363.スヴェイとの内緒話
大晦日ですが1話更新でーす。
で、まあ……あの後、図書館で王太子殿下とその側近、特に塩令息のフリードヘルムさまがナニをやらかしてくれちゃったのかを、私はスヴェイに説明した。
うん、スヴェイも頭を抱えちゃうよねえ。
「これは……おそらく、フリードヘルムさまには何らかのお咎めがあると思いますね」
おお、お咎めをしてくださっちゃうの?
スヴェイの言葉に、私はちょっと目を見張っちゃった。
「フリードヘルムさまが王太子殿下の側近になられたのは、まあ、正直に言って政治的配慮からなのです」
スヴェイは苦笑しながら教えてくれる。「ソルデリーア侯爵家は、我が国の塩を掌握しているというだけでなく、王家にとってちょっと扱いが難しい貴族家でして……ご令嬢を王太子妃にお迎えになるくらいならご令息を側近に、ということだったのですよね」
うわ、そんなぶっちゃけた話をしてくれちゃっていいの、スヴェイってば。
でもスヴェイは、さらにぶっちゃけたことを教えてくれた。
「王家としてはむしろ今回のことを、フリードヘルムさまを王太子殿下から遠ざける口実として利用されると思います。具体的な処罰があるのではなく、しばらく謹慎するようにくらいのお達しをして、そのまま遠ざけてしまうような形で」
「それは……その、以前からフリードヘルムさまのふるまいに問題があると、王家はお考えだったということなのかしら?」
私もぶっちゃけた質問をしてみたんだけど、スヴェイはあっさりとうなずいてくれた。
「フリードヘルムさまご本人もそうですが、ソルデリーア侯爵家自体に問題がありまして」
「まさか、王家に塩を渡さないとか、そんなことまでされているなんてことは……」
「それに近い感じですね」
マジですかい?
いや、自分で問いかけておいてなんだけど、まさかそこまで……だわ。確かに王家の方がたは、評議会で承認されたお料理しか公式には食べられないとか、食に関してかなり制限があるって話ではあったけど。
でも本当にマジな話らしい。
スヴェイはさらに言った。
「陛下はもう、塩は輸入に頼るおつもりです。その算段もほぼできています」
うええええええ、スヴェイ、それって私が聞いちゃっていい話なの?
冗談抜きで私の顔が引きつってきちゃったわ。
そこでさらに、スヴェイはとんでもないことまで言い出した。
「しかし、ドロテアさまですか……王太子殿下、なかなか見る目がおありですね」
そ、それは……それは確かに私もそう思うけど。
でも、国王陛下の側近だったスヴェイがそんなことを言うっていうのは……。
「もしかして、陛下……というか、王妃殿下も、まさかその、テアを王太子妃候補に考えていらっしゃる、なんてことは……?」
「そうですね、あれほど優秀なご令嬢ですから」
って、そんなにあっさり肯定しちゃわないで!
いやでも、王妃さまが今年の1年生にものすごく優秀な女子がいるって……そういうお話を王太子殿下にされていたっていうのは、つまりそういう意図があったからなの?
ちょっと本気で焦っちゃった私に、スヴェイは声を落としてさらに言ってきた。
「私もやはり気になったので、調べたのです。ドロテアさまは、そうとう特殊な固有魔力をお持ちのようです」
ハッと目を見張った私に、スヴェイはうなずく。
「ドラガンさまもかなり特殊な固有魔力をお持ちのようなのですが……ドロテアさまも国の研究対象になっておられます。しかも、最高機密扱いです。そういうことも含めて、陛下と妃殿下はドロテアさまに注目されているのだと思います」
えええっと、あの、も、もしかして……本当に? 本当にテアちゃんが王太子妃になっちゃうなんてことが、あり得るの?
いや、でも……テアがあのとき言った、自分は切り札を持ってる、って……そういうこと?
だよね? 自分は国の研究対象になるほどの特殊な固有魔力を持ってるから……多少のことは目をつぶってもらえるって、そういう意味で言ってたってこと、だよね?
どうすんの、テアちゃん!
本人はまったくその気がないどころか、王太子殿下への好感度を大暴落させちゃってたんだけど……ホントに本気でそういうルートが用意されちゃってるとか?
テアちゃんってやっぱりヒロインだったの? 勇者じゃなくて?
なんかもうすっかり焦っちゃった私の前で、スヴェイがくすりと笑う。
「まあでも、こういうことはご本人のお気持ちが伴わないと難しいですから。可能性がまったくないわけではないと私も思いますが、現時点ではなんとも申し上げられないですね」
スヴェイーーー!
焦らせないでようぅぅー。
「それにドロテアさまの場合、もしご本人がその気になられたとしても、子爵家のご令嬢で有力なご親族もいらっしゃらないようですから、後ろ盾が弱いという点が案じられるのですが……」
そう言ってスヴェイは、なんだか意味ありげな目で私を見る。
「いや、これについてもやはり、もし本当にそうなった場合は、ですね」
にっこりとスヴェイは笑ってくれたんだけど、なんなのよホントに、何か含みがありそうすぎるんですけど?
「それでは、私のほうからもご報告いたします」
って、私が眉間にしわ寄せてても、スヴェイはさらっと表情を改めて言ってきた。
「あの伯爵家の令息3名ですが、まず来春の卒業は取り消しになりました」
えっと、留年ってこと?
あのバカ丸出しトリオ、3年生だったのね? それを卒業させないってことは、留年させてもう1回3年生をやらせるってこと?
いや、私としては、ああいう連中はさっさと学院から追い出してもらえたほうが助かる気がするんだけど。
スヴェイはさらに言う。
「さらに、あの3名は特定科目免除特例からも除外されます」
「特定科目免除特例?」
なんですか、ソレ?
と、そのまんま顔に出しちゃった私に、スヴェイが教えてくれる。
「中央学院では、特定の科目に秀でていた場合、ほかの科目が合格点に達していなくても、特例で卒業が認められるのですよ。特殊な固有魔力を持っている生徒は、その固有魔力の種類によっては履修できない科目や授業もあったりしますから……ゲルトルードお嬢さまがご存じのかたでいらっしゃいますと、魔法省のヴィールバルト・フォイズナーどのがそうですね」
ああ、確かに。精霊ちゃんは、ほかの生徒と一緒に授業を受けることがほとんどなかったって、リケ先生とファビー先生が言ってたもんね。
まあ精霊ちゃんの場合……ダンスの授業とか受けるの、まず無理そうだしね。相手役が、たとえ先生であっても片っ端から卒倒しちゃいそうだもん。かと言って、あれだけ優秀な人をダンスの単位が取れなかったからって卒業させないわけにはいかないよねえ。
と、私は納得したんだけど。
そこでスヴェイが、口元をちょっとゆがめて笑った。
「しかしいっぽうでは、成績をカネで買えず不合格になった科目があっても、カネで買った満点の成績が1科目でもあれば卒業させてもらえる、そういう制度にもなってしまっていますね」
あー、そういうこと!
ファーレンドルフ先生みたいに絶対買収されない先生がいるのに、しかも算術って必修科目なのに、それでも卒業してしまえるのってそういうカラクリだったのね?
「そもそも、買収に応じて成績を売る教師がいること自体が問題なのですよね」
スヴェイが重い息を吐く。「しかも今回は学院の教師も生徒への加害に加担してしまっていましたので……そういう教師たちへの警告も含んでいます。本来なら、そのような教師は全員即刻解雇するべきなのですが……陛下におかれましては、まずはこれを機に最低限の学業を修めることができていない生徒は容赦なく留年させるようにしたいとのことで」
うん、それはもう間違いなく正しい方向だよね。
いくらなんでも、足し算引き算もまともにできないようなレベルで卒業させるべきじゃないわ。
私も思わずうなずいちゃったんだけど、スヴェイはさらに言ってきた。
「我が国の貴族は18歳という年齢に達したことだけでなく、王都中央学院の卒業をもって成人とみなされます。ですから、学院を卒業できないということは、正式な成人とは認められないということでもあるのですよ。まあ、上位貴族家の嫡男で跡継ぎだとかいうような連中が18歳になっても学院を卒業できず、何年も留年するなどということになれば」
ニヤリとスヴェイが笑う。「場合によっては廃嫡もあるでしょうね」
おおっと、それはまた……卒業を取り消され、しかも今後はお金で成績を買ってごまかすこともできないよっていう処分は、私が最初に感じたよりはるかに重い罰だってことか。
いや、でも真面目に勉強すればいいってだけの話ではあるよね? 真面目に勉強して、最低限の合格ラインに達すれば卒業させてもらえるのなら、罰としてはかなり甘いほうだと思うんだけど。
ただ、私としてはやっぱり、あの3バカにはとっとと学院から出ていってもらったほうが……。
私の懸念を、スヴェイもその通り言ってきた。
「問題は、あの3名がこの処罰によってゲルトルードお嬢さまやヴェルツェ子爵家のお2人に対して逆恨みをしてくる可能性が高い、ということですね」
それなー。
正直に私は顔をしかめちゃったんだけど、スヴェイも思いっきり顔をしかめてる。
「陛下からは、ゲルトルードお嬢さま並びにヴェルツェ子爵家のお2人に害が及ばぬよう学院の警備を強化し、さらにあの3名には監視をつけるとのお言葉をいただきましたが……ゲルトルードお嬢さまご自身も十分にご注意ください。もちろん、ヴェルツェ子爵家のお2人にも早急にこの懸念はお伝えいたします」
ホンットに気が重いわ。ああいう連中って、まず間違いなく自分の行いを反省するのではなく、あくまで自分は悪くないとしか考えないんだよね。それどころか、自分たちは悪くないのに誰かのせいで悪者にされた、つまり自分たちこそが被害者なんだから、自分たちを悪者にしたその加害者に報復するのは当然だ、ってとこまでいっちゃう。
まったく、はた迷惑どころの話じゃないわよ。
「わかりました。とりあえず、学院内ではこれまで通り、常にわたくしたち3名で行動するようにします」
「はい、それがよろしいかと」
うなずいたスヴェイが、ちょっとためらいがちに訊いてきた。
「それで、その……ゲルトルードお嬢さまがお持ちの固有魔力なのですが、それによってご自身をお護りになれるような種類のものなのでしょうか?」
「ああ、そうね、わたくしの固有魔力について、貴方には説明しておいたほうがいいわよね」
そりゃーもう精霊ちゃんいわく【全身防御】だからね、私の固有魔力は。そのまんま、自分の身を護るためにある固有魔力だもの。
それで私はそのように、スヴェイに自分の固有魔力について説明したんだけど。
「えっと、あの……つまり、ゲルトルードお嬢さまの身体に対するあらゆる攻撃を無効化するだけでなく、その副産物として怪力もお持ちだと……?」
スヴェイの目が点になってます。
「いや、でも、あの魔剣……あれほどの大きさに変化させられて、しかも問題なく振れるわけですから……」
その目を泳がせながらも、スヴェイはあの魔剣の変化を見てたおかげで理解してくれたっぽい。
「でも、正直なところ、わたくしも自分の固有魔力についてよくわかっていないの」
「そうなのですか?」
「ええ、わたくしはずっと【筋力強化】なのだと思っていて……我が家では、わたくしの固有魔力について家族と話す機会がまるでなかったのよね。本来なら、お母さまと詳しく話して親族に同じような固有魔力を持つ人がいなかったかとか……」
そう話しながら、私は思った。これについては、スヴェイには知っておいてもらったほうがいいよね。この際だからまとめて話してしまおう。
「スヴェイ、貴方にはその辺りの事情を話しておくわ。ちょっと長い話になってしまうけれど」
みなさま今年も本当にお世話になりました。
本作を無事に続刊させていただいただけでなく、全巻重版に短編集も発売決定なんて、本当に本当に嬉しいです。
来年もまた頑張ってまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします!





