7.魔力が気になるお年頃
うわーブックマークありがとうございます!
私が前世の記憶を思い出したのは12歳のときだった。
しばらくは前世の記憶と今世の記憶が入り混じってしまって混乱したけど、少ししたら落ち着いた。そんでもって、中世ヨーロッパ的な雰囲気でしかも魔法があるだなんて、ずいぶんとテンプレな異世界に転生しちゃったんだなあって思ったもんだ。
おまけに貴族のための学院まであるし、もしかしたらこの先、乙女ゲー的展開もあるのかもしれないとも思っちゃったわ。
ま、そんでもとりあえず私はモブ令嬢だな、すでに没落確定だし。華やかさのかけらもない地味子で、名前だってゲルトルードだからねえ。日本人的感覚からすると全然ヒロインっぽくないこの響き。私自身は、お母さまがつけてくれた名前だから気に入ってるんだけど。
魔法があって魔石もあるんだから、このレクスガルゼ王国でも辺境には魔物が出る。魔物からは魔石がとれる。ほかにも魔力を帯びた鉱石も採掘されていて、そちらと区別するために魔物からとれた魔石は魔物石、採掘された魔石は魔鉱石と呼ばれてる。
この国では平民も多少魔力を持っているのが普通で、いまナリッサがしたように自分の魔力で魔物石や魔鉱石を起動し、明りを灯したり料理のための火を起こしたりお風呂のお湯を沸かしたりなんていう、日常生活に必要な動力として使っている。
平民と貴族が違うのは、その魔力量だ。
貴族はたいてい平民よりはるかに多い魔力を持っており、しかもそれぞれ固有魔力を持っていることが多い。
固有魔力は大雑把に言って操作系と身体系にわかれている。つまり、火や水などの物質や現象などを操ることができる魔力と、特定の身体能力を著しく強化できる魔力だ。
固有魔力が操作系になるか身体系になるかは親、特に母親からの遺伝が大きく影響するらしい。
私も一応、お母さまと同じく身体系なんだけど……いや、これって同じ身体系魔力って言っていいの? っていうくらいモノが違うんだよね。確かに特定の身体能力を著しく強化できるっていう点では同じなんだけど、なんかもう、ナニがいったいどうなってこうなった? って感じなのよねえ……。
私が1人脳内突っ込みをして凹んでる間に、テーブルがセッティングされていった。真っ白なテーブルクロスの上に料理とカトラリーが並べられていく。
本来なら、私たちが席に着いたところで順番に料理がサーブされていくんだけど、いまは侍女がナリッサしかいないので簡略化したマナーにしちゃってるんだ。
でもそのおかげで、アデルリーナも一緒に夕食をとることができる。
まだ幼いアデルリーナは正式な晩餐の席に着くことが許されておらず、これまでずっと夕食は自室で1人きりで食べたんだよね。だから、いまこうやって簡略化した形で私やお母さまと一緒に食事ができるのが嬉しくてたまらないらしい。
それに私も、だだっ広くてテーブルの端と端では大声を出さないと聞こえないような晩餐室で、お母さまと遠く離れて座らされた食事なんて1人で食べてるのと変わらなかったし、ごくごく稀にあのゲス野郎と同席してピリピリした雰囲気の中で食べる晩餐なんかろくすっぽ味なんかしなかったけど、いまは毎日の食事が楽しい。
こんな数人が座ればいっぱいになる程度の朝食室で、アデルリーナやお母さまと他愛もないおしゃべりをしながら食事ができるんだもの。
でもアデルリーナは、カールが作ってくれた美味しいスープをいただきながら、ぽつんと言った。
「どうしてわたくしはまだ、魔力が発現しないのでしょう。魔力が発現すれば、わたくしもお姉さまやお母さまと、いつだっていっしょにお食事ができるのに……」
「リーナ」
私は思わずスプーンを持った手を止めてしまった。
貴族も平民も、だいたい10歳前後で魔力が発現し使えるようになる。貴族の場合、魔力が発現することでもう子どもではないとみなされ、正式な晩餐にも出席を許されることが多い。
「いつも言っているでしょう? わたくしも魔力が発現したのは12歳と少し遅かったのよ。お母さまも12歳になる直前だったとおっしゃっていたし。リーナはまだ10歳なのだから、発現していなくてもちっともおかしくなくてよ」
「それは……そうなのですけど……」
ああああやっぱりしょんぼり加減で眉を下げちゃうアデルリーナ、かわいすぎる。
ああもうかわいいかわいいかわいい、いやそうじゃなくて、ちゃんと励ましてあげないと。
「大丈夫よ、いずれリーナの魔力も発現して、わたくしたち母娘3人、これからいくらでも一緒にお食事をすることができるようになるわ」
それでもやっぱりしょんぼり加減のかわいいかわいい妹に、私はつい言ってしまう。
「それにね、お引越しが決まりそうなの。ここよりもずっと小さなタウンハウスよ。だから晩餐のときも広すぎないお部屋で、いまのようにおしゃべりをしながら、毎日楽しくお食事できるようになるわよ」
「本当ですか、ルーディお姉さま!」
はぅあっ!
ぱあっと花が咲いたようにその顔を輝かせるアデルリーナのかわいさといったら! もうどうしてこんなにもかわいくてかわいくてかわいく(以下略)。
すでに私の妹愛がダダ洩れ状態になってるのに、アデルリーナはさらに追い打ちをかけてくれちゃう。
「本当は、こういうことを、言ってはいけないのだと思うのですけれど……」
なんだかもじもじしながらアデルリーナが言う。「わたくし、こうしてルーディお姉さまとごいっしょできる時間がふえたことが、とってもうれしいのです」
ぐっふぁぁぁ天使!
ちょっぴり頬を染めて、恥ずかしそうに、また申し訳なさそうに、でも本当に嬉しそうに言ってくれちゃう天使よ、リアル天使! もうどうしろっていうの、こんなかわいいかわいいかわいいかわ(以下略)。
アデルリーナには、このタウンハウスから引越さなければならないということだけは、話してあった。
ただ、やっぱりまだたった10歳の天使のようなアデルリーナに、いま我が家がめちゃくちゃ切羽詰まった状態であるってことまでは、さすがにためらわれて私もお母さまも話すことはできなかったんだけど。
そんでも、一応父親であるあのゲス野郎が死んじゃって、しかも一気に使用人が辞めてっちゃったんだから、何かあるんだってことくらいこの賢くてかわいい妹が察していないわけがないと思うわ。だってアデルリーナはかわいいだけじゃなく本当に賢くてかわいいんだもの(かわいいは何度言ってもいいルール)。
ああホンット、それを思うとホンットに、オークションが成功して、当面の生活のめどが立ってよかった。
このかわいいかわいいアデルリーナがずっと笑顔でいてくれるよう、お姉さまはますます頑張っちゃうわよ!