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56.厨房でハンドメイド

 さて、蜜蝋ラップ作りである。

 まずは天火オーブンの予熱を開始して、と。

「天火をお使いになるのでございますか?」

 マルゴがびっくりしてる。まあ、そうだよね。油分をしみ込ませた布を天火に入れるとか、ちょっと考えにくいもんね。


「ええ。低温でほんの少し、そうね、10か20ほど数える間だけ天火に入れて熱するの。そうすると布にまんべんなく蜜蝋がしみ込むのよ」

「さようでございますか」

 なんだか納得したのかしてないのか、みたいな顔を、マルゴはしてる。

 そのマルゴに、戸棚から蜜蝋を出してもらった。

「あと、油も少し入れたいのだけど……」

 私はそう言いながら、油瓶が並んだ棚を見上げる。以前、自分で蜜蝋ラップを作ったときは、手近にあった油を適当に使ったんだけど、割と上手くいった。まあ、油は足さなくても大丈夫なんだけどね。

「マルゴ、乾きにくい油ってある?」


「乾きにくい油、でございますか?」

 問われている意味がわからないのか、マルゴは首をかしげている。

「ええとね、こぼしたままにしておいたら、固まらずにずっとベタベタしてるような油ということよ」

「それでしたら……」

 マルゴが戸棚からひとつ瓶を取り出した。「このセイカロ油がよろしいかと思います」

 セイカロ? 私の知らない素材キター! かな?


 瓶の中を見せてもらうと、なんだかオリーブ油みたいな淡い緑色をしているんだけど、香りはほとんどしない。瓶を揺すってみた感じでは、さらっとした油のようだ。

 マルゴによると、木の実から採れる油なんだって。オリーブ油の代替品認定でよさそう。

 あと、樹脂っていうか松脂の代わりになるようなものがあれば完璧なんだけど……こっちの世界に松ってあるのかしらね? まあ、松脂もあれば貼りつき具合がよくなるけど、なくても大丈夫だからいいか。


 小鍋を取り出し、マルゴに頼んで蜜蝋を削って入れてもらう。さすがマルゴ、高速でゴリゴリ削りまくってくれちゃった。

 今回は、かごの底に敷いてパンを包めるくらいの大きさがある正方形の布1枚と、カップや小皿のふたにできそうなサイズの丸い布が2枚。使う蜜蝋と加える油の量はまるっきり私の目分量なんだけど、余ったら余ったで別の端切れを追加してもいいし。


 蜜蝋と油を入れた小鍋を焜炉にかけ、マルゴがゆっくり溶かしてくれている間に、私は布を天火用の天板に広げていく。クッキングシートかアルミホイルを敷きたいところだけど、そんなのないんだから仕方ない。天板に直置きだ。後で湯洗いせねば。

 我が家の天火はとっても大きいから天板も大きくて、かなり大きいサイズのも含め3枚まとめて布を並べてしまえるのは利点だけど、洗うのが大変なんだよねー。


 とか思いながら布を並べた天板をテーブルに置くと、マルゴが蜜蝋と油を温めて溶かした小鍋を持ってきてくれる。

 私は小鍋を受け取り、傾けながらスプーンで中身をすくって布の上にぽたぽたと散らし始めた。


 テーブルの向こう側では、熱い油を扱うから離れていてと言っておいたアデルリーナ、それにお母さまも一緒に並んで、身を乗り出すようにして私の手元を見てる。

 なんかもう、妹だけじゃなくお母さままでめっちゃかわいいんですけど!

 ああああ、アデルリーナもお母さまも、あんなに目を見開いて真剣になって、それでいてどこか不思議そうな顔で……もうなんなの、この眼福! やっぱ私の家族は最高の最高にかわいくてかわいくてかわいくてかわいくてかわいく(以下略)。


 ちなみにマルゴと、それに布を扱うとなるとやっぱりどこか目の色が変わってくる元お針子シエラは、ほぼかぶりつきで私の手元を見てる。

 いや、溶かしたワックス垂らしてるだけなんで! しかも目分量の超適当なんで!

 でも蜜蝋を削ってお鍋で溶かしているから、日本でよく売ってる蜜蝋チップを使うより仕上がりがムラになりにくいし、加熱時間も圧倒的に短くて済むし、ホントに目分量の超適当でも結構きれいに作れちゃうのよね。


「はい、じゃあこの天板を、天火に入れます」

 私がそう言うと、マルゴが天火に入れるための取っ手を使って天板を持ち上げ、シエラが天火の扉を開けてくれた。


 こっちの天火、つまりオーブンは、ほぼ石窯って感じの造りなんだけど、加熱は火じゃなくて魔石を使ってる。黒っぽい魔石が熱を発すると赤くなり、さらに温度が上がると黄色へと変わっていくので、その色味で温度を推測するしかない。

 シエラが扉を開けてくれた天火を覗き込むと、低温になるよう加熱の魔石に魔力を通しておいたので、庫内の色はかなり赤っぽい。いや赤みが強すぎるかな。天火自体が大きいから、扉を閉めておいても予熱に時間がかかるんだよね。これだと、20秒くらいは加熱したほうがいいかも。


「マルゴ、天板を入れてくれる? 扉は閉めないで様子を見ながら加熱するので、私が言ったらまた天板を取り出してほしいの」

「承知いたしました」

 天板を庫内に入れてもらい、私は1、2、3……と数える。

 20まで数えたところでマルゴに言った。

「マルゴ、天板を取り出して」

 すぐにマルゴが取っ手を差し入れ、天板を引っ張り出してくれた。


 うん、焦げてない! ちゃんと布全体にワックスがしみてるし、バッチリだ!

 私はフォークを手に取り、天板の上の布の端っこに差し込む。そして布の裏側に空気を入れるように持ち上げた。

「後の2つもこうやってフォークで持ち上げてくれる?」

 私が言うとマルゴとシエラがすぐに動いて、フォークを使って布を持ち上げてくれた。天板に置いたままだと、布の裏にワックスがたまって白くなっちゃうんだよね。

 私は指先でちょんちょんと布を触り、そろそろ大丈夫かなと布の端っこをつまんで天板から取り出す。


「熱いけど、気をつけてこうやって持ち上げて、こうやってパタパタと振って」

 言いながら私が取り出した四角い布を何度か振ると、すぐに布がごわっとした感じに固まっていく。

 マルゴとシエラも慌てて布をつまみ上げ、そしてパタパタと振ってくれる。

「はい、完成! あとはもうこれを完全に乾かすだけよ。乾いたら使ってみましょうね」

 私は笑顔で言った。


蜜蝋ラップの作り方はいろいろあると思うので、突っ込まずにいていただけると助かります(汗

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