44.頼れる人たち
100000PVありがとうございます! と書く前に150000PVを超えてしまいました!
アタフタヽ(´゜д゜`;≡;´゜д゜`)ノアタフタ
作者がまったく状況に追いつけておりません(爆
皆さま本当にありがとうございます!
「どのような具合なのだ?」
公爵さまが私の前に膝を突き、声をかけてくれた瞬間、私は泣きそうになった。
たぶん、安心したんだと思う。
私は歯を食いしばって、なんとか泣くのを堪えた。
「わたくしは大丈夫です。でも、ヨーゼフが……」
「……大丈夫、です。ゲルトルードお嬢さま」
倒れているヨーゼフがうめくように言った。
「ヨーゼフ! 無理はしないで!」
悲鳴のように言ってしまった私の横から、ナリッサがさっとヨーゼフに手を伸ばす。そしてヨーゼフの具合を確認すると、ナリッサは言った。
「ゲルトルードお嬢さま、客室を使わせていただいてよろしいですか? ヨーゼフさんを運びます」
「もちろんよ、ああ、グリークロウ先生を呼ばなければ……!」
「カール、グリークロウ先生を」
「わかった!」
ナリッサがすぐにカールに声をかけ、返事と同時にカールが医者を呼びに駆け出す足音が聞こえた。
そしてナリッサはすぐに次の指示を出す。
「シエラ、2階の一番手前の客室を開けてちょうだい。ハンスは厨房へ行ってお湯をもらって客室へ運んで」
「は、はい!」
「はい!」
返事をしたシエラとハンスのほうへ顔を向け、私はハッと体を硬くした。
その私の耳元に、ナリッサがささやく。
「ここは私にお任せください。お嬢さまは奥さまのおそばに」
私の視線の先、階段の上には、お母さまが立っていた。
真っ白な顔をして、まるで蝋人形のようにすべての表情を失って、お母さまは立ち尽くしていた。
私はぎゅっと奥歯を食いしばる。
「ありがとうナリッサ、任せるわ」
そして公爵さまに顔を向けると、公爵さまもなぜかうなずいてくれた。
「行きなさい。執事は私が運ぼう」
えっ? と思ったけど、私はとにかくお母さまが心配で、お願いしますと頭を下げてすぐに階段を上がった。
「お母さま?」
そっと声をかけても、お母さまは動かない。ただ、その体が細かく震えている。
そのお母さまのスカートの陰から、アデルリーナが泣き出しそうな顔をのぞかせた。
「ルーディお姉さま……」
「大丈夫よ、リーナ」
私は妹を抱き寄せ優しく言った。「お母さまは以前、とても恐ろしい思いをされたことがあるの。そのときのことを思い出されてしまったのよ」
こういう状態のお母さまからは、アデルリーナは離していたほうがいいと思う。アデルリーナをこれ以上不安がらせたくない。でも、いまは誰の手も空いていない。
どうしようかと私が迷ったとき、階段の下から声がかかった。
「アデルリーナお嬢さま、みなさんのお夕食を作るお手伝いをしていただけませんかねえ?」
なんとマルゴまで厨房から出てきていた。
マルゴはゆっくりと階段を上がってくると、その肝っ玉母さんと呼びたくなる顔でにっこりと笑いかけてくれる。
「奥さまが落ち着かれましたら、お嬢さまがたと一緒にお夕食を召し上がられますからね。アデルリーナお嬢さまがお手伝いくださったお夕食なら、奥さまは特にお喜びになりますよ」
マルゴに振り向いたアデルリーナがこれ以上お母さまの顔を見てしまわないよう、私はさり気なく後ろからアデルリーナの肩に手を置いてその顔を覗き込んだ。
「リーナ、お母さまはすぐに落ち着かれるわ。そうね、リーナがお手伝いしてくれたお夕食だなんて、お母さまは間違いなく喜んでくださるし、わたくしもとっても楽しみよ。だから、マルゴのお手伝いをしてきてもらえるかしら?」
私の言葉にアデルリーナがうなずいた。
「さ、アデルリーナお嬢さま、厨房へ参りましょう。今日はお野菜たっぷりのシチューですよ。これは秘密なんですがね、あたしのシチューにはチーズも入れるんですよ」
「チーズの入ったシチューなの?」
「ええ、ほんのちょっぴり、チーズをおろし金でおろして入れるんですよ。それだけで、シチューがぐっと美味しくなるんでございます。今日はそれを、アデルリーナお嬢さまにお手伝いしていただきましょうかねえ」
ふつう、貴族家の令嬢が、いくら幼いからといって厨房へ入って料理を手伝うなんてことはあり得ないはずだ。
でも、マルゴが来る前、人手がまったく足りていなかったとき、カールが食事の準備をするかたわらでアデルリーナの相手をしてくれていたことを、マルゴはすでに聞いていたんだと思う。だからとっさに、アデルリーナを引き受けてくれたんだろう。
ようやく少し笑みが浮かんだアデルリーナの手を取って階段を下りていくマルゴに、私は心の中でありがとうと言った。マルゴはその声が聞こえたかのように振り向いて私にうなずき、自分の胸をポンとたたいてみせてくれた。
階段の下、玄関ホールに目をやると、驚いたことに公爵さまとイケメン近侍さんがヨーゼフを両脇から支えて立ち上がらせてくれていた。
「公爵さま、お召しものが汚れますので……」
恐縮するヨーゼフの言葉に、公爵さまは淡々と答えている。
「魔物討伐の遠征時には、私も負傷者の治療にあたる。案ずる必要はない」
なんか……なんか、いろいろびっくりだわ、この公爵さまは。
それでも……ヨーゼフに鞭をふるうようなクズ野郎に比べたら、公爵さまは百万倍くらい信用して大丈夫だと思う。私はやっとそう思えた。
「お母さま」
私はそっとお母さまの手を取った。
お母さまはいまもすべての表情が抜け落ちた真っ白な顔で、ただただ細かく体を震わせている。
「大丈夫です、お母さま。わたくしたちの周りにはもう、わたくしたちを害するような者はおりません」
お母さまの背中にそっと腕を回し、私はお母さまを抱きしめる。
ゆらり、と……お母さまの体が傾き、私はそのまま支えるように歩きだした。





