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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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362.わかっちゃうからこそのもやもや

本日1話更新です。

 あーもう、そんな時間なのね?

 私もテアちゃんも、なんかもうぐったりと疲れちゃって大きく息を吐いちゃう。

 第2ラウンド、ここでタイムアウトですわ。


「とにかく、わたくしたちがいま話したことを真剣に考えていただきたいの、デズデモーナさま」

 テアちゃんが最後にくぎを刺す。「その上で、わたくしに謝罪していただきたいわ。もちろん、形だけの謝罪は受け付けませんから、そのおつもりで」


 それで私たちは腰を上げたんだけど……ガン君が私の手元を示し、自分の手をにぎったり開いたりしている。

 んんん? ナニ?

「あ、ルーディ、魔道具を解除しなきゃ」

 テアが気付いて言ってくれた。


「あ、そうか、これ……えっと、手放せば解除できるの?」

 言いながら私は、自分の手でにぎっていた魔道具を放してテーブルに置いた。

「これで聞こえる?」

「うん、聞こえる」

 ガン君がうなずく。「すごいな、そんなに小さいのにこれだけきっちり遮音できるんだ、その魔道具」

「スヴェイが貸してくれたの」

「そうなんだ」


 と、何気なく会話してるんだけど、それでもガン君がげっそりしてるのがわかる。

 ええもう、ガン君もお疲れよね。

 その、勇者テアちゃんの件については……後日また考えましょう。そうしましょう。


「ほかのみなさまは?」

「先輩がたはみなさん、もう図書館を出られたよ」

 テアちゃんの問いかけにガン君は答える。

「アルトゥースどのは、ファーレンドルフ先生に報告しに行かれた。ペテルヴァンスどのも、ご帰宅されて姉君に報告されるって」


 先輩がた、ご報告よろしくお願いいたします。

 まあ、ペッテ先輩とアル先輩なら、間違いなく事実をきっちり報告してくださるだろうからね。その辺はもう信頼していますので。


 談話室を出て図書館の入り口の受付のところまで行くと、スヴェイが待っていた。

 私たちが退館手続きをしたところで、スヴェイが言ってくる。

「ドラガンさまとドロテアさまは、このまま寮へお戻りになりますか?」


 そうか、スヴェイがいるからドラガンくんに送ってもらう必要はないんだよね。デズデモーナさまも私と一緒に個室棟へ戻ればいいんだし。

 テアちゃんとガン君が顔を見合わせ、そしてガン君がちょっと脱力したように答えた。

「そうさせていただけると助かります」

「そうね、もう遅くなってしまったし……スヴェイさんが一緒ならルーディも安全だし」


 テアちゃんもそう言ってくれたので、私たちはそのまま図書館前で解散となった。

「また明日ね、ルーディ」

「うん、また明日」

「テアも、ガン君も、また明日ね」

 ええもう、今日もまたあまりにも濃すぎてぐったり疲れた1日だったけど、明日もまた登校なのよね……。


 テアちゃんガン君と別れ、私はデズデモーナさまと一緒に個室棟へと歩き出した。

 デズデモーナさまは、黙り込んだままだ。

 オードウェル先生が言われていた通り、デズデモーナさまがいま何を考えて、どういう答えを出すかは、本当に彼女のこれからの人生を左右すると思う。


 スヴェイも私たちに付き従ってるけど、何も問いかけてこない。まあ、デズデモーナさまを送り届けて私たちだけになったら、いろいろ話さなきゃなんだけどね。


 私は、ずっと黙ったまま考え込んでいるらしいデズデモーナさまを横目に見て……やっぱり彼女には難しいかなあ、と懸念してしまう。

 だってね……今日の話の内容からして、デズデモーナさまはおそらくずっと、周りの誰からも、自分を尊重してもらったことがないんじゃないかって思うから。


 親御さんも……お父さまであるデルヴァローゼ侯爵さまは、どう考えても問題アリだよね。お母さまの話は出てこなかったけど……でも、彼女のようすを見る限り、そういう父親に対して自分の娘を守ろうとしていたとはどうにも思えない。むしろ……お母さまもお父さまと一緒に、娘であるデズデモーナさまのことを否定することばっかりしてるんじゃないかなあ。


 それに、家の中で当主と夫人が自分の娘にそういう態度をとってると、使用人たちも同じような態度になっていくんだよ。家の中で権力をにぎってる人たちがないがしろにしてるんだから、このお嬢さまにお仕えする必要なんかないってことね、ってなってっちゃうの。


 私の場合も、あのゲス野郎がアレだったから、ゲス野郎に媚びてる使用人たちはみんな、令嬢である私のことを見下してた。

 一応、うわべではお嬢さまなんだからっていう扱いは見せるけど、裏へ回ればもう平気で、あのお嬢さまにはゴミでも食わせておけばいい、って態度だったもんね。


 それでも私は、お母さまが守ってくれた。使用人の中でもヨーゼフはずっと私の味方でいてくれてたし、数年前からはナリッサ、それにカールも私の味方でいてくれた。

 しかも、私は人生二周目だからね。

 そういうところは、やっぱりちゃんと『わかってる』んだよ。


 誰からも愛されず、大切にしてもらったことがない子どもは、人を大切にするってことはもちろん、自分自身を大切にするっていうことも、どういうことなのかがわからない。

 私は、実感としてそのことが理解できてる。

 そりゃーもう、あんまり思い出したくないけど、前世では毒親家庭で育ったからね、私は。


 大学を卒業して、なんとか就職した会社はもう入社初日にしてブラックだってことが完全に見えちゃってたけど、それでも辞めることができずズルズルと消耗させられ続けちゃったのは……家に連れ戻されたくないっていう、その一心だったから。


 無職になって収入がなくなれば、またあの親が私を支配する。

 それだけは、絶対に嫌だった。だから、このままでは自分がつぶれてしまうこともわかってたのに、そこにしがみつき続けた。

 しがみつく以外の方法が、私にはわからなかった。

 自分が肉体的にも精神的にもボロボロにされちゃってるのに、それでも辞めることができないっていうのはつまり、自分を大切にするってことがどういうことなのかがわからないからなんだよ。


 自分がどれほど理不尽な扱いを受けているのか、自分でもちゃんと理解できてるのに……その理不尽さに逆らったとたん、さらに理不尽なことを要求されるっていう状況しか知らないからね、毒親育ちの子どもって。

 だから、ただひたすら我慢して、ただひたすら要求される理不尽なことすべてに必死に応えるしかない。それ以外の対処方法がわからないんだ。


 それでも私は、本当に奇跡的なことに、学校でいい先生に出会えて、先生に大切にしてもらった経験があったから……自分を大切にすることや、誰かを大切にすることを、うっすらと理解できてたんだと思う。


 ギリギリのところでブラック企業から抜け出して、それから本当にありがたいことに知り合いの紹介でまったく畑違いの芸能事務所に就職して……私は新しい職場ですごく大切にしてもらった。

 考えてみればごく当たり前のことだと思うんだけどね、真面目に仕事に取り組んできちんと成果を出せば、それをきちんと評価してもらえたんだよね。


 社長の方針は、明確だった。芸能なんていう人気商売は、どれだけ努力してもダメなときはどうやってもダメだからこそ、評価できる成果はどんな小さなものでも必ず評価する。また、たとえ成果は出なくても、努力をしている相手には必ず敬意を払う。

 私は、相手に敬意を払うとはどういうことなのか、相手を尊重するっていうのはどういうことなのか、あの職場で教えてもらった。


 人ってやっぱり、自分が誰かに大切にしてもらって初めて、自分も誰かを大切にしようって思えるんだよね。

 まあ、業界全体のノリが強烈に体育会系だったのと、独特な敬意の払い方を要求してくる人たちも結構いたっていうのが、ちょっとしんどくはあったけどねえ。


 ただ、前世の日本でも、社会全体が経済的にも精神的にもすごく貧しくなっちゃって、自分のことも、誰かのことも、大切にする余裕なんてなくなってしまってた。

 周りの人たちが、とにかくもうやったもん勝ちでズルをしてて、それどころかそうしないヤツは馬鹿にされて踏みつけにされるのが当然、みたいな感じになっちゃってて……。

 正直に言うと、あの業界でもほかのほとんどの事務所はそういう感じだったんだよ。


 なんかね、デズデモーナさまはまさにそういう状況に置かれてるんじゃないかな、って……思っちゃうんだよね。『嫌でも我慢するしかない』って言ってる時点でもう、前世のあの頃の私と同じだって思っちゃうんだよ。

 デズデモーナさまの場合は、ヘタに侯爵家のご令嬢っていう地位の高さがあるもんだから、自分に要求されている理不尽さをほかの人に要求することで……弱い者がさらに弱い者をたたくという構造があるおかげで、自分をごまかしてしまえるからわかりにくいのかもしれないけど。


 デズデモーナさまは歳の離れた幼い弟さんしかいないし、公爵さまみたいに頼りになるお姉さまがいたとかそんなこともないんだもんね。

 それに、学校っていう、家庭とは異なる別の社会に参加したのもこの学院が初めてだろうから、それこそオードウェル先生のようなすばらしい先生と出会えていたなんてこともないはず。家庭教師なんて、当主に逆らってまで子どもを守ろうとはしてくれないでしょ。そもそも、当主に逆らった時点でクビにされちゃうもん。


 そんな環境で育った子どもが、自分を尊ぶとか、ましてやほかの人を尊ぶとか、どれだけ頭で理解しても……テアちゃんが言った通り、言ってはいけないことを口にしてはいけないとか、そういうことは理解できても、実感としてまるでわからないと思うわ。


 そしてたぶん……こういう自尊意識の欠落なんてことは、テアにはわからない。

 デズデモーナさまが置かれてる環境がどういうものかなんて、あのどこから見ても家族にたっぷり愛されて大切に育ててもらったに違いないテアちゃんには、わからないと思う。


 それでもテアには、きちんと自分の立場や意見を相手に伝えるだけの誠実さがある。

 こういうとき、ただもう感情的にこの人大嫌いってなっちゃって、相手を完全に無視したり、場合によってはいじわるしちゃったりする人のほうが、たぶん圧倒的に多いと思うのに。

 そうではなくて、きちんと向き合おうとするテアちゃんは本当に偉い。


 もちろん、私もデズデモーナさまがテアに言ったことは絶対に許せないし、絶対にちゃんと謝罪してもらいたいと思ってる。テアの誠実さに、同じように誠実に応えてほしいと思ってる。

 でも同時に、デズデモーナさまが置かれている状況が見えてきた私は……一概に非難しちゃうことにはためらいを覚えちゃうんだよね……。


 そんなことを考えているうちに、私たちは個室棟に到着した。

 デズデモーナさまの個室は私の個室とは別の棟なので、ロビーまでお送りしてそこで別れた。

 私はなんとなく、テアやガン君に言ったように『また明日』とは、言えなかった。デズデモーナさまも言わなかった。


 うーん、もやもやするんだけどなあ。

 おとなりさんなんだし、できることなら私はデズデモーナさまとも仲良くしたい。

 だけどこういうことって、人が言葉で説明してあげてもダメなんだよ。自分で気付いて、自分で理解して、自分で実感しなければ、本当の意味で自分を変えることなんてできない。

 気付くためのお手伝いくらいなら、私にもできるかもしれないけどねえ……。


 私も自分の個室棟へ戻ると、ロビーにはナリッサが待っていた。

 ごめんねナリッサ、こんなに遅くなっちゃって。

 私はもう乗馬服のまま帰宅することにした。スヴェイも、公爵さまにご報告されることが何かお有りなのだとしても、今日はもうやめておきましょうと言ってくれたし。


 そして私たちは馬車に乗り込み……今日はスヴェイも後ろの立ち台ではなく、一緒に馬車に乗り込んできた。

 そんでもって早速、スヴェイが笑顔で問いかけてくる。

「それではゲルトルードお嬢さま、本日あれから王太子殿下とはどのようなことに?」

 はい、スヴェイに報告というか相談タイムのスタートです。


なかなか更新できなくて申し訳ないです(´・ω・`)

でも、いいお報せが溜まってます!

明日は活動報告でたくさんいいお報せができる予定ですので!

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書籍8巻2026年3月1日株式会社TOブックス様より発売です!
今回もたっぷり書き下ろしています!
短編集の発売も決まりました!

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― 新着の感想 ―
身分絶対至上主義な環境で育ってきたデズデモーナ嬢 可哀想だと思うけど、ルーディちゃんに依存して来ないで欲しいなぁ とはいえ砂漠でオアシス見つけたようなもんだし、不可避でしょうか… ルーディちゃんの前…
事情があったとしても、やっていいこととやってはいけないことがあるということは厳然たる事実なので、デズデモーナ嬢がそれを理解できるかどうかに名前の意味の通りの人生になるかかかってきますよねえ… とはいえ…
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