか言いようがないわ、この絶妙な焼き加減。味付けも、はちみつと檸檬の果汁のバランスが絶妙で、ほんのり甘酸っぱくて本当に美味しい。

 私は、マヨネーズは卵黄だけを使う派なので、残った卵白の使い道としてメレンゲクッキーのレシピも、マルゴに伝えておいたんだよね。


「どうしましょう、美味しすぎて、お味見の手が止まらないわ」

 なんて言いながら、お母さまはまたメレンゲクッキーをお口に入れちゃってる。当然、アデルリーナもだ。ホント、このサクッとシュワーはクセになるよね。


「奥さま、アデルリーナお嬢さまも、それほどお気に召していただけたのでしたら、追加を作っておきますですよ」

 マルゴが笑って言ってくれた。

 お母さまはなんかもう、真剣な顔でお願いしちゃってる。

「ええ、ぜひお願いよ、マルゴ。これは本当に美味しいわ。今日のおやつに甘い蒸し卵を食べることをとっても楽しみにしていたけれど、ほかにもこんなに美味しいおやつが食べられるなんて」


 うん、マルゴ、よろしくお願いします。

 メレンゲクッキーって、作り方自体はそんなに難しくないんだけど、泡立てに腕力が必要なのと、低温でじんわり焼かなきゃいけないのでめっちゃ時間がかかるのがネックなのよね。うっかり目を離してると焦げちゃったりするし。

 マルゴのことだから、時間をやりくりしてちゃんと作ってくれるはず……ごめんマルゴ、丸投げしちゃって。


 実際、私たちはおやつの前にしなきゃいけないことが、テンコ盛りなんだもの。

 とりあえず、私たちは厨房を後にして、居間へと移った。

 そんでもって、お母さまと本日の予定を確認した。


 今日はこれから、またツェルニック商会が来てくれる。頼んであるお直しドレスの2着目が届く予定だ。夜会用の紺青色のドレスとは違う、ふだん着られるデイドレスね。


 先日届けてもらった若草色のドレスは私もすごく気に入ったし、公爵さまも褒めてくれたけど、やっぱこれからしょっちゅう公爵さまと面会しなきゃいけなくなったっていうのがねえ。毎回同じドレスを着てるわけにもいかないのよ。だから、ドレスのお直しもさらに何着か、ツェルニック商会にお願いすることになったのよね。

 はー……今日は、いや、今日も? またツェルニック・ディになりそうです……。


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― 新着の感想 ―
フライドポテトなら、芋を適当なサイズに切って素揚げするだけだから、素人でも作れると思うんだけどダメなのかな? もしかして、フライ用の深鍋がないとかって所からスタート?
[一言] 大量の油が、キー!
[一言] 余った卵の白身ですけど。 小麦粉と砂糖とバターを混ぜて丸く薄く焼き、柔らかいうちにクルクルっと巻くお菓子。黄身を使っていないから白さが目立ちます。メレンゲにしないから手間もそれほど掛からなか…
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