79.別腹にも限界アリ
今日も更新できました(ホッ)。
疲れた……。
もーホンットに、昨日今日の、この濃さはどうなのよ?
なんかもう、ありとあらゆるモノがみっちりと詰まりまくった2日間だったわ。
いやもう、あのゲス野郎が死んでくれたおかげで、それ以降はいろいろ大変ではあったんだけど……なんかもう、すべて吹っ飛んじゃった感じすらしちゃうレベル。
あのエグムンドさんのイイ笑顔から、さらにいろいろと打ち合わせをした。
全員が辞してくれたときにはもう、すっかり日も落ちちゃってたっていうね。
ホントにいろいろで……明後日、また公爵さまの来訪でいろいろいろいろ話をしなきゃいけないことになっちゃって……すでに気が遠くなりかけてるんですけど。
なのに、お母さまはすっごくご機嫌で、元気いっぱいスキップでもしちゃいそうな勢いなのは何故?
厨房に戻ったとたん駆け寄ってきたアデルリーナを抱きとめ、お母さまはうきうきとはずんだ声で言っちゃうの。
「リーナ、とってもすてきなお知らせよ。ルーディが『新年の夜会』に参加できるの! あの紺青色のお衣裳で、公爵さまにエスコートしていただいて」
「本当ですか!」
パッと見開いた目をきらきらさせて、アデルリーナはお母さまと私の顔を見比べちゃう。
「まだわからないのよ、公爵さまにはまだお話ししてないから」
「あら、大丈夫よ、公爵さまは必ず貴女をエスコートしてくださるわ」
私が確定じゃないってことを言っても、すぐさまお母さまは『もう決まったこと』として嬉しそうに続けてる。
「ルーディが考案した新しい刺繍も、そのときお披露目するのよ。それに、新年のお祭りには『さんどいっち』の屋台を、街の広場に出しましょうっていうお話もあるの。本当にこんなに新年が待ち遠しくなるなんて、もうどうしましょう」
いや、どうしましょうもナニも、まだ確定ぢゃないんですってば。たんまり盛り上がっておいて、挙句に公爵さまからダメが出ちゃったらどうするの?
なのになのに、客間を片づけてワゴンを押して戻ってきたナリッサもうんうんとうなずいてるし、シエラもにこにこ顔が隠しきれてない。
ちなみに、ヨーゼフは後片付けをナリッサとシエラに任せてさーっと自室に下がっていってしまった。いや、そうするよう言うつもりだったけどね、お小言ナシにさせられてしまったわ。くっ、これもさすがヨーゼフと言うべきか。
そんでもって今日もやっぱり厨房にはマルゴが残ってくれていて、満面の笑みで言い出してくれちゃうんだ。
「それはようございました。本当に新年が楽しみでございますねえ」
私はちょっと慌てて口をはさんでしまう。
「あ、でもマルゴ、お祭りの屋台のことは、まだ公爵さまには話していないから……」
「はいはい、もちろんわかっておりますです。それを別にしても、ゲルトルードお嬢さまが公爵さまとご一緒に『新年の夜会』にご参加されるというのは、とてもよいお話ではございませんか」
「そうなの。本当によかったわ。公爵さまにエスコートしていただくことで、ルーディの後見人になってくださることのお披露目にもなると思うし」
お母さまがやっぱりはずんだ声で言って、私はようやく、ああそういう意味合いもあるのかと理解し、納得しちゃった。
なるほど、だからお母さまはずっと、公爵さまは私のエスコートを断らないって言ってるわけだ。
あれだけ、自分を私の後見人にしろって言ってきてたくらいだもん。親族でなければ学生の私をエスコートできないんだから、そういう意味で親族と同等の立場である後見人になったことをアピールするには、最もわかりやすい場だもんね。
じゃあ、まあ、公爵さまエスコートによる『新年の夜会』に参加っていうのはもう確定事項として……やっぱ踊るのか。あの公爵さまと。
なんかもう、それだけで私は頭を抱えたくなっちゃうんだけど。
私のダンスが壊滅的な上に、めちゃくちゃ身長差あるんだよね。あの人、絶対180センチ超えてると思う。30センチくらい身長差があって、それでちゃんと恰好がつくように踊れって、どんだけハードル高いんだか。
それなのに、お披露目だなんていうんだからヘタなことはできないし……それでなくても、王妃さまの実弟だなんていう公爵さまとのダンスなんて、注目されまくりよね? うう、完全に拷問状態だわ。泣きそう。
などと、私がどんよりしちゃってる間にも、お母さまとアデルリーナはすっかりキャッキャウフフになっちゃってる。
ドレスとレティキュールは決まったけど、アクセサリーはどうしましょう、それに髪型も考えなきゃ、ダンス用に靴も新調しましょうとか、もうめちゃくちゃ楽しそう。
お母さまもアデルリーナも目をキラキラさせちゃってて、うん、まあ、2人が楽しくて嬉しいなら私もよかったと思えるです……たとえそれが、私の尊い犠牲の上に成り立つのであっても……うぇーん、まぢ泣きそう。
それでも、いまからあれこれ思い悩んでいてもしかたないと、私は自分に言い聞かせて、お母さまとアデルリーナに笑顔を向けた。そしてできるだけ明るい声で言った。
「お母さま、リーナ、そろそろお夕食をいただきませんか?」
私の笑顔は決して、マルゴがテーブルに並べてくれた美味しそうなハムサンドに釣られたからではない。ええ、決して。
だけどお母さまは、私が声をかけたことですっかり、テーブルの上のハムサンドに釣られちゃったらしい。ハムサンドを見たとたん、期待を込めた声で言ってくれちゃうんだ。
「あら、もしかしてこの『さんどいっち』は新作かしら?」
「はい、奥さま。ゲルトルードお嬢さまより教えていただきました、新しいソースを早速使ってございます」
マルゴもにっこにこで答えてる。「ゲルトルードお嬢さまがおっしゃっておられた通り、本当にお野菜によくあうソースでございます。口当たりもなめらかで、びっくりするくらい美味しゅうございますですよ」
「まあ、それはなんとも楽しみね」
嬉しそうに言って、お母さまはそれからちょっと困ったようすで自分のお腹を片手で押さえた。「ああでも、さすがに今日はおやつを食べすぎちゃったわ」
ええ、そりゃあもう。フルーツサンドにホットドッグに、果物だって結構つまみ食い、げふんげふん、お味見されちゃったですものね。
でもその辺りについても、さすがマルゴは織り込み済みだ。
「『さんどいっち』は何種類かご用意しております。お気に召されたものだけ召し上がっていただければと思いますです。残りは明日の朝召し上がっていただいても結構ですし」
マルゴは食べ飽きないようにサンドイッチを何種類も作り、それを小さなサイズに切り分けてくれていた。しかも、あとはスープとサラダという手軽なメニューになってる。
そんでもって、もちろんアレも作っていてくれていた。
「ゲルトルードお嬢さまから教えていただいた、甘い蒸し卵もご用意しておりますです。冷却箱で冷やしておりますので、今夜お召し上がりになられてもよろしゅうございますし、明日のおやつにしていただいてもよろしいかと思いますです」
お母さま、プリンがあると聞いてさらに目をきらきらさせないでくださいませ。さすがに食べ過ぎです。
たくさんの感想、本当にありがとうございます。
もちろんすべて拝読しています。
でもまったくお返事できておりませんで、本当に申し訳ありません<(_ _)>