75.我が家の使用人が優秀過ぎる件
ちょっと遅くなりましたが、今日も更新できました(*^^*)
「未来永劫、感謝させていただきます、ゲルトルードお嬢さま!」
「まさか我ら商会のことをそこまで考えてくださるとは、まさに精霊のごときゲルトルードお嬢さまのご加護をいただいたと言っても過言ではございません!」
「我らツェルニック商会、全員の生涯をゲルトルードお嬢さまに捧げます!」
いや、過言だから! 過言が過ぎるから!
私の前に跪き、なんかもうむせび泣きながらものすっごい重いことを口走ってるツェルニック兄弟とお母さんに、私は思わず引いちゃったわよ。
「え、ええ、でも、これは実際にやってみないと、どの程度の利益になるかなんてわからなくてよ?」
いやもう、ちょっとそこまで重いのは勘弁してほしいと思いつつ、なだめるように私は言ったんだけど、別方向から突っ込みが来ちゃった。
「いえ、まず間違いなくこの新しい刺繍は、新しい流行を生み出すと思います」
ちょ、エグムンドさん、そこんとこは専門家がそんな簡単にお墨付き出さないで!
私は焦っちゃってんのに、エグムンドさんってばなんか変なスイッチ入っちゃったらしい。また滔滔とマーケティングなお話を始めちゃった。
「流行には上から下へと広がる場合と、下から上へと昇っていく場合があります。この新しい刺繍に関しては、上から下へ広げるべきでしょう。なにしろ、貴族令嬢が考案されたものだという点が大きい。貴族のご令嬢やご夫人がたのお衣裳を彩ることで、すぐに平民にも広がっていくはずです。まずはゲルトルードお嬢さまやコーデリア奥さまにこの新しい刺繍を使用したお衣裳をお召しいただき……」
どうしよう、いつもいい仕事してくれるロベルト兄もぶった切る気なんてこれっぽっちもない顔で、エグムンドさんの演説に聞き入っちゃってる。
ここはやっぱり私が切るしかなさそうだわ。
「ええ、でも、まず公爵さまとご相談をしないことには」
にこやか~に私が口をはさむと、エグムンドさんがハッとばかりに顔を向けた。
「公爵さま、で、ございますか?」
「ええ。このたび、エクシュタイン公爵さまがわたくしの後見人になってくださることが決まりましたの」
私はさらににっこりと言う。「公爵さまは意匠登録の件にも大変ご興味をお持ちなのです。それに、さまざまな援助もお約束くださっているので、公爵さまのご意向もうかがってみないことには最終的な判断はできないですね」
「すばらしいです」
私の言葉にすぐさま応じたエグムンドさんの顔に、なんだか悪い笑みが浮かんでる気が……気、気のせいよね?
「まさか公爵家の後見をお持ちだとは。しかも現王家と直接のつながりがお有りになるエクシュタイン公爵家、さすがゲルトルードお嬢さまです。公爵家の影響力をもってすれば、もはや流行の発生は約束されたも同然です。いや実にすばらしい」
な、なんですか、その眼鏡キラーンは? エグムンドさんって実はギルドの黒幕?
それに、さすがゲルトルードお嬢さまって……私、もしかしてロックオンされてる?
そんな、ちょっと冷汗が伝っちゃいそうな状況だってのに、今度はお母さまがエグムンドさんの話に乗ってきちゃった。
「ええ、エクシュタイン公爵さまはゲルトルードのことをとても高く評価してくださっていますから、どのような援助でもしていただけるに違いありませんわ」
お母さま、だからどうしてそんなに嬉しそうに語ってくれちゃうんですか!
私が止める間もなく、お母さまはさらに言ってくれてしまう。
「ほかにも『さんどいっち』を軍の携行食糧に採用してくださるというお話もありますし、意匠登録にしてもこの刺繍以外にも公爵さまは検討してくださっているようですのよ。もちろん、すべてゲルトルードが考案したものばかりですの」
「この刺繍以外にも意匠登録の検討を? それに軍の携行食糧でございますか? そちらについても、詳しくお伺いすることはできますでしょうか?」
うわーエグムンドさんがさらに眼鏡キラーンしちゃってるー。
身を乗り出して問いかけてきたエグムンドさんに、お母さまは小首をかしげた。
「そうね、あの布のことも、いまお話しておいたほうがいいかしら? ツェルニック商会さんもいらしていることだし。どうしましょうか、ルーディ?」
お母さまに問いかけられた私が答える前に、ツェルニック兄弟が食いついた。
「布? 何か布に関わるものでございますか?」
なんかもう、エグムンドさんは眼鏡キラーンだしツェルニック商会一行はギラギラしちゃってるし、まあいいんだけど、蜜蝋布についても相談しておく必要はあるわけだから。
「そうですね、ではあの布をここに持ってきてもらいましょうか」
私がうなずくと、部屋の隅に控えていたヨーゼフがすっと頭を下げた。
「それではせっかくでございますから、皆さまにはお茶を召し上がっていただきましょう。ただいまご用意しますので、少々お待ちくださいませ」
にこやかにそう言って客間から出て行ったヨーゼフを、私はなんだかあっけに取られたまま見送った。
って、えっと、もしかして、お茶だけでなく、おやつにホットドッグかフルーツサンドも持ってくるつもり? この部屋、いま何人いる? マルゴは追加で作ってくれてたけど、それでも足りる? そりゃ、蜜蝋布でフルーツサンドを包んで出すことができれば、プレゼンとしては一番いいんだけど……。
などと私が考えている間に、ヨーゼフはワゴンを押して戻ってきた。シエラも一緒だ。
そしてそのワゴンに積まれていたのは……あーもう、我が家の使用人が優秀過ぎる!
ホンットにいつの間に作ってくれちゃったのか、ホットドッグもフルーツサンドもどっさりワゴンに積み込まれてた。マルゴがさらに追加してくれたんだわ。
しかも、フルーツサンドはどれも食べやすいように蜜蝋布で包んである。その蜜蝋布も、私が作ったあの間に合わせのヤツではなく、かわいいギンガムチェックやストライプ柄の布をピンキング鋏でカットして作ったものだ。
いつの間に!
ホンットにいつの間に、蜜蝋布まで作っちゃったの!
1台のワゴンでは積みきれず、2台目のワゴンを押してきたシエラは笑顔を隠しきれてない。お使いで布を買ってきて、すぐに蜜蝋布にしてくれたんだわ。
1回だけ、私が目の前で作ってみせたのをちゃんと覚えていたのね。しかも、私がちょこっと、ピンキング鋏を使ってギザギザに切っておけばほつれ防止になるし、見た目もかわいいのよねーって、言った通りにしてくれてるし。ピンキング鋏をすぐに用意できるところがまた、さすが元お針子!
ヨーゼフがお茶の準備をし、ナリッサとシエラはそれぞれが座るソファの前に低いテーブルを用意している。
これもねえ……貴族は、平民と同じテーブルでお茶をすることはないの。
だから、ソファで並んで腰を下ろしている私とお母さまとは別に、ゲンダッツさんズに商業ギルドチームの2人、そしてツェルニック商会の3人のそれぞれに小さなテーブルが用意され、そこにお茶とおやつが配られることになる。
今日のおやつとなるフルーツサンドとホットドッグは、テーブル用のこぶりな浅いかごに盛られている。各テーブルにそのかごがひとつずつ配られ、それぞれかごから取り出して食べるという格好だ。
おやつの入ったかごと、お茶が全員に配られたところで、私は口を開いた。
「本日のおやつは、わたくしが考案したサンドイッチというお料理です。こちらの細長いパンのほうを、公爵さまは軍の携行食糧に採用したいとおっしゃってくださっています」
言いながら私は、リールの皮が巻かれたホットドッグをひとつ取り出す。
そしてお母さまに視線を送ると、お母さまは心得た顔でフルーツサンドをひとつ、かごから取り出してくれた。私はその蜜蝋布で包まれたフルーツサンドを示しながら、説明を加える。
「こちらの、薄く切ったパンを使ったサンドイッチを包んでいる布は、少し加工がしてあります。手で温めると自由に形を整えることができ、汚れても水洗いができるので繰り返し使えます。そしてこの布でパンを包んでおくとパンが乾きにくくなるため、保存にも最適です」
私たちは手にしていたパンをいったんかごに戻し、ティーカップに手を伸ばした。紅茶を一口飲み、またパンに手を伸ばす。
私がホットドッグを、お母さまがフルーツサンドを一口食べたところで、私はにっこりと笑って言った。
「では、みなさんもどうぞ召し上がれ」
眼鏡キラーンの黒幕登場?w





